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第三章 変わったことと変わらないこと

第105話 告白イベント見てみたい

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 少しだけ考えて、とりあえず素直な感想を口にする。リミが告白を受け入れ誰かと付き合う姿……想像するだけでなんだか嫌だ、と。
 そしてそれを聞いたヘラクレスは、ニヨニヨ笑みを浮かべている。

 面白いこと聞いたぜと言わんばかりの表情であり、なんだかすごく殴りたくなる顔である。
 いったい、なんだというのだろうか。

「なんだよその顔は」

「べっつにぃ? タツもなんだかんだお年頃なんだなと思ってな」

「ふむ?」

 なにを言っているのか、よくわからない。とりあえず、ろくでもないことなんだろう、ということだけは理解できるが。
 もしや、リミに男ができたとして、達志が嫉妬していると思われたのだろうか。

 確かに面白くないとは感じたが、それは別に色恋沙汰に関するものではない。はずだ。あれだ、保護者目線的な。

「お、来たぜ」

 言っている間にも、時は来たようだ。相手の男が現れ、二人の、いやリミも含め三人の視線は一カ所に向く。
 よくよく、相手の男を観察してみる。

 ふむ……顔は悪くない。どちらかというと、整っている部類だろう。いかにも純朴そうな男で、人畜無害といった言葉がよく似合う。目立つ印象はないが、なるほど女の子受けしそうな容姿でもある。
 いわゆる中性的ってやつだ。

 とりあえず見た目だけでは、そんなに悪い印象は受けない。どころか結構いい線をいっているのではないのだろうか。あくまでも見た目では、だが。

「こ、こんにちはヴァタクシアさん! 来てくれてありがとう!」

 男は話し出す。ふむ、ますます純朴少年といった雰囲気がよく似合う。女慣れしておらず、好きな人を目の前にして冷静さを失う、とても初な少年。
 青春真っ盛りというやつだ。

 どうやら同学年らしいが、まったく心当たりがない。復学してまだ数日しか経ってない上、他のクラスの地味な男など、覚えているはずもないのだが。
 それから、あなたを初めて見たときから~、とかあなたを見てると胸が高鳴って~とか、テンプレとは言わないがなんの捻りもない言葉を並べる。

 男が必死なのはわかるのだが、こちらからは残念ながら、リミの後ろ姿しか見えない。
 顔を真っ赤にして自分への想いを告げる相手を、果たしてリミはどんな表情をして、見ているのだろう。

「す、好きです! ぼくと付き合ってください!」

 お、ついに告白のときだ。いろいろ口上を述べはしたが、結局のところはあなたが好きですに降り立つのだ。
 頭を下げ、右手を差し出している。

 人の告白シーンというやつは初めて見たが、なんだか応援したくなる不思議な気持ちが芽生えてくる。
 そんな男に対して、リミは……

「ごめんなさい。今は誰ともお付き合いするつもりはありませんので」

 バッサリと言い捨てた。それはもう達志も聞いたことのない、驚くほどに冷たい声で。
 一瞬、誰が言っているのか、わからなかったくらいだ。

「え、今のリミ……?」

「ありゃー、タツが来てから緩和されたと思ってたがやっぱり健在だったか、『氷の女王』」

「あれが……」

 困惑する達志をよそに、ヘラクレスはなんだか納得したようにうなずいている。
 そういえば口々に話していた。達志が来る前のリミはそれはもう、クールで冷たい人物だったのだと。

 それが、達志が来てから性格が激変したのだという。達志からすれば、以前のリミの方が想像つかないのだが……とにかくリミは変わったらしい。
 だが今ここにおいては、『氷の女王』再来といった具合だ。

 達志がなにが起きたのかわからなかったように、それを真正面から受けた男も、目を丸くしている。
 もしかしたら、『氷の女王』なんて知らず、最近の活発リミしか知らなかったのかもしれない。

「リミたん、女王様時代でも当然モテてたんだが……今みたいな柔らかな性格になってからは、それまで以上らしくてな。
 クールな『氷の女王』様タイプと、柔らかな天真爛漫タイプ」

 なんだその極端な二択は。前者とかもう、ほぼほぼドMの人たち万歳みたいなものではないか。
 それでもモテたとは、ウチの学校はそういう性癖の人たちが多いのだろうか。

 女王様に臆していた人たちも、この度のリミの変貌ぶりを見て、告白する気持ちが強まったのだろう。達志から見ても、リミの笑顔は魅力的だと思うし。
 だからだろうか、冷たくあしらわれた男は動揺しながらも、食い下がっている。しかし……

「いや、ずっと見てましたってそれストーカーですか。通報しますよ」

「友達からって……その過程を経れば付き合えるとでも? 恋人から友達にランクを下げれば私が首を縦に振るとでも?」

「付き合ってみれば……確かに付き合ってもないのに答えを出すのは早計かもしれませんが。先ほど言いましたよね、誰かと付き合うとか考えてないので。頭か耳、どちらか欠陥なのでは?」

「告白してくれたのは嬉しいです、でもそれだけです。これであなたに心が揺れるとか、そんなことはまったくありませんでしたので」

 男に対してのリミは、あまりにも冷たかった。達志がちょっと引いちゃうくらいに。男の代わりに泣きたいくらいだ。

 刺々しい言葉の数々を受けた男は、涙目になりながら去っていった。その背中がとても小さく見える。
 名前も知らない男だか、なんとなく応援したい気持ちになる。もう失敗したけど。
 これを経て再度告白に踏み切ったなら、それはもう勇者だろう。

 その背中を見送り、リミは何を思っているのだろうか。
 ……ともあれ、これで告白イベントは終了だ。思ったよりドキドキしなかった……いや、別の意味でドキドキしたけど。
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