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第5章 貴族と平民のお見合い
ミライヤの欠席
しおりを挟む「今日も来なかったわね」
「あぁ……」
ミライヤが授業を休むようになった。原因はわからない。なんせ、本人と話せていないのだから。
ミライヤと部屋が同じであるリィ……そのリィと同じ組であるリエナさん。そのリエナさんはシュベルト様の侍女であり、ミライヤに関しての情報はシュベルト様を通じて毎日入ってくる。
どうやら、原因は同室であるリィにもわからないらしい。なにかあったのか、それを聞いても話したくないの一点張り。かといって、具合が悪いわけでもない。当然毎日顔を会わせるし、ご飯もちゃんと食べている。
それも、購買で買ったものや自分で作ったものばかりであり、食堂に行くなど外に出ることはない。リィ以外、誰とも顔を会わせようとはしない。
もしかしたら、同室でなければリィでさえも……
「ノアリも、会えなかったんだよな?」
「えぇ。会いたくないの一点張りで」
心配になったノアリは、何度かミライヤの下を訪れたようだ。しかし、ノアリが言うように会いたくないとのことで、会うには至らなかった。
リィと同室だし、鍵をかけてもリィに頼めば開けてもらえる。そうしなかったのは、無理に部屋に押し入っても解決しないと考えてだろう。
「あんなに、楽しそうだったのにな」
休むより前のミライヤは、学園生活そのものが楽しそうだった。ビライス・ノラムとのデートを経て、貴族に対する認識は良くなり、入学前の一件以来近寄りがたかった貴族にも自ら歩みを見せていた。
もっとも、当の貴族からは平民だからと見下されていたが。まあ、俺やノアリの目があるからか表情に少し出すくらいだったが。
なにより、ビライス・ノラムの前ではよく笑うようになっていたのに。
「やっぱり、あいつが原因かしら」
「いや、さすがに決めつけじゃないか」
あいつ、とノアリが睨みを向けるのは、今しがた考えていたビライス・ノラムだ。彼とのデートの後……と字面に起こしてしまえば、確かに彼が怪しいが……
とはいえ、証拠はないし。現にあのデートがあった後も数日は教室に通っていた。デート直後から登校しなくなったのならともかく、時間が空いているのにビライス・ノラムのせいだと決めつけるのは早計だ。
「それと……原因もそうだが、このままじゃミライヤの奴……」
「えぇ、まずいと思うわ」
ミライヤが登校拒否になった理由もそうだが、問題なのは他にもある。いや、むしろこれが厄介だ。
理由もわからぬ無断欠席……これが数日も続くとなると、学園側としてもミライヤの処分を考えないわけにはいかない。普通の学校のことはよく知らないが、無断欠席が何度も続いてしまえば退学の可能性だってあり得る。
騎士を育てるこの騎士学園では、入学した時点で相応の実力が認められているため、ちょっとしたことではあまり大きな問題にならない。だが、それはちゃんとした相応の実力があればの話だ。
ミライヤは、例の居合いの一太刀しか剣を扱えない。今は実技の授業で剣の扱いも多少マシになっているとはいえ、他の貴族と比べると見劣りする。だというのに、こうして無断欠席を続けていては……
「ミライヤもわかっているとは思うんだけど……」
そう、ミライヤは、自分が他より一歩も二歩も遅れていることを知っている。だから、人知れず努力もしている。
そんな子が、こうして意味もなく姿を見せなくなるとは思えない。やはり、なにか大きな理由があるのだろう。俺は女子寮へは立ち入り禁止だが、なんとか忍び込んで直接話せないものだろうか……
「あの、ちょっといいですか」
そこへ、話しかけてくる男の声があった。考え事に集中していたため、反応が遅れる。
視線を上げ、話しかけてきた人物を見る。そこにいたのは……
「あ……」
「フォン・ライオス様、カタピル様。少々お時間いただいても、よろしいでしょうか?」
……困ったように眉を下げ、なんとか笑顔を浮かべようとしているビライス・ノラムがいた。
まさか、向こうから話しかけられるとは思わなかった。タイミングがタイミングだけに、ミライヤのことかとも思ったが……ビライス・ノラムがミライヤにお見合いを申し込んだこと、デートをしたことは、俺もノアリも知らない設定のはずだ。
ならばミライヤのことではないのか……いや、そうなると本当に用件がわからんな。まさかデートの際の尾行がバレ、それをミライヤがいない今のうちに咎めに来たとか? いくらなんでも、尾行はやりすぎだもんなぁ。
……今更だが、お見合いを申し込んだのにデートの流れはどうなんだろう。普通、お見合いの最中にデートを申し込むもんじゃ……あぁ、どうでもいいや。まずは……
「えっと、ノラム……くん? なんの用かな」
話の内容を確かめる方が、先だ。
……話したことない相手って、なんか話しにくいな。
「呼び捨てで構いませんよ、フォン・ライオス様に君付けされるような男じゃないですし」
なら俺も様とかつけずに、普通に話してほしいんだけど……まあ、それがいきなり無理だってのは、俺自身シュベルト様の件で実感しているが。
「ここではなんなので。人気のないところで話したいのです……ミライヤさんのことで」
「……」
話の内容は、ミライヤのこと……そう言えば、俺たちが断れないことをこの男はわかっているんだろうか。もしそうなら、なかなかの策士だ。
俺たちとミライヤの関係にどこまで勘付いているかはわからないが、ミライヤについて話をしたいと言うんだ。ついていかないわけには、いかないよな。
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