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第6章 王位継承の行方
無茶ぶり
しおりを挟む「ヤーク、やっと見つけた……!」
「し、シュベルト……どうして、ここに……」
この場に、現れると思っていなかった人物。リーダ様を含め、シュベルト、アンジェさん、リエナの姿がそこにはあった。
予期せぬ人物の登場に、張り詰めていた緊張感が和らいでいくのがわかる。
「どうしてって、そりゃヤークが危険な目にあってるなら、当然だろ」
「や、そうじゃ、なくて……」
シュベルトの言葉は、素直に嬉しいものだった。ここに来てくれた理由は、危険な目にあっていたら当然だから、というものだったから。
だが、俺が知りたいのは……その理由もそうだが、そもそもなんで俺たちが、ここにいるか知っているかということで。
「……リーダ様が、教えてくださったんですよ」
「リーダ、様が?」
俺の疑問を理解してくれたのか、後ろに控えていたアンジェさんがシュベルトの隣に並ぶ。シュベルトたちがここに来た経緯……それは、リーダ様が知らせてくれたからだ、と。
それがどういう意味か、わからずにいると……
「リーダ様が、知らせに来てくださったんです。ヤーク様、ノアリ様、ミライヤ……三人が、危ないと。そして、リーダ様の案内の下、この場所にたどり着きました」
そう補足してくれるのは、リエナだ。リーダ様が、俺たちの危機をシュベルトたちに伝えた……そして、この場所に三人を連れて現れた、と。
なるほど、シュベルトたちがここに現れた理由はわかった。リーダ様と一緒なら、同じようにあの魔石で結界に入ってこれたのだろう。
だが、それはそれで新たな疑問がある……リーダ様はなぜ、俺たちの危機を知っていたのか、だ。
「……」
「そんな目で見ないでくださいよ、ヤークワード先輩。聞きたいことはわかりますよ。でも、そうのんびりと話せる雰囲気でもないと思いますが」
俺の視線を受け、リーダ様はこともなげに言う。確かに、今長々と話をしている雰囲気じゃないのは、わかっているが……
「ほほぉ、一気に数が増えたのぉ。なに、儂のことは気にせず存分に話すが良いぞ?」
「……」
セイメイは、俺たちの数が倍近く増えても余裕な表情を浮かべたままだ。いくら数の不利になろうと、それが戦力的不利になるとは考えていないってことか。
実際、セイメイにはそれだけの力がある。
「というか、そもそもどうしてこんなことになっているんだ?」
「それは……」
困惑した様子のシュベルトに、なんと説明すべきか悩む。
元々、セイメイを捜しているリーダ様にセイメイを突きだせば、投影魔術のような大掛かりなことはしなくなるだろうと思って、リーダ様と会ってくれないかと話しただけだった。
だが、話をしていくうちに、セイメイが元凶で『魔導書』事件が起こり、そのせいでミライヤの家族が死んだことを知った。それを知って、怒りのままに斬りかかってしまって……
「説明すると、長くなるんだけど……」
「とにかく、あいつが許せないことをしたってことよ!」
説明するにはややこしい内容。それをどう説明すべきかを考えていると、ノアリがばっさりと答える。
まあ、間違ってはいないんだが……なんとも、さっぱりした言い方だな。
「許せない……?」
「少なくとも、私はあいつがミライヤに謝らないと、許す気はないわ!」
「やれやれ、儂は直接関わってはいないというのに」
ノアリの気持ち……そうか、ミライヤのために本気で怒っているんだな。
セイメイが、『魔導書』の存在を教え魔石をビライス・ノラムに渡さなければ、あの悲劇は起きなかった。ミライヤが悲しむことも……
「あの、誰かミライヤを助けに行ってくれないか。あっちの方向に、飛ばされたんだ」
そのミライヤは、この場にはいない。セイメイに、あっちに吹っ飛ばされたからだ。
ノアリが無事だったんだ、ミライヤも無事だとは思いたい。だが、万が一ということがあれば……俺は……
「わかった、リエナ、頼む」
「わかりました」
シュベルトの侍女、リエナが小さくうなずき、指定した方向に走っていく。これで、ミライヤのことは任せておけば大丈夫だろう。
後の問題は、セイメイを……
「そこの第二王子が儂を捜しておったという理由はわからんが……主らは、まだやる気のようじゃの」
「……!」
「カカ、そう殺気を立てるな」
セイメイは、見た限りは無防備だ。だが、油断はできない。
「しかしわからんな。主、最初はそこの第一王子のために儂を第二王子と会わせようとしとったんじゃろう。なのに、あの小娘の家族の一件に儂が関わっていると知るや斬りかかってくるとは……感情も制御できんとは、お粗末なものよの。そんな雑念まみれで、儂を相手どれるとでも?」
「っ!」
「ヤーク、挑発よ」
「事実を述べたまでじゃ」
くそ、あいつと話していると、落ち着かない気分になるのは前からだったが……やはり、全部見透かされているみたいだ。
とはいえ、あいつの言っていることは事実。あいつをぶん殴りたいのも事実だが、当初の目的を果たさないと……
「……リーダ様、あいつに会いたかったんですよね。理由はわかりませんけど、これでもう投影魔術んてしないでくれますか?」
「そうですねぇ……あの人を、動けなくなるまで痛めつけてくれたら、いいですよ」
「はぁっ?」
あいつを、リーダ様に突き出す……その目的は、達成されたとも言える。だが、リーダ様はそれでは足りないと言う。
動けなくなるまで、なんて……笑顔で、とんでもないことを言う。こっちは、あいつの一太刀で、全身の気力が削がれそうだったっていうのに。
「カッカッカ! 動けなくなるまで、とは穏やかじゃないのぅ!」
「こちらにも、目的があるので。生かして捕らえる、っていうのが協力者の依頼なので。そうでなければ、今度は国中に改めてあの放送を流す……どうです?」
笑顔のままだが、その目は笑っていない。協力者……その狙いが、セイメイを生かして捕らえることだと?
じゃあ、リーダ様の目的は……協力者の依頼に、応えることなのか? それとも……
それに、この人はなんて提案を持ち掛けてくるんだ。いや、提案ですらない……これは脅しだ。すでに国中に広がりつつある話だが、改めてあんなものが流されたんじゃあ……
もしかして、セイメイと会わせたことでリーダ様をおとなしくさせるどころか、弱みを握られる形になったんじゃないだろうか……とんでもない、無茶ぶりだ。
「大口を叩くのぅ、愉快愉快」
「ちょっと、生かして捕らえるなんて、無茶ですよ!」
「先ほど儂に殺気を込めて斬りかかってきた者の言葉とは思えんのぉ。安心せい、主らの目的が儂の捕縛なら儂は早々に退散する……なんてマネはせん。儂も、『魔導書』を捨てられた件で怒っておることを忘れるな?」
「!」
ゾワッ……と、背筋を走る悪寒。セイメイから発せられるプレッシャーは、気を張っていても足がすくみそうになる。
剣を、握り直す。そう、どのみちもう、どちらも引き下がれないところまで来ているのだ……気を、引き締めろ!
「おぉ、これがセイメイの……命王の、気迫ですか。はは、素晴らしい……!」
「喜んでる、場合ですか!」
「む……理由はよくわからないけど、あいつがヤークに手を出すつもりなら、私も黙ってはいられない」
なぜか喜びに顔を歪ませるリーダ様、その横で、シュベルトとアンジェさんが剣を抜くのが見えた。
「それからリーダ……お前とは、後で話がしたい」
「えぇ、でしょうね」
……あの日以来、2人は会話をしていないのだろう。会いに行きにくいのもあるだろうが、それ以上にリーダ様の周りは派閥の人間が多くて近づけないのだ。
この一件が片付いた後なら、2人だけで話が出来る、か。
「えぇい、やるしかないか!」
「カカッ、いい気概じゃ」
俺とノアリに加え、シュベルトにアンジェさん。まだ剣は抜いていないが、リーダ様……人数は、先ほどよりも増えた。この人数で、攪乱すれば……!
……バチッ
「……ん?」
ふと、なにかが聞こえた……ような気がした。小さな音だ、だが確かに……
だが、周囲を見渡しても、なにも変化はない。
「ヤーク、どうしたの?」
「え? いや、今……」
ノアリの不思議そうな声。それに、他のみんなも、変わった様子はない……聞こえたのは、俺だけ? やはり幻聴か?
そう思ったが、セイメイも不思議そうに周囲を見ている。俺の聞き違いでは、なさそうだ。
音、そう音だ。まるで、寒いときに壁に触れると、手に電気が走ったようになる、あんな感じの……
「……む!」
次の瞬間、セイメイが俺たちのいるのとは別方向に視線を、いや体を向けた。さらには、剣を構える。
なにをしているのか……それを考えるまでもなく、それは起こった。
バリッ……ガ、キィ……!
セイメイの前に、突然なにかが現れる。そのなにかは、居合いの構えから剣を振り抜き、セイメイへと刃を向けた。
その刃が届くより先に、セイメイは自らの剣でそれを受け止める。金属の、激しい衝突の音が響く。
そこにいたのは……セイメイに、刃を振るったのは……
「み……」
「ミライヤ!?」
遥か遠くへと、吹き飛ばされたと思っていた……ミライヤだった。
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