異世界病み記 ~そのヒロイン、好意が行き過ぎに付き~

白い彗星

文字の大きさ
9 / 10

第九話 帰還した勇者は再会を果たす

しおりを挟む




 ……目覚めた英治の視線の先には、見知らぬ天井があった。
 いや、見知った天井だ。
 なぜならここは……自分の、部屋なのだから。
 毎朝目覚めるたびに見てきた光景だ、間違えるはずもない。

 戻ってきた……異世界から、元いた世界へ。
 実感が無いのは、あまりにあっさりしていたからだろうか?

 あれは、夢ではないのかという気分にさえなってくる。もしくは、これが夢か。
 けれど……

「あー、やっと起きた!」

 耳をつくほどの声が、英治の耳に届いた。
 これもまた、聞き覚えのある声だ。

 その方向へと、視線を向けると……

「……花奈(かな)?」

「そうだよ!」

 幼馴染の、夏川 花奈が、そこに座っていた。
 ベッドに眠る英治を、覗き込むように見つめて……次第に目に涙を溜めて、抱きついた。
 幼馴染とはいえ年頃の異性に抱きつかれているが、正直慌てるどころではなかった。

 この体温……夢では、あり得ないだろう。
 あぁ帰ってきたのだ、と、英治はようやく実感したのだ。

 その後、軽く事実確認。どうやら、英治はこの三日、消息を絶っていたらしい。
 それが、おそらくは異世界に召喚されたことと、関係はあるのだろうが……

「……たった、三日?」

 三日という単語に、英治は困惑した。

 それは、あり得ない。だって、異世界には三日どころか、一年以上いたのだ。
 こちらでも同じだけ時間が経ってないと、おかしい。

 花奈が嘘をついている可能性も考えたが、そんなことをする理由がない。それに、カレンダーを確認すると、今日は英治が異世界召喚されてから確かに三日目だった。
 あの朝、スマホで寝起きに日付を確認していたから、間違いない。

 ということは……異世界とこの世界とでは、時間の流れが違うのか。

「まったく、どこ行ってたのよ」

「いや、それは……
 か、花奈こそどうして、俺の部屋に?」

「なによ、心配してあげてたのよ。英治がいなくなって、おばさんたちに連絡することも考えたけど、あんまり心配させてもなって。
 ま、今日も帰ってこなかったら、連絡するつもりだったけど」

 どうやら花奈は、英治がいなくなってからも、英治が帰ってきていないか、部屋に来て確かめてくれていたようだ。
 毎日会っていた幼馴染が消息を絶ち、それはそれは不安だっただろう。
 そして、今日来てみたら、英治がのんきに寝ていた、と。

 心配をかけてしまったようだ。彼女には、本当のことを話したほうがいいだろうか。
 とはいえ、異世界に行っていたなんて話、信じてもらえるかどうか。

 ともあれ、両親に心配されたり警察沙汰になっていないのは英治にとっては助かった。

「ま、でもよかったわ。あの子だって心配してたんだから」

「そっか、心配かけて悪かった……って、あの子?」

 ふと、花奈の言葉が気になった。
 あの子、と、特定の人物を指す言葉だ。

 英治にもそれなりに友達は多いが、花菜とも知り合いで、且つあの子と呼ぶほど互いにとって親密な子。
 ……いただろうか。

「聞きたいことはたくさんあるけど、とりあえず安心させてあげなきゃ。立てる?」

「あ、あぁ」

 帰ってきたばかり、とはいえ、動けないわけではない。
 寝起きの気だるさのようなものはあるが、それだけだ。
 誰であろうが、心配させてしまったならば顔くらい、見せてやらないといけないだろう。

 花奈の手を取り起こされ、そのまま花奈が先導し、英治はついていく……
 部屋を出て、外へ。どこかへと向かう。

「なぁ、どこに……」

「ほら、あの子も待ってるよ!」

「あの子?」

 手を引っ張られ、花奈は嬉しそうに走っていく。
 その嬉しそうな表情に、つい気が緩んでしまいそうになるが……

「って、誰のことだ?」

 まったく心当たりがない相手のところに向かっているのだ、若干の不安はある。

「もー、忘れちゃったの? もしかして頭打ってたり?」

「いや、そうじゃないんだが……」

 頭打って記憶が飛んだのではないか、と花奈は冗談交じりに言う。
 それでも、英治が心当たりがなさそうな表情を続けていると……

「もー、昔からよく遊んだじゃない……幼馴染"三人で"」

「……!?」

 呆れたような表情で、唇を動かした。

 その言葉に、英治は絶句した。
 だって、そうだろう……おかしいではないか。

「ねえ、ほんとに大丈夫?」

 今度は花奈は、心配そうに首を傾げる。
 それだけ英治が、心配するような顔をしているのだろうが……
 それどころでは、なかった。

 花奈は言った。幼馴染"三人で"と。
 でも、それはおかしいのだ。

 幼馴染……それは、自分と、この女の子花奈の"二人だけ"、だ。三人目の幼馴染を忘れている……そんなことは、おそらくありえないはずだ。自分は、そんな薄情な人間ではない。
 嘘を言っているようでもない。冗談を言っているようでもない。

 本当に、幼馴染が三人いると、そう信じている。
 もしかして、異世界召喚の弊害で記憶の一部が、失われていたりするのだろうか。
 もしそうなら、その幼馴染には申し訳ないことをしたが……そうで、ないならば……

 ならば……

「あ、いたいた!」

 と、花奈は手を上げる。
 視線の先に、見つけた"幼馴染"に向かって、親しげに。

 それに伴い、英治も視線を向けて……

「……うそ、だろ……?」

 その姿を認めた瞬間、声が漏れてしまったのを誰も責められまい。
 だって、だって……

 いるはずのない人間が、そこにいたのだから。

 美しい金色の長髪、透き通るような肌、誰もが見惚れる美貌……そして、英治の知っている"彼女"よりも背が高く、顔つきも凛々しくなり、胸も膨らんでいる。
 だが、そこにいるのは間違いなく"彼女"だ。

 間違えるはずもない。そこに、いるのは……

「や、英治♪」

「…………カリィ……」

 異世界にいるはずの、少女だったのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

処理中です...