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死に戻り勇者、第二の人生を歩む
不審な動き
しおりを挟む「セント町、ですか?」
「あぁ、そうだ」
リリーが、父である国王ザーラからそう話を聞いたのは、ザーラがゲルドへモンスターの生態調査を頼んだ、翌日のことである。
ここのところ、リリーのところにもモンスターによる被害の報告が、上がっていた。そのため、リリーにも話しておくべきことだと判断したのだ。
「ゲルド、さんが……」
「あぁ。あの男に任せておけば、時期騒ぎも収まるだろう」
ゲルドへの信頼は、高い。リリーも、ゲルドのことはよく知っている。
口こそ悪いが、実力は確かだ。彼に任せておけば、これ以上ないほどに安心だろう。
しかし……
「……」
リリーは、知っている。ゲルドが本当は、どういう人間なのかを。
メラに、ロアについていろいろ調べてもらったあの日……彼女は、シャリーディアに会ったのだという。そして、ロアが殺人犯として手配された、本当の理由を知った。
目の前にいる父と、今話に上がったゲルドが共謀し、ロアを陥れたのだと。メラは言いづらそうにしていたが、結局は教えてくれた。
リリーは、信じられなかった……が、シャリーディアが嘘を付くとも、メラが嘘を付くとも思えなかった。
「ん、どうかしたか?」
「いえ。ゲルドさんに任せておけば、安心ですね」
この事実は、シャリーディアは一人胸の中にしまっていた。誰にも公表することなく、一人で。ならば、リリーもそうしよう。
信じられない気持ちと、それが真実であるとわかっている気持ち。父親に、どう向き合えばいいのかわからない。
なんとか、平静を装えていた……とは、思う。
「はぁ……」
「お疲れ様でした、リリー様」
自室に戻り、ベッドに倒れ込んだリリーにメラが、労いの言葉をかける。主の心労は、理解しているつもりだ。
なにせ、実の父親が、尊敬していた人を貶めたのだから……
「それにしても、セント町ですか」
「メラ、知ってるの?」
「いえ、初めて聞いた地名です」
少なくとも、この周辺にある町ではない。聞いた話では、かなり遠くに……それこそ、本来ならば関わることがないほど、遠くにある町のようだ。
わざわざそのような町に人を送るなど……どうやら国王は、よほど人々の支持を得たいらしい。
「ゲルド様は、そこへ行くと?」
「そう言ってたよ」
「……そう、ですか」
なんだろうか、妙な胸騒ぎを、メラは感じていた。胸の中が、もやもやする感覚だ。
だからだろうか。自分でも気づかないうちに、言葉が出ていた。
「私も、行ってみましょうか……セント町へ」
「え……」
それは、リリーにとって予想外の言葉だった。まさか、メラが自分からそのようなことを言うとは、思わなかったからだ。
ベッドから、起き上がる。
「どうしたの、いったい?」
「……自分でも、わかりません。ですが……なぜでしょう。どうにも、放っておけはしないんです」
メラ自身、この気持ちはわからない。それでも、このもやもやを晴らすために、足を運ぼうと、思ったのだ。
珍しいメラの言葉……だからこそ、リリーでもなにを言っても止められないことは、わかっている。
「じゃあ、お休みでも取る?」
「いえ、【分身】を使えば事足りることです」
「そ、そう?」
メラの【分身】ならば、リリーの側に仕えたまま別の場所に自分の意識を飛ばすことができる。その実、どちらが本体でどちらが分身かわからないほどだ。
ゲルドが、動く……そのことに、メラは一抹の不安を覚えていた。だからだろうか、彼の後を追うようにセント町へ向かうことを、決めたのは。
そこにいけば、探していた答えが、見つかるような気がして。
「ゲルド様が発つのはいつでしょうか?」
「うーん、それは聞いてないけど……明日明後日のことじゃ、ないと思うよ」
「わかりました」
ならば、今の段階から【分身】で、ゲルドを見張っておいたほうがいいだろうか。
彼が発つよりも先に、準備を済ませなければならない。
……意図せずに、ファルマー王国の人間が、ロア……アーロのいる場所へと、近づきつつあった。
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