復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第6章 王位継承の行方

圧倒的な力

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「おぉおおお!」

「また無策に突っ込んでくるか?」


 俺は、再びセイメイへと突っ込む。先ほど金縛りで動きを封じられたことを、忘れたわけではない。

 だが、このまま突っ立っていても、なにも進まない。俺は魔法は使えないし、魔術なんてものも聞いただけではさっぱりだ。

 使えるのは、この剣だけ。ならば、これを使ってでしか、立ち向かえない!


「っ……ぐ……!」


 案の定、再び動きを止められる。体内の魔力マナを使うという魔法ならばいずれ魔力切れも起きるだろう。

 だが、大気中に流れているという魔術ならば、その術はほぼ無制限に使えるということだ。


「ふん、同じことを繰り返しよって」

「同じじゃ、ないさ」

「む?」


 もしも3人同時に金縛りをかけることができるなら、その瞬間に勝負は終わる。ならば、まず俺にだけ否が応でも意識を集中させる。

 そして、意識の外れたところから、別の人物が斬りかかる……!


「せぇい!」

「!」


 俺の体を死角にして、ミライヤが飛び出す。その刃が狙うのは、セイメイの首……その動きに、一切の躊躇はない。確実に、決まったであろう一太刀。

 しかし、セイメイはそれを避けた。後ろへとのけ反ることで、見えないほどに素早い太刀を回避した。


「ふん、一度見た技が儂に通ずると思ったか。それに……腕も難なく生えたところを見るに、どうやらまだのようじゃの」

「……? っ、今です、ノアリ様!」


 なにやら意味深なことを呟くセイメイだが、それに構っている暇はない。セイメイは気づいていただろうか、先ほどからノアリが、気配を殺していたことに。

 ミライヤの言葉……もっと言えば、その攻撃を避けられるのも織り込み済みで、ミライヤは声を張り上げた。事前に決めていたわけではない、だがノアリは確かにそこにいた。

 セイメイの背後へと回り込み、右斜め後ろから斬りかかる。


「もらった!」

「しまった……なんての。なかなか良い連携じゃが……まだ甘い」


 ガギンッ……!


「……!」


 ノアリは、驚愕に目を見開いていた。ノアリだけではない、俺もミライヤも、なにが起こっているのかすぐには理解できなかった。

 ノアリの剣は、セイメイを斬ることなく……その身に届くより前に、止まっていた。あれは、ノアリ自らが止めているわけではない。

 まさか金縛りか……とも思ったが……


「なに、これ……まるで、見えない壁が、あるような……」


 ノアリは、別の感覚を覚えたようだ。力を込めても、それ以上刃が進むことはない。


「ふむ、そこの小童こわっぱが己に儂の意識を集中させ、死角をついて小娘が剣を振るう……さらに、別の死角からの一太刀。よぉく互いのことを信頼しとるようじゃな」

「……っ」

「じゃが、ワンパターンじゃな。剣士というものは、そのほとんどが近接型に絞られる。じゃから、刃の位置さえわかっておれば、対処は難しくない」


 シン・セイメイ……遥か昔から転生を続けているだけあって、相手がどんな戦い方をするかも熟知している。

 俺は動けない、ノアリは力押しで剣を振り抜こうとしているが、無理だろう。ミライヤは……居合い以外、大した剣術は使えない。


「あっけないのぉ、儂を許さないのではなかったのか? 顔にそう書いてあったぞ、人間よ」

「……あぁ、そうだな」


 魔術だとか、金縛りだとか……未知の術ばかりだ。そんなものに対処した訓練なんて、したことがない。

 転生前でも、そんな奇怪な術を使う魔族は、ガラドたち他のメンバーが相手してくれていたしな。

 正直、体を動かせなくなっただけで手詰まりだ……だが……


「それだけで、諦めて……たまるか!」

「む?」


 俺は、可能な限りに全身に力を込める。いっそのこと、動くためなら手足が千切れても構わない……それくらいの、覚悟があった。

 そして、その思いが通じたのかは、わからないが……


「なんと……」


 俺の体は、動いていた。地面に縫い付けられていたのではないか、と思えるほどに重かった足が、ふと軽くなった。手も、動く。走り抜ける、風の感覚が分かる。

 セイメイは、まだ射程範囲だ。


「驚いた、拘束を自ら解くとは。じゃが、主の剣技など、儂には通じん……」

「お、らぁ!!」

「ぶっ……!」


 右手で握った、剣を振り抜く……のではなく、俺は左手を握り締め、セイメイの顔面目掛けて思い切り振り抜いた。

 セイメイも、剣で攻撃してくるとばかり思っていたのか、まともに拳をくらい、吹っ飛んだ。


「はぁ、はぁ……一発、直接ぶん殴りたかったんだ」

「いつつ……あぁ、鼻が曲がるかと思った。まったく拘束を解いたことといい、予想外のことをしてくる小僧じゃな」


 セイメイは軽く吹っ飛んだが、それだけだ。顔を押さえてはいるが、それほどのダメージはないんだろうな。

 これですっきりした……とは言わないが、少なくともぶん殴ってはやりたかったので、それは達成された。


「別に剣士だからって、剣だけで戦うわけじゃないんでな」

「カカカ、確かにの。じゃが、そう考えること自体珍しいのじゃぞ?」


 どこか愉快そうに笑うセイメイは、鼻血を乱暴に拭う。


「やれやれ……せっかく、儂も剣で相手してやろうと思ったのじゃがな?」

「!?」


 次の瞬間……また、目を疑う光景が起こった。セイメイの右手が、変な動きをしたかと思えば……なにもない空間から、剣が出てきたではないか。

 もう、なにが起こっても驚きはしないつもりだが……あれも、魔術か? なにもない空間にものを仕舞っておく魔術とか、あっても不思議じゃない。

 だが、それよりも気になるのは……


「刀身が、黒い……?」


 同じ印象を受けたのか、ノアリが呟く。そう、ノアリの言う通り……セイメイの持つ剣は、一見普通の剣だ。だが、刀身が黒い。

 今までに、刀身が黒い剣なんて見たことがない。転生前に見た国宝だって、その刀身は美しい銀色だった。代わりにというか、俺でもわかるほどに……なんていうか、神々しい感じが、したが。

 だが、あの剣は……なんか、妙な感じが……


「そう警戒せずともよい。別に、そこらの剣と変わらんよ」

「……」

「ただ……大昔に、とある鍛冶に作ってもらったもの、ではあるがの」


 昔のものだから、妙な感じがするだけだろうか。見たことがないから、変に警戒しているだけだろうか。

 それにしても……エルフが、剣を持っている。その姿が、すでに違和感だ。アンジーは体術、ヤネッサは弓と、エルフも魔法だけが戦う術だけではないことはわかっていたが……

 剣を持ったエルフは、初めて見た。


「気を、引き締めろ」

「!」

「油断するなよ……人間」


 なんだ……雰囲気が、変わった?


「覇!!」

「! きゃっ……」

「ひゃあ!」


 セイメイを中心に、まるで突風のようなものが吹き荒れる。踏ん張っていないと、体ごと吹き飛んでしまいそうなほどに。

 警戒に遅れてしまってか、ノアリとミライヤは吹き飛ばされてしまう。両隣にいた2人は、背後に……


「むん!」

「! くっ……!」


 来る……そう思った時には、すでにセイメイの姿は目の前にあった。右手に握った剣、振りかぶっていたそれを、一気に振り下ろす。

 避ける時間はない。というより、意識より先に体が反応していた。振り下ろされる剣を受け止めるため、俺は剣を振り上げて……


 ギィッ……ィン……!


 刃と刃がぶつかり、鈍い音が響き渡る。

 な、んだこりゃ……お、重い! セイメイは右手のみを使っている、それを両手で対応しても、受け止めきれない……!


「お、おぉ……!」


 このままでは、剣ごと押し切られる……だから俺は、右手で柄を握り締めたまま、左手を刀身……その切っ先近くに移動し、握る。

 剣を横にして、セイメイの剣を受け止めている形だ。刀身を握り締めている左手は当然、手のひらに刃が食い込み、皮膚が切れる。

 だが……


「く、ぉお……!」


 そんなこと、痛みとして気にならないくらいに、セイメイの剣は重い。これをまともに食らうことを考えれば、手のひらが切れるくらい大した問題ではない。

 こいつの、この細腕のどこにこんな力が……素でこれなのか、それとも魔術で身体強化とかしているのか……

 ……いや、余計なことを考えるな。気を緩めるな。一瞬でも気を抜けば、押しつぶされて死ぬ……指先、いや神経の先にまで気を張り巡らせろ……!


「ほぉ、なかなかやるではないか」

「ぬぐ……!」


 肉が裂ける、骨が軋む……この、ままじゃ……!


「はぁあああ!」

「たぁあああ!」

「……ふん、羽虫が」


 ……ふと、押し付けてくる圧力が和らぐ。少しだけ、余裕が生まれる。周りを気にする、余裕が。

 声が、聞こえた。ノアリとミライヤの声が……そして……


「!」


 ……ノアリがセイメイの左手で腹部を殴られ、ミライヤが頭部を蹴られている、光景があった。
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