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転生魔王は友達を作る

二人の追跡

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 光矢 真尾と、如月 さなによるデート当日……
 待ち合わせ場所である駅前に、一人の少女の姿があった。

 彼女の名は、静海 あい。姿を隠すようにして、柱の影から対象……さなの姿を、確認している。
 普段はつけない伊達メガネをかけ、帽子を目深に被っている。

 時間は、待ち合わせ時間の四十分前……
 つい先ほど、さなが駅前の噴水前に、姿を現したところだ。

「もー、さなちゃんったら」

 影から、さなの姿を見やりながらあいは、眉にしわを寄せる。
 その姿は、見る人が見たら不審に思うかもしれない。

 さなの恰好は、わかりやすくおめかししている。
 あいと遊ぶ時だって、あんな格好をしているのは見たことがない。

 白いワンピースは清純なさなによく似合い、かつ涼しげ。
 それでいて、スタイルのいいさなの容姿をよく駆り立てている。

「ボクが着ても、ああはならないかなぁ」

 同じ女の子の中に居ても、小柄なあい。
 現在彼女は目立たないように、ラフなTシャツと短パンを着用している。

 本当はああいうスカートとか履いてみたいが、きっと似合わないだろう。
 そういった自己分析は、もう何年も前に済ませている。

 いや、今はあい自身のことはどうでもいい。
 問題は……

「デートは男を待たせてナンボだって、言っておいたのに。
 こんなに早くなんて」

 あくまであいの自論である。
 デートとは、女の子は余裕を持って、男を待たせるくらいがちょうどいいのだ。

 昨日のこと……突然の、真尾からのデートのお誘い。
 その場ではなにもなく別れたが、その後家に帰ってから、さなと電話で今日のことを話しあった。

「少しはアドバイスしたけど……大丈夫かな」

 とはいえ、あいにだってデートの経験はない。
 昔は男の子と遊んだことはあるが、あくまで小学生時代。
 男の子に混ざって、遊んでいたくらい。

 とりあえず、先ほどの男を待たせるのと、おしゃれは忘れずに……ということだけは言った。
 まさか、ああも気合いを入れてくるとは思わなかったが。

 そして、いざ当日。
 さなから、今から家を出るとメッセージを貰い、あいは慌てて追いかけてきたわけだ。

「これじゃストーカー……いやいや、親友のためだから」

 あくまで、親友の初デートがうまくいくか、見届けるため。
 そしてあわよくば、今後自分がデートをするときに参考にさせてもらうため。

「それにしても……あと三十分近くあるよ。
 さすがに速すぎだよさなちゃん」

 さなのことだ、相手を待たせるのは気が引けたのだろう。
 だとしても、早過ぎる。

 このまま、あと三十分……すでに、周りの男はさなに声をかけようとかチラチラ見ている。
 ナンパされないとも、限らない。

 そうなれば……あいは、さなには内緒で来ているが、バレてでもさなからナンパを遠ざけなければ……

「って、あれ?」

 ナンパ除けを決意した頃……ふと、あいの視線の先に映る人物。
 それは、まだかまだかと思いながらも、あと三十分は待たなければならないと覚悟していた人物。

「こ、光矢クン?」

 今回のデート相手が、現れたのだ。
 まだ三十分も、あるというのに。

 彼も、同じくおしゃれしている。
 そして、二人は合流……なにを話しているかまでは、聞こえないが。

「ともあれ、これでデート開始ってわけだね」

 本来の待ち合わせ時間よりも早いが、二人は無事合流できた。
 ここからデートの始まりと、そういうわけだ。

 さて、見失わないように、あいもここから移動する準備を……

「……ん?」

 しようとしたところで……あいは、目を凝らす。
 なぜなら……視線の先に、見知った背中を、見つけたからだ。

 その背中は、見間違うこともない。
 このまま無視することもできるが……

「はぁ」

 あいは軽くため息を漏らして、その人物に近づいた。
 そして、後ろから声をかける。

「なにやってんの、鍵沼」

「!?」

 声をかけられた人物……鍵沼 流水は、大げさに肩を跳ねさせる。
 そのままゆっくりと、背後に立つあいへと振り向いて……

「うわ」

「なんだ静海か……うわってなんだよ」

「そりゃそうなるでしょ」

 振り向いた流水の姿は……
 黒いサングラスに黒い帽子、さらにはマスクという、不審者もびっくりな格好だった。

 その、あまりにもあまりな姿にあいは、再度ため息を漏らす。

「一応聞いておくよ。
 ここでなにしてんの?」

「お前には関係ないだろ」

「……さなと光矢クンでしょ」

 関係ないと一蹴したが、まさか言い当てられると思っていなかったのか、またも肩を跳ねさせる。

「お前……エスパーか!?」

「わかるよ」

 今の流水の姿を見て、目的がわからない人はいないだろう。
 それとも、あまりにあからさますぎて逆にわからないかもしれない。

「ってことは、ははーん。お前も同じくあの二人を尾行してるんだな」

「ソレと同じなんて不本意極まりないけどね」

 目的は同じでも、その格好には大きな差がある。
 あいは、流水のサングラスをひったくる。

「あっ、お前なにを……」

「バカ、そんなんじゃ怪しんでくださいって言ってるようなもの。
 せめてこれかマスクか外して」 

 あぁ、早くしないと二人が、行ってしまう。
 こんなはずではなかったのに……なんで、こうなってしまったのか。

 あいは、己の不運を呪った。
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