異世界病み記 ~そのヒロイン、好意が行き過ぎに付き~

白い彗星

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第四話 勇者は旅の中で絆を紡ぐ

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「エイジ、そっちに行ったぞ!」

「はい!」

 勇者パーティーが国を出て、数日が経った。
 その間にも、英治たちは着実と歩みを進めていった。

 訓練した英治を始め、勇者パーティーのメンバーは優秀な者ばかりだった。
 さすがは、各地から集められたという、優秀な人材たちだ。

「もうすっかり、戦士の顔ね、エイジ」

「いやぁ、まだまだだよ」

 実際、エイジがこうして戦えているのは、仲間たちのおかげだ。
 彼女たちのサポートがなければ、今頃は魔物の餌になっていても、おかしくはない。

 カリィ、リヤ、ダニー、ピアミア……そして、英治。
 この五人であれば、魔王だってなんだって倒せるだろう。
 確信にも似た、気持ち。

 そして、こうして旅を続けていくうちにも、仲間たちの絆にも、変化はあって……


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「ピアミア、こんな遅くまで祈ってるの?」

「あ、エイジ様」

「様はやめてくれよ」

 ある夜、野宿をしていた一行。寝付けず、起きて散歩していた英治。
 そこで、神官の衣に身を包み、祈りを捧げているピアミアの姿があった。

 曰く、神官とは神への、そして精霊への祈りをおろそかにしてはいけないらしい。

「隣、いい?」

「もちろんです」

 二人は、夜空を見上げ、夜風に当たる。
 隣に座る英治をチラチラ見るピアミアは、「あの」と声を出して。

「ありがとう、ございます」

「ん?」

 これまで、神官として過ごしてきて……平民でありながら神官を務める彼女に、良い顔をする者は少なかった。
 だが、平民だからと関係なく接してくれたのが、英治だ。

 それに、精霊術を使う際に無防備になってしまう自分を、いつも守ってくれる。

「そんなん気にしなくていいって。
 仲間なんだから」

「……あ、あの、私、エイジ様のこと……」

 いつしか、頼もしい彼に惹かれていった。
 この気持ちを、抱えたままはつらい……吐き出せば、楽になるのだろうか。

 後少しというところで、しかし彼女は口を閉じる。

「いえ。この旅が無事に、終わるといいですね」

「あぁ。そうだな」

「そうしたら……」

 今度こそ、この言葉の続きを……
 少女は、己の小さな胸に手を当て、この気持ちをしまい込んだ。

 この旅が終わったら、きっと伝えよう……そう、胸に誓って。


「………………」


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「……なにしてるの?」

「いや、魔法がもっと上達しないかなーと」

 ある昼。食料調達のため、英治とリヤは一組になり、行動していた。
 しかし、英治の不審な行動に、リヤは呆れたようにため息。

「いくらあなたが勇者でも、そんなポンポン成長されたら、私の立つ瀬がない」

「あはは」

 普段無言なリヤも、魔法の話題の時はある程度饒舌になる。
 少し、かわいらしい面でもある。

「サボってないで、手を動かす」

「へーい」

 相変わらず、厳しいことに変わりはないが。
 とはいえ、リヤと二人の時間が英治にとって苦痛であるかと言われると、そうではない。

 なんだかんだ、優しい子なのだ。

「というか、あなたは……いろいろ、できることが、あるでしょ」

「んー、まあ、な。けど、どれも中途半端だから」

 勇者の力として、あらゆる武器も、魔法も、ある程度は使える。
 だが、あくまである程度、だ。

 一つの分野を極めているわけでは、ないのだ。

「……そんなに、魔法が上手になりたいの?」

「おう! だって、かっこいいじゃん!」

「……はぁ」

 実用的とかではなく、かっこいいから。
 その答えに、リヤは再びため息。

 だが、うっすらと口元には笑みを浮かべていた。

「そんなに魔法が上達したいなら……ひ、暇なとき、教えてあげる」

「え、ホントか!?
 そりゃ嬉しいな!」

「! ひ、暇な時だけだから!
 は、早く、手、動かして!」

 リヤは魔法のエキスパートだ……だが、それだけ。
 他にとりえがあるかと聞かれれば、困ってしまう。
 言ってしまえば、魔法が自分の存在意義だ。

 それを、必要としてくれる人がいる。
 それは、リヤにとって飛び上がりたいほど、嬉しいことだった。

「暇なとき、暇なときね」

「はは、わかったって」

 リヤにとっても、英治と二人きりの時間は、嫌ではなかった。


「………………」


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「かぁーっ、いい湯だな!」

「ダニー、なんかおっさんくさいぞ」

「おっさんだもんよ、仕方ねえだろ」

 根無し草の勇者パーティーにとって、身を休めることができる場所は貴重だ。
 訪れた村や国、それに……温泉。
 たまに、温泉を見つけることができた。

 今は、英治とダニー、男二人で湯に浸かっている。
 多少なり鍛えたとはいえ、ダニーに比べると自分の体が恥ずかしく感じてしまう英治。

「すごいよなダニーは」

「あん? なにが」

「いや、その筋肉と言うか……なんしたらそうなるの」

「かっはっは! そこはお前、人生の経験値が違うからな!」

 裸と裸の付き合い。勇者パーティーには異性の比率が多いため、こうして恥ずかしげもなく話せる空間は貴重だ。
 英治の悩みを、しかしダニーは笑い飛ばす。

「お前くらいの年なら、まだこれからだ!
 それに、この二の腕とか腹筋とか、なかなか筋肉ついてんじゃねえか!」

「わっ、ちょっ、いきなりさわっ……あ、ははは!」

 英治にとって、お兄さんというかお父さんとも言える相手。
 パーティーの最年長なだけあって、頼りがいがある。

 そんな彼とのスキンシップは、気恥ずかしいが楽しくもあった。
 とはいえ、以前耳にした、ダニーは男女イケる、という話を思い出すと妙に警戒してしまう。

「だいたい、いちいちそんなことで悩んでんじゃいぞ! 勇者のくせに玉のちいせえこと考えやがって」

「なっ、結構真剣な悩みなんだが!?」

「かっははは! ちいせえちいせえ!
 どれ、あっちの方もちいせえのか、確認してやろう!」

「わっ、や、やめろ!」

 騒がしい、日常。
 だが、このひびが、英治は嫌いではなかった。


「…………あ、鼻血が」


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