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第5章 貴族と平民のお見合い
その理由は?
しおりを挟むビライス・ノラムに話しかけられた俺とノアリは、彼についていき屋上へと向かった。彼は一方的に知っているだけだ、ちゃんと話したことはない。
だが、話の内容がミライヤに関することとなれば……無視するわけにもいかない。
「……」
問題は、なぜミライヤのことに関して、俺たちに話しかけてきたかだ。
ビライス・ノラムはミライヤと、恋人一歩手前といった関係だ。だがそれは誰にも話さないようにと言われていたらしい。ミライヤは、俺とノアリに話してしまったが。
だが、ミライヤがお見合いやデートの件を、俺とノアリに話したとビライス・ノラムは知らないはずだ。
「それで、ミライヤのことで話って?」
屋上につき、出入り口である扉を閉めてからノアリが問う。ビライス・ノラムが、俺たちに話したいことの内容を。
小さくうなずき、ビライス・ノラムは口を開く。
「お二人も知っての通り、ミライヤさんは最近欠席が続いています。その理由について、なにかご存じでないかと」
「……それだけ?」
「え、えぇ?」
ビライス・ノラムの話の内容……それは、最近ミライヤが欠席していることについて、俺とノアリがなにか事情を知らないか、というものだった。
つまり……ビライス・ノラムも、ミライヤが欠席している理由を知らない。欠席の理由を求めているのは、俺たちと同じということか。
「あの、どうかしました?」
「あ、なんでもないのよ。私たちにも理由はわからなくて……てっきり、あなたがなにか知っているんじゃないかと思っていたくらいで」
「そうでしたか。彼女と親しくしているお二人なら、なにか知っているかと思ったのですが」
あぁ、なるほど……ビライス・ノラムが俺とノアリに、ミライヤのことについて聞いてきたのは、単にミライヤと俺たちが親しくしているから、か。
確かに教室、いやこの学園内でもミライヤと親しい者ははるかに少ない。ならば、教室でよくミライヤと話している俺たちがなにか知っているかもと、そう思っても不思議じゃないってことか。
「ごめんな、役に立てなくて」
「あ、いえ、とんでもないですっ」
ふむ、こうして直接話していると……まさに好青年って感じだ。ミライヤを心配しているのも、本心からのように感じる。
それは、俺やノアリという立場の上の人間だから、そしてミライヤの友達だから無理に演技している、という様子ではないようだ。
横目でノアリの表情を確認すると、ノアリも似たような気持ちを抱いたのか小さくうなずく。
「でも、なんだか嬉しいわ。ミライヤのことを、心配してくれるなんて」
教室内で、ミライヤを心配する声はない。いくらミライヤが最近明るくなってきたからと言って、所詮貴族が平民の安否を心配することなどない。
だから、こうしてミライヤのことを心配してくれるのは、素直に嬉しい。
「同じ組の仲間ですから。それに彼女とは、個人的な付き合いもありまして」
「ふーん?」
照れたように、ビライス・ノラムは笑う。仲間、か……それに、個人的な付き合いがあるとまで。これはもう、ミライヤとの関係を知られてもいいと思っているのか。
とはいえ、無理に聞き出すことはしない。あくまで、向こうから言ってくれるまで待つとするかな。
「こほん、ともかく……誰も、ミライヤの欠席の理由を知らないのか」
「そうなるわね。同室のリィは、別に風邪とかじゃないし普通に顔も会わせてる、って言ってたけど」
「そうなんですか……」
ビライス・ノラムがミライヤのことを本気で心配してくれているのはいいことだ。それはそれとして、結局のところ、問題が解決したわけではない。
ミライヤが欠席している理由……これが風邪とかなら、心配ではあるが安心だ。だが、そうではないとリィが証明している。ノアリも、会えこそしなかったが部屋まで行き、ミライヤの声を聞いている。部屋の中にいるのは、確かなはずなんだ。
だからこそ、原因がわからない。理由が思い当たらない。
こうなれば、まずはリィと直接話してみるか? リィからリエナさん、そしてリエナさんからシュベルト様を通じて話を聞いているため、俺はリィから直接話を聞いたわけではない。
間にいる2人を疑うわけではない。だが、ミライヤと唯一顔を会わせているリィに直接、話を聞いてみるのは、なにもしないよりはマシに思えた。
「こっちはミライヤのこと、いろいろ調べてみるよ。だからそっちも、ミライヤのこと気にしておいてくれ」
「はい、もちろんです。なにかわかったら、すぐに伝えます」
ミライヤが部屋に閉じこもったその理由はいったいなんなのか? それを、絶対に突き止める。
リエナさん、シュベルト様もこの件について知っている。頼めば2人も力を貸してくれるだろうし、ミライヤのために協力してくれる人間はいる。
ミライヤがなにかを抱えているなら、それを一緒に解決してやりたい。そのために、やれることはなんだって……
……この時の俺は、まだ気づいてすらいなかった。ミライヤが、今どれだけ危険な状態にあるのか、を。
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