復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第5章 貴族と平民のお見合い

我流の太刀

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 キンキンキンキン、キィン!


「っち!」


 打ち合う、刃と刃。迫りくるそれを、俺はひとつひとつ捌いていく。受け止めるのではない、受け流すのだ。まともに受ければ、どうなってしまうかわからない。

 剣には型があり、それを流派という。流派には3つの種類があり、それぞれ攻竜派こうりゅうは防竜派ぼうりゅうは技竜派ぎりゅうはと呼ばれる。

 以前、入学試験で相対した際に感じたガルドロの剣は、攻竜派だ。その名の通り、攻めに特化した剣……敵に反撃の隙を与えないほどの力強い攻撃をすることが、この流派の理想だ。

 今打ち合っているガルドロは、力強い剣で俺に襲いかかってくる。複数の流派を持つことも出来るが、それは簡単ではない……基本的には、ひとりにひとつの流派となる。だから、ガルドロは変わらず攻竜派のはずなんだ。


「おぉおおお!」

「っ……」


 だが、おかしい。この力強い剣は、間違いなく攻竜派と呼べるものだと思うが……以前よりも、力が段違いだ。それに、型が以前より、なっていない。

 流派は、それぞれ攻、防、技と型をものにし、それを自分のものに昇華していく。だが、自分のものにしても基本的に型というのは存在する。

 型がない……3つの流派どれにも属さないものを、我流と呼ぶ。俺の剣が、それだ。攻竜派であったはずのガルドロの剣が、今一番近いのが攻竜派という段階になり……それは受けているうちに、どの流派にも属していないのではないかと思い始めている。

 ならば、我流……? 3つの流派を組み合わせて覚えることは可能だが、我流はそれのみだ。他の流派と共に覚えることは出来ない。なぜなら、我流……完全に、自分のための型だからだ。そこに決まった型なんてないし、他の型を参考にすることは出来ても組み込むことは出来ない。


「はっはぁ!」

「うぉっ」


 ガキィン、と激しい音を響かせて、剣ごと押し返される。なんて力だ……ガルドロは、以前よりもずいぶんと乱暴な剣になったようだ。

 これは、我流……とはまた違う気がする。型がないのは同じなのだが、そもそも今のガルドロは剣としての動きを模していないようにすら感じる。

 そう、例えば……棒を、ただ力任せに振っているだけ、のような……そこに、以前のような、曲がりなりにも貴族としての誇りを持っていた男は、いないように思えた。


「お前……誰だ?」

「あー?」


 顔も、容姿も、入学試験で打ち合った際に見た剣も……間違いなく、ガルドロ・ナーヴルズのものだ。本人に間違いないはずなのに……そこにいるのが、ガルドロだとは、俺には思えなかった。

 考えてみれば、俺に負けた腹いせにミライヤを誘拐した、というのも少しおかしい。そんなことをしても、最終的に自分の家……ナーヴルズ家の名前を傷つけることになるだけだと、わかっているはずだ。

 ガルドロも、あっちでノラムと戦っているギライ・ロロリアも、共にミライヤに因縁はある。あるが……ギライ・ロロリアは知らないが、ガルドロはあんな横暴でも、少なくとも自分が貴族であることに誇りは持っていた。

 それを、まるで捨てるような……


「考え事、してんなよ!」

「!」


 ガルドロが、距離を詰める。さっき、あいつの足にはかなり深く刃が突き刺さったはずだ……それなのに、まるで痛みも感じていないかのように、動いている。

 その点も、ガルドロがおかしいと感じた要因だ。あの深手で、普通に走っている意味がわからない。痛みを感じていないにしても、なにか変な薬でも飲んでいるのか?


「ひゃあ!」

「こな、くそ!」


 考え事は後だ、今はこいつを倒すことに集中しろ! 一度は倒した相手、それに以前ほど頭も回っていないように思う。言うなれば獣だ。獣相手に、俺は負けない。

 振り下ろされる剣を受け流し、ガルドロがバランスを崩したところでその腹部に剣の柄頭を打ち込む。


「かはっ……」


 こいつが我を失っていようと、関係ない。どうあれ、こいつらがミライヤを誘拐したのは事実だ。俺の大事な仲間に手を出して、タダで済むと思うな!


「らぁあ!」

「んっ、ぃいいぃ!」


 ガルドロの体が軽く吹っ飛ぶ。その隙を逃さず、俺は柄を握り直し、横薙ぎに一閃……だが、いつの間に構え直していたのか、ガルドロは剣を盾に直撃を防ぐ。それでも、衝撃は殺しきれずに吹っ飛んでいく。

 それについていくように、俺も走る。このまま追撃をくらわせて……!


「いひゃははは、楽しいなぁ!」

「はっ?」


 だが、ガルドロの顔は不敵に……不気味な笑みに、染まっていた。口の端から血を流しながらも、その顔は笑っているのだ。その、なんと恐ろしいことか。

 ガルドロは吹っ飛んでいた状態から、地に足を付け強引に急ブレーキ。足の裏から流れる血が、地面を赤黒く汚していく。

 地面に剣を突き立て、完全に動きを止めたガルドロは口が裂けるのではないかというほどに狂気に染まった笑みを浮かべ、剣を振るう。俺も急ブレーキをかけるべきだ、このままでは構えているところに突っ込んでいく形になる。

 だが、止まったところでガルドロの剣撃は止まらない。むしろ、距離が縮まったことで無防備になった俺に剣が振るわせるだけだ。ならば……


「このまま、行く!」

「そぉい!」


 走った状態から、勢いを乗せ俺も剣を振るう。助走が乗った分、威力も増加しているだろう。対するガルドロの剣とぶつかり合うと、またもギィン、と鈍い音を立てる。

 本来、勢いが乗った分俺の剣の方が、押せるはずだ。だが、そうはならなかった……ガルドロは、恐るべき力を持って、強引に俺を剣ごと吹き飛ばす。

 体勢を立て直し、うまく着地する。


「っ、とと……ホントに、同一人物か?」


 やはり、変な薬でも飲んでイカれているのだろうか。ガルドロの剣は、あそこまで凶暴なものじゃなかった……それも、ただ憎しみを載せただけの剣だ。貴族としての矜持もあったもんじゃない。

 ガルドロの現状、ミライヤの誘拐、考えれば考えるほど、ガルドロが正気には思えない。……だが。


「それとこれとは、別だよな」


 ふぅ、と軽く深呼吸をして、俺は改めて剣を横向きに構える。その構えに、型はない……3つの流派、どれにも属さない俺の我流は、文字通り自分だけの剣だからだ。ただ、両手で剣を持ち、目の前の敵を見据える。

 ガルドロが正気であろうとなかろうと、ミライヤに手を出したのは事実。彼女が眠っているってことは、なにかしたってことだ……それが、俺は許せない。


「がぁあああ!」


 構える俺に、気にすることなくガルドロは突っ込んでくる。冷静な人間ならば、見たことのない構えにまずは警戒する。見たことがある型でも、無策で突っ込んできたりはしない。そこになにか狙いがあるのか、どういう剣を繰り出すのか、考える。

 それがない以上、もうガルドロになにかを考える頭は残ってないってことだ。その動きは、型がないという点では俺と同じだ。

 だが、相手がどんな流派だろうと……いや、そうでなくてもだ。俺は、こんな奴に遅れを取るわけにはいかない……俺が殺すべき相手は、腹の立つことにもっと高みにいるのだから。


「へははは、死ねぇ!」


 もはや両手で剣を握ることもなく、ただ乱暴に剣を振るう。そこに、曲がりなりにも貴族の誇りを持っていたガルドロの姿はない。

 ある意味、それはガルドロという人間をも貶められているように感じた。が、そこに同情はない……ガルドロが貶められようが、関係ない。

 俺はただ、斬る……俺の邪魔をする人間を。俺の大切なものに手を出した奴を。この、我流の太刀で、そいつを断ち切る!


「……っは!」

「ひゃはぁっ!」


 縦方向に振り下ろしてくるガルドロの剣と、横方向に振り抜く俺の剣……刹那、それは一瞬のことだった。鈍い音が響き渡り、俺とガルドロは向き合っていた状態から、互いに背を向けた状態で固まる。

 ……数秒後、カラン、となにかが音を立てて落ちた。


「……く、ぁ……!」


 うめくような声とともに、倒れる……ガルドロが。俺の振り抜いた剣は、ガルドロの振り下ろした剣と衝突した後剣を折り……そのまま、ガルドロの体をも刻んだ。

 先ほど落ちたのは、折れた剣の切っ先だ。


「……ふぅ」


 軽く、息を漏らす。どっと疲れが襲ってきた……ように感じる。

 思い返せば、こうして人を斬るのは……初めてかもしれない。これまでに、先生に教えてもらったり学園の授業等で、人と斬り結んだことはある。だが、そのほとんどが木剣だ。

 『呪病』事件の際、エルフの森へ向かうため国の外に出たあの時……子供のゴブリンと相対した時でさえ、木剣だった。真剣を持ち、そして誰かと斬り結ぶのは……

 それに、明確に相手を倒してやろうと思ったのは、それこそゴブリン以来だ。以降、剣の修行は続けてきたものの、実際に誰かを斬るというのは、ここまで消耗するのか。


「……やった、よな」


 もちろん、斬ったことに後悔があるわけではない。将来のことを考えれば、むしろ斬ることに慣れておいたほうがいい。

 剣を鞘に戻し、俺は振り返る。そこには、動かなくなったガルドロが血を流し、倒れている。死んではいないだろう、手加減したつもりはないが、殺そうと思って振り抜いたわけでもないのだから。

 ……そういえば、今の俺の剣技……意図したわけではないが、ミライヤの居合いの剣に似ていたな。あそこまで高速に動けるわけはないし、動くどころかただ構えていたところに襲いかかってきたガルドロを斬っただけだが。

 ミライヤの剣で、敵を斬る……意識していなかったが、ミライヤの仇を討つことを、剣が応えてくれたのだろうか。


「ぐぁ……あ!」

「!」


 ふと、別の方向からうめき声が聞こえた。振り返ると、そこでもひとつの戦いが終わりを迎えていた。

 ……ギライ・ロロリアが剣を手放し、その場に倒れるところだった。その場にうつ伏せに崩れ落ち、もはや動く気配はない。対峙していた男に、斬り伏せられた結果だ。

 対峙していたノラム……ビライス・ノラムは涼しげな顔で剣を振っていた。刃についていた血は、地面に飛び散る。ギライ・ロロリアから流れる血は、深手ではないが意識を刈り取るに充分だったようだ。


「そっちも、終わったみたいだな」

「! ライオス様……えぇ、なんとか」


 なんとか勝てた、と言わんばかりの表情だが、あまり息を切らしていないし体も傷ついていない。俺は自分の戦いに集中していたためノラムの戦いを見てはいないが、彼も相当な実力者なのだろう。

 その様子を見るに、ノラムの流派は防竜派か技竜派なのだろう。攻撃的な剣というよりは、カウンターか技の隙をつき勝利をもぎ取った感じだ。

 ともあれ、俺たちの邪魔をした2人は始末した。始末といっても、殺してはいない。こいつらにはミライヤ誘拐の件について、話を聞かないといけないからな。


「ミライヤ、ミライヤ!」


 戦いが終わったところで……というより、ずっと声はしていたのだろう。ただ、戦いに集中していたから聞こえなかっただけで。ノアリが、ベッドに寝かせられたミライヤを呼ぶ声だ。

 俺たちも、そちらへと向かう。見れば、ヤネッサもこちらに向かってきている。


「ん……」


 寝かせられているミライヤ、その顔を見たのと同時……小さく声が漏れる。ミライヤの口が小さく開き、閉じられていた目がゆっくりと開いていく……


「あれ……ここ……」


 キョロキョロと首を動かすミライヤは、この状況を理解はしていないようだ。当然だろう。だが、見た感じ外傷はない。


「ミライヤ、私がわかる!?」

「……ノアリ様。ヤーク様に……ノラム様も」


 俺たちの顔を順に見て、ミライヤが呟く。どうやら、意識もはっきりしている。記憶にも問題はないようだ。これで、一安心だ。

 行方不明になっていたミライヤ……彼女を見つけ、こうして無事に確保することができた。まだ問題は残っているが、ひとまずは一件落着というやつだろう。
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