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第二章 異世界っぽい世界で学校生活
第56話 血湧き肉躍る戦い
しおりを挟む「ヒャッハー!」
「イィッヤァーーハァ!」
……ひどい状況だ。達志は、この光景を見てただただそう思った。
今は、ほのぼのとした昼休みの時間だったはずだ。それがなぜ、こんなことになっているのか。魔法が飛び交い、建物に当たり、中には怪我をする人も。
マルクスやムヴェルの戦力が異常ではあるが、他のみんなも暴走族と、ある程度渡り合えている。
ここまで観察していてわかったのが、暴走族側には魔法を使える人間はほとんどいないということ。
いれば、もっと展開は変わるはずだ。
そのおかげで、魔法を使えるクラスメイトたちが立ち向かえている、というわけだ。
まだ二十にもなっていない子供が、いい年したおっさんと乱闘を繰り広げている姿は、できればフィクションの中だけで済ませたかった光景だ。
「貴様を殴って、早々に終わらせる!」
こういう乱闘では、頭を倒せば終わり、と相場が決まっている。どうやらそれは、十年経っても変わっていないらしい。
なのでマルクスは、リーダーであるトサカゴリラへと狙いを定める。
……が、ふとマルクスはなにかに気づき、急ブレーキ。そこから飛び退く。
直後、飛び退いた場所になにかが突き刺さっていた。固く太い、水色の物体だ。
それは……
「……触手?」
「みんな、逃げろ!」
「ヒャッハァー!!」
見れば、トサカゴリラの背中からなにかが生えているではないか。無数に生えるそれは、達志たちを狙い攻撃を始める。
なんとか避けるが、それは地面に突き刺さる。
突き刺さっている……それは触手のようなものだった。触手にしては、なんだかイメージより固いが、うねうね動いているし他に言いようがない。
「しょ、触手が生えてる!? なんじゃあれキモ!」
「触手は触手でも、これは水だぜ。水魔法」
次々迫り来る触手をかわしながら、触手への感想を素直に答える。うねうねしつつも、地面にやすやすと突き刺さるほどの固さを持っている。
柔らかいのか硬いのか、判断に迷うところだが、あれに触って確かめる勇気はない。
触手が無差別攻撃を始めたせいで、みんなとも離ればなれになってしまう。
達志は一人……正確には、頭の上に乗っかっているヘラクレスも含めて二人、逃げ惑う。
「水!? あれ水なの!? タコかイカの足じゃなくて!?」
「魔法で、水を触手のように形作ってやがるぜ。触手だからといって服だけ溶かすとか、女の子を掴まえてやらしーことする、お約束な展開は期待できそうもないけどな」
「人の頭の上で余裕ですねヘラ!」
魔法であることは、ヘラクレスの証言からも明らかだ。
トサカゴリラこそ、魔法が使えないと思われていた暴走族集団の、魔法が使えるやつだったわけだ。
地面に突き刺さる威力を見てしまうと、ヘラクレスの言っていたようなお約束な展開は期待できない。服が溶けるどころか、体に穴が空いてしまう。
達志には抵抗する手段はないし、ヘラクレスはなぜか余裕だ。
情けない話だが、誰かがトサカゴリラを倒してくれるのを待つしか……
「タツ、あぶねえ!」
「へ?」
「ヒャッハぶへぁあ!」
逃げることに集中する達志だったが、他にも注意を促す声が。
どうやら逃げることに集中するあまり、他の敵が襲ってくることに気づけなかったようだ。
ヘラクレスの注意がなければ気づけなかったが、そもそも気づいた瞬間には敵は吹っ飛んでいた。
……ヘラクレスの体から生えた、極太の手によって。人間の体なんか、簡単に握り潰せてしまいそうだ。
「タツ、周りにも注意しないとダメだぜ」
「へ、ヘラさん……お強いんすね」
「こう見えても、腕っぷしは強い方なんだ」
「そうか……なら、周りの注意は任せた!」
いろいろと突っ込みたいところはあるが、それは後だ。
なんか知らんが強いらしいヘラクレスに、周りの注意を任せる。これで、達志は逃げることに集中できるというものだ。
まあ、頭の上に乗っているならそれくらいの働きはしてもらわないと、困る。
「フォーー!」
「あー魔法撃ちたい! 撃って撃って撃ちまくって気持ち良くなりたいぃいい!」
「昔の血が騒ぐわぁ!」
「いやー! 来ないでー!」
「タツシ様ー! どこですかー!?」
達志が逃げ回っている間にも、いろいろな所から声が聞こえてくる。
生徒たちの悲鳴や、物が壊される破壊音。絶望的な光景なはずなのに、なぜかそれを感じさせない歓喜にも似た声が聞こえてくる。
なんの意味があるのか、奇声を上げながら触手を相手に殴り合うマルクス。
魔法を撃とうとしているのを、必死に止められているルーア。
なにかのスイッチが入ってしまったらしいムヴェル。
いやいやと目をつぶりながら、振り回すバットが奇跡的に暴走族にヒットし、タコ殴りにしている由香。
ずっと目線の先に納めていたのに、触手のせいで達志の姿を見失ってしまったらしいリミ……
達志のクラスの人間……それは、思ったよりも頼もしいのかもしれない。暴走族相手に、なぜか血湧き肉躍っているのだ。
だが、これだけは言わせて欲しい。逃げ回るしかできない達志は、力の限り今の心境を叫ぶのだった。
「なんで俺のクラスはこうも、変な奴ばっかなんだぁああ!!」
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