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第九話 帰還した勇者は再会を果たす
しおりを挟む……目覚めた英治の視線の先には、見知らぬ天井があった。
いや、見知った天井だ。
なぜならここは……自分の、部屋なのだから。
毎朝目覚めるたびに見てきた光景だ、間違えるはずもない。
戻ってきた……異世界から、元いた世界へ。
実感が無いのは、あまりにあっさりしていたからだろうか?
あれは、夢ではないのかという気分にさえなってくる。もしくは、これが夢か。
けれど……
「あー、やっと起きた!」
耳をつくほどの声が、英治の耳に届いた。
これもまた、聞き覚えのある声だ。
その方向へと、視線を向けると……
「……花奈(かな)?」
「そうだよ!」
幼馴染の、夏川 花奈が、そこに座っていた。
ベッドに眠る英治を、覗き込むように見つめて……次第に目に涙を溜めて、抱きついた。
幼馴染とはいえ年頃の異性に抱きつかれているが、正直慌てるどころではなかった。
この体温……夢では、あり得ないだろう。
あぁ帰ってきたのだ、と、英治はようやく実感したのだ。
その後、軽く事実確認。どうやら、英治はこの三日、消息を絶っていたらしい。
それが、おそらくは異世界に召喚されたことと、関係はあるのだろうが……
「……たった、三日?」
三日という単語に、英治は困惑した。
それは、あり得ない。だって、異世界には三日どころか、一年以上いたのだ。
こちらでも同じだけ時間が経ってないと、おかしい。
花奈が嘘をついている可能性も考えたが、そんなことをする理由がない。それに、カレンダーを確認すると、今日は英治が異世界召喚されてから確かに三日目だった。
あの朝、スマホで寝起きに日付を確認していたから、間違いない。
ということは……異世界とこの世界とでは、時間の流れが違うのか。
「まったく、どこ行ってたのよ」
「いや、それは……
か、花奈こそどうして、俺の部屋に?」
「なによ、心配してあげてたのよ。英治がいなくなって、おばさんたちに連絡することも考えたけど、あんまり心配させてもなって。
ま、今日も帰ってこなかったら、連絡するつもりだったけど」
どうやら花奈は、英治がいなくなってからも、英治が帰ってきていないか、部屋に来て確かめてくれていたようだ。
毎日会っていた幼馴染が消息を絶ち、それはそれは不安だっただろう。
そして、今日来てみたら、英治がのんきに寝ていた、と。
心配をかけてしまったようだ。彼女には、本当のことを話したほうがいいだろうか。
とはいえ、異世界に行っていたなんて話、信じてもらえるかどうか。
ともあれ、両親に心配されたり警察沙汰になっていないのは英治にとっては助かった。
「ま、でもよかったわ。あの子だって心配してたんだから」
「そっか、心配かけて悪かった……って、あの子?」
ふと、花奈の言葉が気になった。
あの子、と、特定の人物を指す言葉だ。
英治にもそれなりに友達は多いが、花菜とも知り合いで、且つあの子と呼ぶほど互いにとって親密な子。
……いただろうか。
「聞きたいことはたくさんあるけど、とりあえず安心させてあげなきゃ。立てる?」
「あ、あぁ」
帰ってきたばかり、とはいえ、動けないわけではない。
寝起きの気だるさのようなものはあるが、それだけだ。
誰であろうが、心配させてしまったならば顔くらい、見せてやらないといけないだろう。
花奈の手を取り起こされ、そのまま花奈が先導し、英治はついていく……
部屋を出て、外へ。どこかへと向かう。
「なぁ、どこに……」
「ほら、あの子も待ってるよ!」
「あの子?」
手を引っ張られ、花奈は嬉しそうに走っていく。
その嬉しそうな表情に、つい気が緩んでしまいそうになるが……
「って、誰のことだ?」
まったく心当たりがない相手のところに向かっているのだ、若干の不安はある。
「もー、忘れちゃったの? もしかして頭打ってたり?」
「いや、そうじゃないんだが……」
頭打って記憶が飛んだのではないか、と花奈は冗談交じりに言う。
それでも、英治が心当たりがなさそうな表情を続けていると……
「もー、昔からよく遊んだじゃない……幼馴染"三人で"」
「……!?」
呆れたような表情で、唇を動かした。
その言葉に、英治は絶句した。
だって、そうだろう……おかしいではないか。
「ねえ、ほんとに大丈夫?」
今度は花奈は、心配そうに首を傾げる。
それだけ英治が、心配するような顔をしているのだろうが……
それどころでは、なかった。
花奈は言った。幼馴染"三人で"と。
でも、それはおかしいのだ。
幼馴染……それは、自分と、この女の子花奈の"二人だけ"、だ。三人目の幼馴染を忘れている……そんなことは、おそらくありえないはずだ。自分は、そんな薄情な人間ではない。
嘘を言っているようでもない。冗談を言っているようでもない。
本当に、幼馴染が三人いると、そう信じている。
もしかして、異世界召喚の弊害で記憶の一部が、失われていたりするのだろうか。
もしそうなら、その幼馴染には申し訳ないことをしたが……そうで、ないならば……
ならば……
「あ、いたいた!」
と、花奈は手を上げる。
視線の先に、見つけた"幼馴染"に向かって、親しげに。
それに伴い、英治も視線を向けて……
「……うそ、だろ……?」
その姿を認めた瞬間、声が漏れてしまったのを誰も責められまい。
だって、だって……
いるはずのない人間が、そこにいたのだから。
美しい金色の長髪、透き通るような肌、誰もが見惚れる美貌……そして、英治の知っている"彼女"よりも背が高く、顔つきも凛々しくなり、胸も膨らんでいる。
だが、そこにいるのは間違いなく"彼女"だ。
間違えるはずもない。そこに、いるのは……
「や、英治♪」
「…………カリィ……」
異世界にいるはずの、少女だったのだから。
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