92 / 307
第4章 騎士学園での騒動
フレンドリー王子
しおりを挟む「あっはははは」
王族に手を握られ、笑みを浮かべられている。人のよさそうな、純粋な笑顔だ。
どうしてこんなことになっているんだ。
「なあノアリ、これどうなってんの?」
「こっちが聞きたいわよ」
だよな……
さすがに王族と会話したことはない。何度か、王族の住んでいる城に連れていかれたこともあった気がするが、それも昔のことだし口を開くことはなかった。
俺の家柄は、確かに一般貴族よりも位が上だとはいえ、それよりも王族は位が上だ。そんな立場の人間とどう話せばいいのか……わかんなくなってきたぞ。そもそも、この人はどうしてこんなに……
「シュベルト様」
「あ、おっとすまない。いきなりで驚かせてしまったな」
されるがままでどうしたらいいか呆然としていたが、シュベルト様の隣に立つ女性が声をかけたことで、我に帰ったかのように手を離される。
ほっ、なんとか離してもらえた。にしても……この、制服は……
「ええと、いろいろ聞きたいこともありますが……シュベルト様、その制服は……」
「あはは、シュベルトでいいよヤーク。あ、ヤークって呼んでいいかな。そうそう、ボクたちもこの学園に入学するのさ」
聞いたこと以上の情報が帰ってきた。返答の中にすごい距離を詰められたなおい。
なぜにこんなにフレンドリーなのかもすごく気になるが……思っていた通り、この学園の制服を着ているということは、この学園に通うらしい。なんで王族が学園に通ってんだろう。
その際、ボクたちと言っていた。ということは……と隣に立っている先ほど声をかけた女性に目を向ける、女性は軽く頭を下げる。
白髪の中にうっすらと水色みのある腰まで伸びた髪を後ろで縛って一本にしている。凛とした佇まいは、どことなくアンジーを思い出させる。シュベルト様と呼んだり、今の仕草からもしかして、彼女はシュベルト様の侍女なのだろうか。
「え、えぇ……俺のことは、好きに呼んでください」
「じゃあヤークで! これから仲良くしてくれると嬉しいんだけど、どうかな!」
……初対面の相手にこんなにまで迫られるというのは、ある意味で恐怖だな。とはいえ、断る理由も勇気もない。
「も、もちろん……というか、なんで俺と?」
仲良くしたいと向こうから言ってくれるのはありがたいことだし、しかも王族なんてこっちからおいそれと話しかけられるものではない。ここで仲良くなっていれば、今後いいことがあるかもしれないし。
ただ、それはいいとしても理由を知りたい。なぜ、会ったばかりの俺と、仲良くなりたいのか。
「なんで、か……以前からキミに、興味があったからかな」
「興味?」
「勇者『フォン・ライオス』の家系に生まれ、その実力もかなりのものだ。この間の入学試験を見ていたよ」
俺への興味と言ったら、まあそのくらいだよな。王族にとっても、『勇者』の家系は珍しいのだろう。
しかし、直後に「それに……」と、彼は続ける。
「多分、キミとボクは似てるんじゃないかなって」
「俺と……シュベルト様が?」
「シュベルトでいいって。王族、勇者……ただ生まれがそこってだけで、周囲が萎縮してろくに友達もできない。さっきだって、こっちから話しかけようとしても遠巻きに騒がれるだけだしね」
そう話すシュベルト様の顔は、少し寂しそうだった。なるほど……貴族ってのは家柄を気にする生き物だ。それが、自分たちより位の高い王族に話しかける奴はそういないだろう。
そうなれば、年の近い友達が作れるかどうか……上流貴族ならまだしも、王族ならばなおさらだ。
俺だって、初めての友達はノアリだが……ノアリ以外に友達がいるかと言われると、な。ヤネッサやクルドは友達だが尊敬すべき相手でもある。そういった意味で純粋に友達として接しているのは、ノアリだけだ。
……俺も友達いなかったんだな。ノアリがいなかったら完全に。
「俺でよければ……ぜひ、こちらからお願いしたいくらいです」
「おぉ、ありがとう! そんなかしこまった言葉じゃなくてもいいよ、タメ口で頼む!」
立場の関係ゆえに、友達ができなかった、か。確かに俺たちは似ているのかもしれない。
隣の侍女さんは、友達って感じでもなさそうだし。あくまで侍女なのだろう。シュベルト様にとってのノアリみたいな存在、とはまた違うのだろうな。
「ええと……仲良くするのはこちらとしても願うところですが。話し方が呼び捨てにタメ口というのは……」
「頼むよ! 憧れていたんだ気楽に話し合える友人を!」
呼び捨てタメ口を頼まれる……ってのも、変な気持ちだな。俺自身、これまで誰かに敬語を使ってきた記憶は、先生くらいしかないけれど……
さすがに王族に、タメはどうなんだ? いくら貴族社会の上下関係を気にしない俺でも、王族相手には気が引ける。
けど、本人たっての希望だしな……それに、似た者同士だからとせっかく俺に話しかけてくれたのに。
「い、いきなりは難しいかもなんで……じ、徐々に、ってことで。シュベルト……様」
「むぅ……まあ、それならいいか」
とりあえず、徐々に慣らしていくことに。うん、話しやすいというか面白い人には違いないんだがな。手を取られたまま、ブンブン振られる。
そして、シュベルト様の視線は次に、俺の後ろにいたノアリへと向けられる。
「キミは、ノアリ・カタピルくんだね! キミとも仲良くしたいな!」
「は、え、え、私、ですか!?」
同じようなやり取り。ノアリはさすがにおそれ多すぎてそんなにフレンドリーには接することはできなさそうだが、ひとまずこうして仲を深めることには成功したようだ。
……周りの視線が多くなってきている。それはそうだ、学園の入り口でこんなこと。とにかく、中へ入らないと。
「あ……や、ヤーク、様にノアリ様!」
「この声……」
ふと、聞き覚えのある声が。振り向くと、そこには制服に身を包んだミライヤがいた。入学することになった彼女も、当然この入り口を通ることになる。
そんなミライヤは嬉しそうに、俺たちに近寄ってきて……俺の手を取っている人物を見て……
「は、は、はぅ、お、王族、の……し、しゅ、しゅ……はぅう~……」
顔を真っ赤にして、その場に倒れた。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?
mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。
乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか?
前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる