151 / 307
第6章 王位継承の行方
大丈夫、問題ない
しおりを挟む「ノアリ! ミライヤ!」
視界に広がるのは……俺を助けようとしてくれたであろう、ノアリとミライヤが、それぞれ吹っ飛ばされている所だった。
セイメイの左手がノアリの腹部にめり込み、ミライヤは頭部を蹴られ……吹き飛ばさていく。その先に大岩があったためそれに衝突したことでノアリの勢いは止まるが、ミライヤは遠くへと飛んでいく。
「て、めぇ……!」
「おぉ?」
ノアリとミライヤが、少しでも気を散らしてくれたおかげか。セイメイの攻撃は、少し軽くなっていた。その隙を突き、思い切り力を込めて押し返す。
全体重をかけて、押し返せ……!
「お、らぁ!」
「おっとと……ほほぉ、いい力じゃな」
思いの限り力を込め、剣を押し返す。セイメイは少し後ずさるようにして、少し驚いたようであるがそれでも余裕そうだ。
くそ、こっちは押し返すだけで精一杯だってのに……息ひとつ、切らしてないのかよ。
「はぁ、はぁ……」
「戦意も気力も、引きはがす勢いで打ったのじゃがな。いい目をしておる……む、なにか剣に纏っておるな?」
「……?」
セイメイがなにを言っているのかよくわからないが、すぐに仕掛け直してくることはなさそうだ。俺は、剣を構え直し、警戒を続けたまま……少しずつ、移動する。
まず、近くにいるノアリの安否を確認しないと。あんな重い一撃を貰って、岩に激突したんだ。まさか、死んではいないと思うが……
「安心せい、殺すほどの力は使っとらんわい」
「!」
それは俺の心を、読んだかのような台詞。
不思議なことに、セイメイは動く様子はない。ただ、俺の姿を見ている。まるで、なにをするのか面白そうに観察しているようだ。
「ノアリ、ノアリ無事か!?」
俺はノアリが激突した岩の近くに移動する。ノアリは岩を背に、座り込むように倒れている。
話しかけても、応答がない。セイメイはあんなことを言っていたが、俺の中では悪い予感ばかりが……
「ん……く、けほっ……」
「ノアリ!」
弱々しくも、咳き込むノアリは、確かに生きていることを教えてくれた。それだけで、一安心だ。
だが、もう動くことは出来まい。骨の何本か、折れていてもおかしくはないのだから。
「ノアリ、生きてるな? お前は、そこでじっとして……」
「……うん、大丈夫よ。あんまり、痛くないから」
「いや、痛くないって……!?」
痛くないから大丈夫……それは、ノアリの強がりだ。ノアリはそういうところがある。だが、あの一撃がそんなやわなものじゃないことくらい、わかっている。
死ぬほどのものじゃなくても、動けやしない。だから、そんな強がりなんて言わず、そこでおとなしくしていて……
そう思いながら、振り向いた俺の目に映ったのは、驚くべきものだった。
「な、なんで……?」
「だから、痛くないんだって。ほら」
……ノアリは、立ち上がっていた。ケロッとした表情を浮かべ、何事もなかったかのように。
それさえも、強がりではないかと思った。だが、ノアリはその場で軽く跳ねたり、くるっと回って一回転したり……健康体であることを、アピールした。
それだけじゃない……服こそ、ボロボロで破れているところだってある。だが、出血している部分が、ないのだ。
「お前……大丈夫、なのか?」
「だから、そう言ってるじゃない」
強がりでなく、本当だ。本当に、大丈夫だと言うのだ。
だが、あんな重い一撃を受け、受け身も取らずに岩にぶつかって、無傷なんてことがあるか?
「ほらヤーク、相手から目を離さない!」
「え、あ、あぁ」
ノアリの言葉に、弾かれるようにセイメイを見る。セイメイは、未だ仕掛けてくる様子がない。
いや……それどころか、セイメイさえも呆気に取られているような……?
「はて……加減を見誤ったか。それとも……?」
ノアリが無傷であることに、当のセイメイも不思議そうにして、左手を握ったり開いたりして見つめている。
もしかすると、予想以上に俺へ意識を集中していたから、ノアリとミライヤへの攻撃の威力が本人が思っている以上に弱かったのかもしれない。
そういうことならば、ミライヤも無事なはずだ……!
「ねえ、ミライヤは……」
「あっちの方に飛ばされてった。お前も、岩にぶつからなかったらどこまで飛んでいたか」
ミライヤが無事だとして、このまま放置しておくわけにもいかない。だが、セイメイが簡単に通してくれるだろうか?
先ほどと同じような一撃を、また受けたら……どうなるかわからない。切れた左手も、じくじく痛み出した。どのみち、にらみ合いは得策じゃない。
「ノアリ、俺がセイメイの相手をする。だから、お前はその間にミライヤを……」
「はぁ!? あんたひとりで、どうすんのよ! さっきだって、私たちが助けに入らなきゃどうなってたか」
「それは、そうだが……」
「私がやるわよ。気を付ければ多分さっきみたいな攻撃でも避けられると思うし、だから……」
「いや、それこそ無茶だろ」
「でもミライヤをあのままにしておけないでしょ!」
「来ぬか? ならばこちらから行くぞ?」
俺がノアリがとやっている間に、ぞくりとしたプレッシャーがかかる。また、これか……!
正直な話、ひとりでも2人でもどうにかなる気がしない。ならば、俺が少しでも引き付けて、ミライヤを助けに行ってもらった方が……
「主らの得物と同じ剣で相手をしてやるのじゃ。もう少し粘れよ?」
「っ、来るぞノアリ!」
「わかってるわよ!」
「ははぁっ……っ……?」
来る……そう、構え今度こそは見逃さない。さっきのような突風が来ても、それに目を奪われずセイメイだけに集中する。
……そう、警戒心を最大に引き上げていたというのに。セイメイは、動く気配がない……いや、なくなった、といった方が正しいか。
今にも襲い掛かって来そうだったのに、急に動きが止まったのだ。そして、なぜか顔を動かし、キョロキョロと周囲を見回している。
まるで、なにかを探しているかのようだ。
「はて……人払いの結界は、ちゃんと機能しておるんじゃがの」
「え……」
「どーも、皆さん」
人払いの、結界……さっきセイメイは、人払いは済ませていると言っていた。つまり、これだけ騒いでも誰も騒ぎに気付かないのは、そういう結界を張っているからだ。
その、結界についての言及。その直後だ、俺のものでもセイメイのものでも、ノアリのものでもない声がしたのは。
聞き覚えのある、その声の主は……
「り、リーダ……様……?」
「はい、リーダです」
リーダ・フラ・ゲルド……この国の、第二王子だった。いつものように笑顔を浮かべている。
なんで、リーダ様がここに……結界、って言ってたよな。誰でも、入れる場所じゃないはずだ。なのに……
……その手に、手のひらサイズの石を持っている。あれは、見覚えが……
「ほほぉ、魔石か」
即座に気付いたセイメイの言葉。そう、それは魔石だ。
あれを使って、結界の中に入ってきたってことか。
「リーダ……確か、この国の第二王子じゃったか。例の投影魔術を起こした人物……主の協力者たるエルフは、よほどの魔術師であるようじゃな」
「そう言ってもらえて、彼も喜んでいると思いますよ」
リーダ様は、投影魔術の騒ぎを起こしたことで、彼の協力者にエルフがいることはわかっていた。セイメイ曰く、そいつは高度な魔力を持っているとも。
そいつが、リーダ様に結界を抜けるための魔石を渡した、ということか。
リーダ様は、セイメイを捜していた。そのために、大掛かりな投影魔術を使った。そして、今直接、2人は対面した。
「シン・セイメイ……会いたかったですよ」
「んん? はて……儂らに面識はあったかの?」
「いえ、個人的な目的で探していただけです」
リーダ様がなんの目的でここに現れたのか、それはわからない。だが、今2人は対峙したままだ。
この隙に、ミライヤを捜しにいくか……? いや、いかにシュベルトを貶めたっていっても、セイメイと2人きりにするのは……
「しかし、たったひとりで儂の前に姿を現すとは。その気概は褒めてやろうぞ」
「ひとりじゃ、ありませんよ」
「ヤーク!」
「え?」
ここに来たのは、リーダ様ひとりじゃない……もしかして、協力者であるエルフも来ているのか?
そんな予想は、続いて俺を呼ぶ声に裏切られた。またも、聞き覚えのあるその声は……
「しゅ、シュベルト!?」
「あ、アンジェさんにリエナ!?」
リーダ様の後ろから現れ、こちらに走って向かってくる……シュベルト、アンジェさん、リエナの姿だった。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる