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転生魔王は体育祭を謳歌する
昼の休憩時間
しおりを挟む借り物競争から戻ってきたさな、そして鍵沼。
一位は取れなかったが、二位という快挙だ。当然、それをみんなに讃えられたあと……
当然のように、質問攻めにあった。
特に女子たちから。
この手の話は、年頃の女子にとっては大好物なのだろう。
実際、借り物のお題がなんと書かれていたかで、その扱いも大きく変わる。
単に"異性"とかなら、ああも悩んで鍵沼を選ぶ必要はないわけだし。
「えー、教えてよ静海さんー」
「あのお題に、なんて書いてあったのー?」
「な、内緒!」
当のあいは、答えるつもりはないらしいがな。
お題の紙を、確認させるやすぐに破り捨てるようなことをしたんだ。
誰にも見せたくない、教えたくないに違いない。
「あ、もしかしてー、好きな人とか!」
「え、じゃあもしかして静海さん、鍵沼くんを……
きゃー!」
「違うから! ありえないから!」
……向こうはずいぶんと盛り上がっているな。無理もないが。
あの分だと、あいは頑なに答えそうにないな。
さて、こちらはというと……
「おいおい鍵沼ー、ホントにお題の内容見てないのかよ?」
「ないよ。見ようとしたら破られたんだから」
「かー、惜しいなー。もしかしたら好きな人、とかだったかもしれないのに」
「はははー、ないない」
……考えることは、男子も女子も一緒、ということか。
お互い聞こえているのかいないのか、示し合わせたように、それはないと言っている。
そうした質問攻めの時間が流れている間に、体育祭の時間も進んでいき……午前の部が、終わる。
次は、午後の部。それまでは、昼休憩となる。
昼休憩は、保護者と食べてもいいらしいが……
ほとんどの生徒は、教室に戻って弁当を食べるようだ。
俺も、その例に漏れない。
「結局、いつもと同じようになっちゃったねー」
「だね」
教室にて、机を囲むのは俺、さな、あい、そして鍵沼……ま、いつものメンバーだ。
いつもと違うところがあるといえば、制服でなく体操服であること。
そして、いつもより弁当が豪華であるということ。
「今のところ、赤組が勝ってるみたい!
このまま一気に勝っちゃうかもね!」
「油断は禁物だぞ、いつ誰に足元を掬われるかわからない」
油断は禁物……そういう言葉があると、俺はこの世界で知った。
そして、実際にそういうことがあるのだと、俺は転生前の世界で知った。
魔王軍という、圧倒的な力。人間など及ぶべくもない力。
それを率いていた俺が、人間に殺されたのだ。
あれが人間の中でも例外だというのはわかっているが、なににしても油断は禁物だという教訓だ。
ま、油断がなかったといえば嘘になるが、油断していなければ勝てたかと聞かれると、素直にはうなずけないのだが。
「おぉ、なんか重みがあんな……
ま、そういうことだ。調子に乗ってると痛い目見るぞ」
「あんたに言われると腹立つなー」
「ま、まあまあ」
それぞれ弁当のおかずを口にしながら、思い思いに話していく。
あいと鍵沼がにらみ合い、それをさなが制する。いつもの光景だ。
もう二人とも、クラスメートからかなり質問攻めにあっている。
それをわかってか、俺もさなも、先ほどの借り物競争の件を口にすることはなかった。
ここで問い詰めても、答えは得られそうにないし。
「おいー、結局さっきのお題なんだったんだよ。いい加減教えろって」
……そんなこと、気にもしないと言わんばかりに、お題として駆り出された張本人が、問い詰めているが。
まあ、誰が一番気になるかって言ったら、やはり鍵沼本人であろうか。
「いいじゃん、もう終わったんだし」
「よくない! 俺には聞く権利がある!」
「言わない!」
その後も、ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃいと騒ぎ立てる二人は、平行線。
意地でも、あいは話すつもりがないらしい。
結局、昼休憩が終わる時間まで、粘った鍵沼でも聞き出すことはできなかった。
そして、午後の部が始まる。
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