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第四章 激動の体育祭!
第140話 男同士のぶつかり合い
しおりを挟むビーチフラッグス……その競技の説明をされたあのとき。確かに記憶したはずのルールを、片っ端から引っ張り出していく。
なにか聞き逃せない単語があったため、ちゃんと頭に叩き込んだはずなのだ。
思考すること数秒、記憶の蓋を開く。魔法ありきの世界での、体育祭という一大イベントにわくわくしてて、うっかりルール説明を聞き逃してしまうところだった。
それはなんとか、防いでいたようだ。
「えっと確か……普通のビーチフラッグスは他選手への妨害は失格。けどこの競技に関しては妨害あり、ただし魔法は使用禁止のルールだったっけ……」
記憶が確かなら、このビーチフラッグスは他人への妨害……つまりタックルして体勢を崩すなどの行為が、許可されている。
それでも魔法が禁止されているのは、あくまでも反射神経と脚力重視の競技を競うからである、ということか。
先ほどの借り物競争は……運要素多めの競技だったから良しとしよう。あれは悲しい事件だったよ。
そもそも、魔法仕様禁止のこの競技が特殊なのだ。
「気を付けろってそういうことか。てか、毎回怪我人出てるんだ」
それは問題ではないかと思ったが、ここには回復魔法使いもかなりいるし、そこまで問題じゃないのか……と思い直す。
そうこう考えているうちに、入場のアナウンスが響き渡る。
その声を聞きながら、また別方向から聞こえるマルクスの慌てたような声と、ヤーの楽しげな声を聞きながら、入場の足を進めていく。
……入場してしまえば、あとはサクサク進んでいくだけだ。位置について、準備を整える。
ただでさえ、スタートから旗までの距離は20メートルほどしかないのだ。
しかも、五人が一つの旗を取り合うので、五セットとはいえあっという間に終わってしまうだろう。
ちなみに達志は、四番目のメンバーだ。
ビーチフラッグスに関しては、持久力よりも技術力などの方が重要になる。そして実際、チーム内では達志はそこそこに動けたのだ。
これが持久力勝負なら、まず出場していない。
十年寝たきりだったとはいえ、魔法によって体が老けずに保たれていたように……身体機能は衰えても、頭で覚えていたことはそこまで忘れていなかったらしい。
ゆえに、判断力を伴う反射神経も衰えていない。テニスに関しては体がついていかないなど、やはり体の問題は残るが。
体もそれなりに動くようになってきたし、階段を上り下りしただけで息切れしていた自分はもういない。
充分に戦いに望めるレベルにまで、復活したのだ。
「……おぉー、なんか迫力あるな!」
自分の分析も大事だが、他のメンバーの戦いを見て学ぶのも、大事だ。
たかがビーチフラッグス……侮るなかれ、なかなかに燃える戦いだ。
テントの観客とは違い、この位置だとよく見ることが出来るため、その熱の伝わり具合も段違いだ。
妨害ありき……乱暴なものを予感していたが、それは熱い男同士のぶつかり合いのようなものだ。がたいのいい男と男が肩をぶつけ合い、相手を倒そうと奮闘する。
しかしそればかりに気をとられていると、他のチームに旗をとられてしまう。
スタートダッシュも大切ながら、相手を妨害する、されるを気にかけつつ周りを観察するといった、判断力も問われる。
「これは思った以上に奥が深いぞ」
たった数秒、よくて十数秒の攻防。その短い中に、この熱い戦いが収められている。その光景がこれまで見たどの種目よりも滾らせ、燃え上がらせる。
自分がいつの間にか立ち上がっているのにも、気づかないほどに。
自分もあそこで戦うのだと、胸を高鳴らせる。若干の緊張を覚え、会場の声がより響いてくる。そして……
「男と男であんな激しくぶつかり合って……うへへへへへぇ……」
腐ったエルフの、声が聞こえた気がした。
この競技に、"彼女"は出場していない。そのため、声が聞こえるはずがない。
ないのに……なぜか、そう言っている気がした。
「聞こえない聞こえない」
目の前での熱いぶつかり合いは、まさに一進一退だ。
達志の出番がある四回戦目になるころには、それぞれ三チームに、平行して点数が入っていた。
ちなみに、五チーム中点数を取っていない二チームというのは……
「俺とマルちゃんチームがそれぞれ点数なし、と。そんでもって俺の相手の四人のうち一人は……」
「どうした、さっきから隣でぶつぶつと気持ち悪い」
達志とマルクス、二人のチームがまだ点を取っていない。
借り物競争でバキがあんな結果になってしまってもいるし、ここで活躍して、点数を稼がなければいけないだろう。
とはいえ、他の四人相手に楽に勝てるとは思えない。しかも、うち一人はマルクスがいるのだ。
同じ種目であることは知っていたが、まさか走順まで同じだとは予想外だった。これは手強い。
なにせ、先ほどヤーと話したときにも言われたのが……テニスに必要な要素が、このビーチフラッグスで鍛えることができるというのだ。鍛えるということは、活かすこともできると然り。
反射神経と、速力、その両方を発揮することができる。
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