64 / 114
転生魔王は体育祭を謳歌する
ライバル視
しおりを挟む次の競技はリレー。
出場するのは、鍵沼にあい、そして他男女二名ずつ。
また、別のクラスではあるが……小鳥遊も、出場している。
「あいと小鳥遊は、同じ第五走者か……」
同じチームであるため、別に競う必要はない。
ただ、なんだろうか……小鳥遊から感じる、あいに対する敵意のようなものは。
「さすがに会話は聞こえないか……」
ここはテントの中、あいたちがいるのはグラウンド。
おまけに、周囲の賑やかな声、音にかき消され、彼女らがなにを話しているかなんて、わかるはずもない。
ただ、同じ部活の仲間でもある。
あいが鍵沼と幼馴染である、という情報は、小鳥遊も知ってはいるが……
「目の前で仲良くしている姿を見て、思うところがないわけではない、か……」
「え、なんです?」
「いや、なんでもない……
ほら、始めるぞ」
おそらく、現状のままであれば、あいと小鳥遊が気まずくなることはないだろう。
あいは、小鳥遊が鍵沼に想いを寄せていることを知らない。それに、あいと鍵沼の間に恋愛感情はない。
この二つが両立しているからこそ、良関係を築けている……
パンッ
空砲が鳴り、リレーのスタートである合図となる。
直後、第一走者たちは走り出す。
さすがに、リレーに立候補あるいは推薦されるだけあって、皆速い。
あっという間に、第二走者、第三走者へと、バトンが渡っていく。
その度、周囲の熱気は上がっていく。
自分のクラス、チーム、もしくは個人的に応援したい人……各々が、声を張り上げ、応援する。
それは、さなも同じだ。
普段はあまり声を上げないさなだが、この時ばかりは、会場の雰囲気に呑まれてか、普段とは違った姿を見せていた。
「あ、あいちゃん! いけー!」
舞台は、第四走者から第五走者にバトンが渡るところだ。
ウチのクラスは、現在三番目……小鳥遊のクラスは、まだ第四走者が走っている。
「頼んだ!」
「任せて!」
第四走者の男子からバトンを渡されたあいは、声が聞こえずとも頼もしい顔で、うなずいていた。
そして、バトンを受け取り一気に駆け走る。
さすがは、さなだ。第五走者とはいえ、それは全体での話。
女子の中では、アンカー扱いだ。先を走る走者と、ぐんぐん距離を縮めていく。
「さらさ! がんばって!」
「!」
この騒がしい声の中で、聞こえてきたのは……闇野の、ものだ。
それは、友達である小鳥遊を思っての、もの。
思わず、視線を動かす。
小鳥遊が、第四走者からバトンを受け取るところで……
「……負けないっ」
……言葉は聞こえずとも、口の動きは、そう語っていたように感じた。
「お、おい、あの子……」
「あぁ、速くね!」
小鳥遊が走り出したことで、周囲のざわめきが大きくなる。
それも、そのはずだ……小鳥遊の足が、思っていた以上に、速かったのだから。
小鳥遊の実力を知らない者は、驚いたことだろう。
……いや、実力を知らない者だけではない。
実力を知っている……さなも、俺も、驚いていた。
「さ、さらさちゃん……?
あ、あんなに速かったでしたっけ……?」
「……少なくとも俺は、あんなにも気合いの入った小鳥遊を見るのは、初めてだな」
小鳥遊とは、部活対抗リレーの練習中、何度もその実力を見ている。
だから、わかってはいたのだ……小鳥遊も速いが、あいほどではないと。
だが、今の小鳥遊はどうだ。
あいと同等……いや、あいとの距離が、確実に縮まっている。
『負けないっ』
彼女は、おそらくそう言っていた。そして、こんなにも気合いの入った小鳥遊を、俺は初めて見た。
……部活対抗リレーの練習中、小鳥遊は気を抜いていた……というわけでは、ないのだろう。
短い付き合いだが、小鳥遊は練習だからと手を抜くような人間では、ない。
ならば、本番に強いタイプ……それも考えたが、おそらく違う。
彼女が言った『負けないっ』とは、敵である白チームに対してか?
……違う。
「小鳥遊は、あいに負けたくないんだ」
「え?
あいちゃん、に?」
それは、単なる俺の推測。
しかし、どこか確信があった。小鳥遊は、あいをライバル視している。
だから、同じチームだとか関係ない……
純粋に、個人として勝ちたいのだ。
『おぉっと赤組速い! どんどん距離を詰めていくー!』
アナウンスも白熱する中で、ついに小鳥遊があいの隣に並ぶ。
あそこまで開いていた距離を、こうもすぐに埋めるとは……
もしも同時に同じ場所からスタートしていたら、あるいは……
「静海も速いが、あの子もすげーな!」
「ふたりとも頑張れー!」
クラスの連中も、二人を応援し始める。同じチームだ、どちらが勝っても赤組の勝利に近づくことには、変わりない。
だが、本人たちはそうは思っていない。
それに、あいも……小鳥遊のことを、認識した。
互いに、視線を交わらせて……ラストスパートをかけるように、一気に駆け抜けていく。
「……っ」
気づけば俺は、拳を強く握りしめていた。
意図せず、白熱していたのかもしれない。
二位との差をぐっと縮めるが、まだ追いつけはしない。
そして、彼女らが二位を追い抜く前に、走者は変わる。
「静海!」
バトンを待つ、鍵沼の姿。
それを確認し、あいは小さく笑みを浮かべていた。
「任せた……!」
あいと小鳥遊……二人が、アンカーにバトンを渡したのは、ほとんど同時に見えた。
そして、バトンを受け取り……最後の走者となった、鍵沼。
その足で、地を蹴り、走り出していく。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる