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第4章 騎士学園での騒動
王族
しおりを挟む「なんかあっという間だったな」
入学試験の日から、時間が経ち今日は入学日。その間、なんだかんだであっという間だった気がする。
俺とノアリ、そしてミライヤは合格し、今日から学園に通うことになる。試験では好成績を納めたし、その他も入学に問題ないとのことだ。
結局、学園に通うにあたって寮生活をすることに。せっかくの学園生活なのだから、少しでも馴染んでこいという結論になった。なので、この家とはしばらくお別れだ。
「うぅ、寂しくなるわねぇ……」
「なにかあったらすぐ帰ってきてくださいね?」
心配して涙ぐんでいる母上と、思いの外心配の様子を見せてくれたアンジー。思い返せば、アンジーとは本当にずっと一緒にいたもんな。日々の生活はもちろん、『呪病』の一件でも一緒に旅をしていた。
その期間があるから、両親やキャーシュよりもアンジーと一緒にいた時間が濃いのかもしれない。父上は家を空けることが多かったし。
そしてキャーシュは……
「兄様……頑張ってください!」
寂しそうな顔を見せながらも、気丈に振る舞っている。あぁ、まったくキャーシュはかわいいなぁ。
キャーシュと離れるのは苦渋の決断だが、なにもずっと会えなくなるわけじゃない。距離が近いのだから、休みの日なんかにちょくちょく帰ってくればいい。
「ヤーク、励めよ」
「父上……」
そう言って俺の頭に手を置いてくるのは、父上……大きく温かな手は、普通であれば安心するものなのだろう。だが、俺は今すぐにでも払いのけてしまいたかった。
騎士学園に入学し、剣の腕を磨く。それは最終的な目標として、父上……ガラド・フォン・ライオスを殺すことにある。然るべき場所で然るべき訓練を。そうすれば、今以上に強くなれるだろうとはロイ先生の言葉だ。
俺は『呪病』の一件の旅から戻り、自分の実力を再確認した。子供のゴブリンに、ギリギリ勝つことができた。ゴブリンなんて、ある程度の実力があれば苦労なく勝つことができる。
そんなのに苦戦するようじゃ、ガラドを殺すなんて夢のまた夢。だから俺は、より鍛練に励んだ。ちなみに先生は、予定が入っているので来れなかったようだ。残念がっていた。
俺が転生してから16年……俺が死んでからだと、19年か。あの頃と比べれば、ガラドも年を取った。とはいえ、まだまだ現役だ。そんな人物に、勝つにはさらに実力をつける必要がある。
「じゃ、行ってくる!」
さて、別れの挨拶もそこそこに……俺は家を出る。外ではノアリが待っていたので、一緒に登校する形だ。
こうして隣り合ってあるくことに、初めの頃は少し抵抗はあった。幼なじみびいきを除いても、ノアリは美人だ。成長した今はよくわかる。そのノアリと並んで歩いていれば、当然注目はされる。
今となっては、まあ慣れたしな。
「ふふーん♪ 楽しみね!」
「そんなに楽しみなのか、なんか意外だな」
ノアリは当初からこの学園を受けるつもりはなかったようだが……俺がこの学園を受けると話して、急にここを受けるように努力を始めた。
それで本当に合格するんだから、すごい奴だよな。
「せっかくの学園だもの、楽しまないと!」
「ま、それもそうだな」
それには俺も同意見だ。せっかくの学園生活なんだから、楽しまないとな。
転生した俺の目的は、ガラドを殺すこと。だが、それを俺の人生の終わりにするつもりはない。いかにして秘密裏にあの男を殺すか。そしてせっかくの第二の人生を、どう謳歌するかだ。
どうして、もしくは誰がなぜ、俺を転生させたのかは知らない。だが、わからないならわからないで楽しむだけだ。
「人が多いわね……あれ、あそこ人だかりができてるわ」
学園に近づくにつれ、人は多くなってくる……そして、入り口の付近で、人だかりができているのを発見。
一瞬、入学試験日のミライヤの件を思い出したが……さすがに平民だからって、朝からこんな堂々とした場所であんなことは起こらないだろう。
それに、人だかりの感じはあの時のような、悪意を感じるものではなくて……
「……おや」
「ん?」
この人だかりが邪魔でなかなか前に進めない。いっそ払いのけてしまおうかと考えていたところへ、人だかりの中心にいた人物と目があった。
誰だろう……なんか、見覚えがあるような。あ、こっち来た。その際、人だかりはその人物の道を作るように、避けていく。
「やあ、キミはヤークワード・フォン・ライオスくんだね?」
「え? はぁ、そうだけど」
その人物は、人のいい笑みを浮かべ、俺の手を取る。肩まで伸びた金髪に、吸い込まれそうなほどに澄んだ水色の瞳。さらに頭の先からアホ毛が伸びている。
なんという美形だろう。キャーシュもなかなかの美形だが、悔しいことに負けていない。
とはいえ、いきなり手を握られるほどに面識などないはずだが……気のせいか、周囲がざわついている。俺の隣にいるノアリなんて、見たことがない顔をして固まっている。
「ノアリ? どうした?」
「どどっ、どうしたって……あんたこそ、なんでそそ、そんなに、冷静なわけ!?」
「なにが」
ノアリがなにをそんなに慌てているのか。俺の返答を、まるで信じられないとでも言いたそうだ。
身ぶり手振りでなにかを伝えようとしているが、やがて諦めたように……
「そ、その方がどなたかは、知ってるわよね?」
「いや」
直球に問いかけてきたが、俺が首を横に振るとさらに衝撃を受けた顔に。おいおい、そんな顔するもんじゃないぞ。
しかし、知ってて当然の人物ってことか。それも、ノアリが……貴族が、敬語を使うほどの……
「はは、申し遅れたね。ボクはシュベルト・フラ・ゲルド、以後お見知りおきを」
「あぁこれはどうもご丁寧に。……ん、ゲルド?」
「こ、この国の、王族よ! 第一王子の、シュベルト様よ!」
聞き覚えのある名前、というか単語に首をかしげる。引っ掛かる。その引っ掛かりに答えをくれたのが、痺れを切らしたようなノアリの言葉だった。
あぁ、ゲルド……この国の名前ゲルド王国か。それに、王子ということはなるほど……道理で見覚えがあるはずだ。王子ならば、どこかで見る機会もあったということで……
「……王子?」
「とりあえず、そういう肩書きってことかな」
……つまり、今……俺は王子に、手を握られて、いるのか……
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