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死に戻り勇者、軌跡を辿る
意味不明な状況
しおりを挟む魔王が、死んでいる……それは結果だけを見れば、喜ばしいことだ。だが、今の俺にとっては不気味でしかない。
だって、魔王が死んでいたなんて……前世の展開では、なかった。これまでも、前世の展開とは異なる展開が流れてきたが……ここまで大きな変化は、初めてだ。
「……おい、誰かいんのか!」
と、そこへゲルドが声を張り上げた。一見すると、部屋には魔王以外誰もいない。
だが、ゲルドも気づいたのだろう。これが、何者かによる仕業……魔王の殺害だと。そして、犯人はまだ近くに潜んでいるということも。
「……そっか。魔王はまだ、消えてない」
そう、今リリーがが気づいたように、死んでいる魔王は消えていない。正確には、今消え始めている。
魔王は、魔物や魔族に比べて、消滅までの時間が長かった。それは、魔王という最上位個体ゆえだろうか。
まだ消滅が始まったばかりであれば、魔王を殺した人物はこの部屋に潜んでいる可能性は高い。この部屋に出入り口はここだけ……窓はあるが、とても飛び降りられる高さじゃない。
……まあ、魔王を殺した人物なら、どんな驚異的な身体能力か『スキル』かわからないが。ただ、窓はすべて閉まっている。
「魔王は消えてない。それに、先ほどまで魔族は残っていた」
「そっか。魔王が消えたら、魔族も消えるって話だもんね」
警戒を続けたまま、ドーマスさんがリリーに補足していく。
俺たちがこの城に入ってから、たくさんの魔族を目撃した。魔王がすでに死んでいたら、魔族が存在していられるわけがない。
俺たちが魔族の姿を見なくなったのは、この部屋に着くまでのせいぜい数十秒。その時間で、窓から脱出もせず、わざわざ数人がかりでなければ動かせない扉を閉めて、逃げるとも思えない。
おそらく、魔王殺害の何者かは、魔王を倒したが、俺たちが来ることを察知し、部屋の中に隠れたのだろう。
「そうだ。つまり、犯人は魔族でもない。魔王の配下だ、当然と言えば当然だが」
「そうね。魔族なら、魔王が死ねば自分も死ぬんだもの。殺すはずがない」
「しかもその人物は、かなりの実力者……見て下さい。争った形跡が、ほとんどない」
「魔王が反撃する暇もなかったのか……俺たち以外に、そんな人間がいるのか?」
さらに気になるのは……その人物が、一向に姿を見せないこと。いや姿を隠したこと。
魔王を倒すという点では、俺たちは同じ目的を持つ仲間のはずだ。なのに、どうして姿を隠した?
魔王を殺す実力者、人間、俺たちより先に城に入っていたのにやけに警備が手薄な理由……なにが起きているってんだ、いったい。
「……出てこねえな。仕方ねえ……」
待っても、誰も出てこない。気配も感じない。これでも、人の気配を読むことにはかなり長けているはずなんだけど。
ゲルドが、俺たちに静かにするようにジェスチャーをする。そして、辺りをきょろきょろと見回す。
あれは……『スキル』【鑑定眼】を発動したのだろう。【鑑定眼】は、相手の『スキル』を見ることが出来る……つまり、『スキル』を持つ人間がどこにいるかも、暴けるはずなのだ。
これだけのことをしでかした奴が、まさか『スキル』なしというわけでもない……
「! そこ!」
とある一点を目に留め、ゲルドは短剣を飛ばす。そこは、魔王の座っている椅子の、少し離れた壁際だった。
短剣は、そのまま壁に突き刺さる……かと思いきや。
「わっ」
壁に刺さる寸前に、なにかに弾かれた。
しかも、確かに今、声がした。その場所へ、ゲルドは短剣を向ける。
「出てこいよ、見えてんぜ。てめえの『スキル』、【透明化】……姿は消えても、『スキル』名までは消せねえようだな」
「!」
ゲルドが暴いた、その人物の正体……【透明化】の、『スキル』持ち!
だから、いくら部屋を見渡しても、見つけられなかったわけか。
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