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第四章 激動の体育祭!
第139話 ビーチフラッグス!
しおりを挟む「さてさて、やりますかっ」
「さっきから独り言の多い奴だなキミは」
次なる種目、ビーチフラッグスに出場するため。入場門に並び、ストレッチして体をほぐしていると……ふいに、声をかけられる。
独り言が多いのは自覚しているが、まさかそれを聞かれていたとは。ちょっと恥ずかしい。
「あ、悪いうるさかった? いや、ずっと寝たきり生活だったから、こう、なにか喋りたいときって自然と口に出ちゃって」
達志が独り言が多いのは、別に怪しい人だからではない。
十年も寝たきり生活を送っていたために、口が腐り喋りたくて、仕方ないじゃないか……
そのため、思ったことも口をついて出てしまう。達志はそう考えている。
しかしそのせいで、誰かに不快感を与えていたのなら、それは悪いことをした。なので、苦笑しつつ謝るのだが……
「気にするな。キミが常に独り言ぶつぶつ人間なのは、すでに承知している」
わかった風な言葉を告げる、偉そうに腕組みをした男がそこにいた。
それは達志の見知った人物であり、同じクラスでありながらも、残念ながら敵対することになってしまった……
「おぉ、マルちゃんじゃんか」
「誰がマルちゃんだ!」
不良系優等生、眼鏡のマルクスであった。
ビーチフラッグス……それは走力と反射神経の双方を鍛えるためのスポーツであり、主にライフセービングにてライフセーバーが行うものだ。
これが達志が基本的に知っている情報。少なくとも一般的な体育祭でやる競技ではない。
まさか、このような競技が高校の体育祭に組み込まれているとは、思わなかった。
体育祭種目は数あれど、ビーチフラッグスは、達志が経験したことのない競技の一つだ。
それゆえに興味があったのと、単なる持久走とかよりも反射神経が大きく、勝敗にこの種目ならば勝ち目があると思ったのだ。
まあ、半分くらいはこの競技を選んだことを後悔していたが。
これでも達志、反応神経にはちょっとした自信がある。
他選手よりも早くスタートすることができれば、走りで負けていても勝てる可能性は、上がるはずだ。
「ふっふ……マルちゃん、特訓の日々は感謝してる。
しかーぁし! 特訓の成果今ここで見せるとき……ここで倒させてもらうぜ!」
「なんか知らんがテンション高いなうっとうしい。あとマルちゃん言うな」
ようやく種目に出られることもあって、達志のテンションは高い。しかも、知り合いがいたことがさらに拍車をかけているらしい。
若干周りから不審がられているが、そんなもの気にしない。
さりげにマルクスも、少し距離をとっているのだが、それにも気づいていない。昼前なのに、ちょっとハイになっている。
「暑さで頭がイカれたのか……?」
「やるからには全力で勝つぜ!」
「アァ、マアガンバレ」
「すっげー心こもってない言い方!」
これ以上は付き合わない、と言わんばかりに話を絶ちきり、自チームに戻ってしまうマルクス。その背中を見て、達志は少し拗ねる。
もう少し話をしたかったのだが、行ってしまっては仕方ない。
今回のビーチフラッグスは、五チームがそれぞれ一人ずつ選出し、人を変えて五回繰り返す。
つまり五人対決を五セット行うことになる。
マルクス以外に見知った人物がいないかと、達志は辺りを見渡す。
しかしそこには、見たことある人はいれど、話をするほどに仲の良い人物は……
「おー、そこにいるのはイサカイくんじゃない! おーい!」
いないか……と諦めかけていたところへ、達志の名前を呼ぶ声が。
それは最近になってよく聞く女子生徒の声であり、弾んだ様子で近づいてくる。
声のした方向に目を向けてみれば、そこには笑顔を浮かべながら駆け寄ってくる猫顔の獣人……達志及びマルクス所属のテニス部部長である、ヤー・カルテアだ。
彼女も、ビーチフラッグスに参加するらしい。
「あ、部長。部長も出るんすね」
「もっちろん! この競技、反射神経と脚力の両方を鍛えられていいんだよねー!」
ある意味、達志以上にテンションの高い彼女が言うには、この競技はテニスの練習にもってこいらしい。
確かに、ボールを追い打ち返すテニスにおいて、反射神経と足の速さは重要になる。
もしや、マルクスもその理由でこの競技を選んだのだろうか。達志はまったくそんなこと考えなかったが。
「チームは違うけど、お互いがんばろーねー!」
「ですね。あ、向こうにマルちゃんいましたよ」
「なんと! にゃは、じゃあ挨拶してこなくちゃ」
軽い雑談の後、ヤーの標的はマルクスへ。
部活でもまーくんと呼んでいる辺り、どうやらマルクスは彼女の遊び相手ポジションらしい。主に一方的な。
お互いの健闘を誓いあった後、この場から離れようとするヤーは……寸前に、なにかを思い出したように振り返り。
「あ、わかってると思うけど、お互い気を付けよーね。妨害ありだからって覚悟決めてても、毎回怪我人出ちゃうらしいから」
そう言い残し、向こうへと去っていってしまった。妨害や怪我といった不穏な響きに、達志は……
「……へ?」
間の抜けた声を漏らしながら、自分の中の記憶を引っ張り出していく。
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