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転生魔王は体育祭を謳歌する

ライバル視

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 次の競技はリレー。
 出場するのは、鍵沼にあい、そして他男女二名ずつ。

 また、別のクラスではあるが……小鳥遊も、出場している。

「あいと小鳥遊は、同じ第五走者か……」

 同じチームであるため、別に競う必要はない。
 ただ、なんだろうか……小鳥遊から感じる、あいに対する敵意のようなものは。

「さすがに会話は聞こえないか……」

 ここはテントの中、あいたちがいるのはグラウンド。
 おまけに、周囲の賑やかな声、音にかき消され、彼女らがなにを話しているかなんて、わかるはずもない。

 ただ、同じ部活の仲間でもある。
 あいが鍵沼と幼馴染である、という情報は、小鳥遊も知ってはいるが……

「目の前で仲良くしている姿を見て、思うところがないわけではない、か……」

「え、なんです?」

「いや、なんでもない……
 ほら、始めるぞ」

 おそらく、現状のままであれば、あいと小鳥遊が気まずくなることはないだろう。
 あいは、小鳥遊が鍵沼に想いを寄せていることを知らない。それに、あいと鍵沼の間に恋愛感情はない。
 この二つが両立しているからこそ、良関係を築けている……


 パンッ


 空砲が鳴り、リレーのスタートである合図となる。
 直後、第一走者たちは走り出す。

 さすがに、リレーに立候補あるいは推薦されるだけあって、皆速い。
 あっという間に、第二走者、第三走者へと、バトンが渡っていく。

 その度、周囲の熱気は上がっていく。
 自分のクラス、チーム、もしくは個人的に応援したい人……各々が、声を張り上げ、応援する。
 それは、さなも同じだ。

 普段はあまり声を上げないさなだが、この時ばかりは、会場の雰囲気に呑まれてか、普段とは違った姿を見せていた。

「あ、あいちゃん! いけー!」

 舞台は、第四走者から第五走者にバトンが渡るところだ。
 ウチのクラスは、現在三番目……小鳥遊のクラスは、まだ第四走者が走っている。

「頼んだ!」

「任せて!」

 第四走者の男子からバトンを渡されたあいは、声が聞こえずとも頼もしい顔で、うなずいていた。
 そして、バトンを受け取り一気に駆け走る。

 さすがは、さなだ。第五走者とはいえ、それは全体での話。
 女子の中では、アンカー扱いだ。先を走る走者と、ぐんぐん距離を縮めていく。

「さらさ! がんばって!」

「!」

 この騒がしい声の中で、聞こえてきたのは……闇野の、ものだ。
 それは、友達である小鳥遊を思っての、もの。

 思わず、視線を動かす。
 小鳥遊が、第四走者からバトンを受け取るところで……

「……負けないっ」

 ……言葉は聞こえずとも、口の動きは、そう語っていたように感じた。

「お、おい、あの子……」

「あぁ、速くね!」

 小鳥遊が走り出したことで、周囲のざわめきが大きくなる。
 それも、そのはずだ……小鳥遊の足が、思っていた以上に、速かったのだから。

 小鳥遊の実力を知らない者は、驚いたことだろう。
 ……いや、実力を知らない者だけではない。
 実力を知っている……さなも、俺も、驚いていた。

「さ、さらさちゃん……?
 あ、あんなに速かったでしたっけ……?」

「……少なくとも俺は、あんなにも気合いの入った小鳥遊を見るのは、初めてだな」

 小鳥遊とは、部活対抗リレーの練習中、何度もその実力を見ている。
 だから、わかってはいたのだ……小鳥遊も速いが、あいほどではないと。

 だが、今の小鳥遊はどうだ。
 あいと同等……いや、あいとの距離が、確実に縮まっている。

『負けないっ』

 彼女は、おそらくそう言っていた。そして、こんなにも気合いの入った小鳥遊を、俺は初めて見た。
 ……部活対抗リレーの練習中、小鳥遊は気を抜いていた……というわけでは、ないのだろう。
 短い付き合いだが、小鳥遊は練習だからと手を抜くような人間では、ない。

 ならば、本番に強いタイプ……それも考えたが、おそらく違う。
 彼女が言った『負けないっ』とは、敵である白チームに対してか?

 ……違う。

「小鳥遊は、あいに負けたくないんだ」

「え?
 あいちゃん、に?」

 それは、単なる俺の推測。
 しかし、どこか確信があった。小鳥遊は、あいをライバル視している。

 だから、同じチームだとか関係ない……
 純粋に、個人として勝ちたいのだ。

『おぉっと赤組速い! どんどん距離を詰めていくー!』

 アナウンスも白熱する中で、ついに小鳥遊があいの隣に並ぶ。
 あそこまで開いていた距離を、こうもすぐに埋めるとは……
 もしも同時に同じ場所からスタートしていたら、あるいは……

「静海も速いが、あの子もすげーな!」

「ふたりとも頑張れー!」

 クラスの連中も、二人を応援し始める。同じチームだ、どちらが勝っても赤組の勝利に近づくことには、変わりない。

 だが、本人たちはそうは思っていない。
 それに、あいも……小鳥遊のことを、認識した。

 互いに、視線を交わらせて……ラストスパートをかけるように、一気に駆け抜けていく。

「……っ」

 気づけば俺は、拳を強く握りしめていた。
 意図せず、白熱していたのかもしれない。

 二位との差をぐっと縮めるが、まだ追いつけはしない。
 そして、彼女らが二位を追い抜く前に、走者は変わる。

「静海!」

 バトンを待つ、鍵沼の姿。
 それを確認し、あいは小さく笑みを浮かべていた。

「任せた……!」

 あいと小鳥遊……二人が、アンカーにバトンを渡したのは、ほとんど同時に見えた。

 そして、バトンを受け取り……最後の走者となった、鍵沼。
 その足で、地を蹴り、走り出していく。
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