復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第6章 王位継承の行方

2人の少女の戦い、そして……

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「はぁ、はっ……」

「……」


 息を切らしているミライヤは、発光……いや発電といった表現が正しいだろう。発電、しているようだった。

 淡く光に包まれ、パチパチと音を立てて電気がほとばしっている。目に見える形で。

 その姿は、なんだというのか。俺は、今までにあんな風に電気を出す人間を、いや種族を見たことはない。転生前に見た、魔族でさえもそうだ。


「……人間が、その身から雷を放つことなど、ありえん」


 耳に届いた言葉は、ミライヤの姿を見つめるセイメイのものだ。

 だが、その言葉は俺に……誰かに向けてはなったものではない。まるで、自分に言い聞かせているかのように。


「主……」

「! み、ミライヤ?」


 セイメイが何事か話しかけようとする……しかし、ミライヤはゆっくりと歩き出した。セイメイの方に……ではない。

 その先は、倒れた……死んでしまった、リエナがいる。ミライヤは彼女の前に立ち、腰を下ろしていく。

 さっきあんなに取り乱したミライヤだ、リエナに手を伸ばし、死を悼むのか……そう、思っていたが……


「……」


 ミライヤは、伸ばした手をリエナの胸元にそっと置いて……


 バリバリッ……!


「!?」


 次の瞬間、ミライヤの手の先が光ったかと思えば、その光はリエナの全身を包み込んでいく。

 そして、それは一瞬のこと……リエナの体が、光、いや雷に包まれ、大きく跳ねた。腰を打ち上げられたように、大きく。


「り、リエナ!? なにを……!」


 その光景に、目を剥いたシュベルトがミライヤを睨みつける。死したリエナに、これ以上なにをしようというのか。

 もしもシュベルトの体が動けば、ミライヤへ殴りかかっていてもおかしくない行為。それほどまでに状況はひっ迫し、余裕もない……


「っ、か、は……」

「! リエナさん?」


 だが次の瞬間、ノアリの声が届く。困惑したような声だ。それがなにを示しているのか、わからない。

 その直後だ。誰かの咳き込むような声。けほけほと、苦しそうではあるが確かに生きていることを感じさせるものだ。

 それは誰のものか……考えるまでもなく……


「り、リエナが……息を、してる……!」

「ほ、本当か!?」


 喜びを含んだノアリの言葉に、反応するシュベルトは……次第に、安堵した表情へと変わっていく。

 息をしていなかった……いや、心臓が動いていないと言われたリエナが、息をしているのだ。その喜びは、計り知れない。

 その姿に、しかし見向きもしないのは……ミライヤだ。彼女が先ほど、リエナになにかをした。だから、リエナは……生き返った?


「……まさか、電気で心臓を、動かしたか」


 対峙するセイメイの言葉に、俺は耳を疑った。止まっていた心臓、それをミライヤが、あの体から迸(ほとばし)る電気を使って、動かしたというのだ。

 止まっていた心臓を、電気により刺激し、再度動かす。理屈はわかる、わかるが……


「ミライヤ……お前……」


 ミライヤの意識は、今に至ってもはっきりしている様子はない。それと、今の姿は無関係ではないはずだ。

 だが、ミライヤはリエナの命を救った。少なくとも、彼女の優しさは失われていない。


「カカッ、面白い、面白いぞ娘! さあもっと見せよ!」


 セイメイは、困惑する俺たちとは違い上機嫌だ。こいつは、ただ楽しんでいる……俺たちが、必死になっても。

 対するミライヤは、なにも答えない。彼女がなにを思っているのか……ふらふらと体は揺れ、そっと剣を握る。その手は、わずかに震えているように見えた。


「待ちなさいミライヤ、私だって……」

「ノアリ!?」


 ミライヤの隣に並ぶのは、ノアリだ。リエナの容態が安定したところで、ミライヤの手助けに入ったのだろう。

 しかし、2人だけでは……俺も、なんとか手を……!


「ヤークはじっとしてて。まだ体動かないんでしょ?」

「けど……」

「……私にだって、あんたを守らせてよ」


 もがく俺を見て、ノアリは告げる。それは俺の体をいたわってのものだろう。

 だが、ノアリも同じような攻撃を受けたはずだ。なのに、俺は倒れたまま、ノアリは動ける……なんと、情けないことだろう。こんなときに、動けもしないなんて。


「ふむ……良いぞ、好きにかかってくるがよい」

「ふん、余裕ぶっちゃって。ミライヤ、タイミングを合わせて……って、ちょっと!」


 バリッ……


 ノアリが、タイミングを合わせてかかろう……と言い切るより前に、ミライヤは動き出した。といっても、動いたとわかったのは、すでに事が終わった後だが。

 その場から姿を消す……ようなすさまじい動きで、セイメイに斬りかかっていた。ミライヤの、目で追うのがやっとな居合いだ。いつ来るとわかっていなければ、まず見切ることすら難しい。

 ……のに。


「ふむ、一度見た技が儂に通ずると思うな?」


 セイメイは、ミライヤの剣を受け止めていた。雷の走る剣を、余裕の表情で。

 先ほど、不意を突く形でミライヤは居合いを放った。それだけで、もう見切ったっていうのか?


「こ、のぉおおおお!」

「ノアリ!」

「やれやれ、なっとらんの」


 セイメイとミライヤが切り結ぶ中、がら空きと思われた懐へとノアリが斬りかかる。

 しかし、なにかが金属を弾く。またも、見えない壁がノアリの剣を防いだのだ。いかに隙だらけに見えても、あれをどうにかしなければ……


「主らの剣では、儂の盾を破ることは……」


 ピキッ……


「む?」

「んん……りゃ、あああああ!」


 ピキピキ……!


 ノアリの気合を入れた声……しかしそれとは別に、なにかがひび割れていく音が、聞こえた。そして、変かは目にも映る。

 ノアリの剣の先……なにもない空間に、ひびが入っているのだ。もしや、あれが見えない壁か……?

 ノアリが、見えない壁を……


 パキンッ……!


「! 取った!」


 なにかが砕け取り、セイメイの目が見開かれる。がら空きの胴体に、ノアリの剣が迫る。

 さらに、ノアリに気を取られたからか、手が緩んだのだろう。ミライヤがセイメイの剣を弾き飛ばし、剣を振るう。


「よし! 行ける!」

「……そう、思ったかの?」


 二振りの刃が迫る、なのにセイメイは笑っていた。その笑顔に嫌なものを感じ、2人に下がるよう声をかけようとするが、もう遅い。

 セイメイは、迫る刃を手で受け止めた。その、恐るべき動体視力を持って。


「なっ……」

「カカッ、見事見事。少々遊び過ぎたようじゃ、よもや小娘共にいいようにやられては、このシン・セイメイの名折れ……」

「きゃ!」


 セイメイは、力任せに2人を投げ飛ばす。ノアリは着地に心配してしまったが、ミライヤは着地に成功。未だセイメイを睨み続けている。

 しかし、そこに微かに、ミライヤの目に光が戻っているような気がして……


「あれ、私……」

「ミライヤ!」


 ミライヤは、ぼそっと呟いた。どうやら意識を取り戻したらしい……が、体の光は消えないままだ。

 そして、辺りをぐるりと見回す。倒れて気を失っているアンジェさんとリエナ、気を失ってはいないが動けない俺とシュベルト、そして着地失敗から起き上がっていくノアリ。

 状況を確認し、ミライヤはセイメイに向き直る。その目には、炎を宿しているようだった。


「あなたが、みんなを……」

「だとすれば、どうする。言っておくが、ここから遊びでは済まんぞ?」


 ミライヤの居合いは、確かに必殺の剣だ。だが、その剣を今しがた、止められたばかり。ミライヤには、それ以外の剣はない。

 それが本人もわかっているのだろう。だが……ミライヤは、構える。体から迸る雷、それに目もくれず、ただセイメイだけを見据えて。


「すぅ……っ」


 バリッ……!


「無駄なことを」


 ミライヤが、その場から消える。しっかりと見ていたはずなのに、俺には見えない……が、セイメイには見えていたのか、少し体を横にずらした。

 次の瞬間、セイメイの背後にミライヤは現れた。地面が、焼けたように焦げている……雷のせいだろう。それは、確かにセイメイへと一直線に向かい、そして避けられたことを示していた。


「動きはいいが、やはりまだ覚醒したばかり。応用も利かんようじゃ……な!?」


 ザンッ……


 ……余裕を浮かべていたセイメイの顔が、初めて驚愕に染まった。そして、それは俺も同じだ……俺の視界の先で、セイメイの腕が吹き飛んでいたのだから。

 目が飛んでいく腕を追う中で、遅れて、セイメイを見る。セイメイの腕は……右腕があった部分にはなにもなかった。肩より下が、なくなっていた。

 あれは……刀傷によるもの、か? 見覚えがある……ヤネッサが、ビライス・ノラムに腕を斬り飛ばされたあの時と。

 じゃあ、ミライヤがセイメイの右腕を斬ったのか? 避けられたと思っていたミライヤの雷を纏った斬撃は、確かにセイメイの右腕を吹き飛ばしていた。セイメイの正面にいるミライヤが、ついにやった……


「……え?」


 正面? ミライヤは、さっきまでセイメイの背後にいただろう。なのに、なんで正面にいるんだ? それも、セイメイに背を向ける形で。

 ミライヤの居合いは、一直線だけのものだ。例えばその先に壁があって、それを使って跳ね返ってきたというのならまだわかるが……ここには、そんなものはないし。


「ぐ、ぬぅ……!」


 苦悶の表情を浮かべているセイメイ、その右肩を見て、ハッとする。そうだ、セイメイは腕を斬り飛ばしても、それを生やすことが出来るじゃないか。

 一度は隙を突いて、ミライヤの剣がセイメイの右腕を同じように斬り飛ばした。あの時、セイメイはなんでもないように、右腕を生やして見せた。

 ダメだ、いくらセイメイの隙を突いても、また同じように腕が……


「……?」


 生え……ない? すぐに生えると思っていた右腕は、なぜか生えてこない。生やさないのか?

 なぜ、どうして……そんなものを考える時間は、ない。なぜなら……


「でやぁあああああ!」


 セイメイの左側面から、ノアリが剣を構えて飛び出してきたからだ。今が好機と、その顔は言っていた。

 しかし、セイメイの反応も早い。


「ハッ!」


 残る左手をノアリに向け、手のひらからなにかを放つ。

 それは、煙だ。紫色に見える、謎の煙……それが、ノアリの全身を包み込む。


「人の肌なら容易く溶かす瘴気よ、悪いな娘!」

「!?」


 セイメイの口から出た言葉……瘴気……つまりは、毒か!? 毒が、ノアリを包み込んだ!?

 そんな……あいつ、そんな直接的に殺す手段に出るなんて! 思っていなかったわけじゃないが、認識が甘かった!


「ノアリぃいいいいい!」

「どうじゃ我が瘴気の味は! 娘ぇえええええ!」

「…………さいっ、あくよ!!」


 煙が、晴れる……正確には、煙の中からなにかが飛び出してきて、無理やり煙を晴らす。

 そこには、ノアリの姿があった。服は多少溶けてしまっているが、見た感じその体に傷はない。


「おぉお、ノアリ!」

「きったない煙の、お返し、よ!」


 ザクッ……!


 ノアリはその勢いのまま、剣を振り下ろす。その先にあったセイメイの左腕を捉え、全体重をかけて刃を押し込んだ。

 結果として、今度はセイメイの左腕が、斬り落とされた。


「っ……やはり、主は……!」

「どうだコノヤロ!」


 余程テンションが上がっているのか、ノアリの口がやや乱暴になっている気がする。まあ、それはどうでもいい。

 どういうわけか、セイメイは左腕も生やさない。ならば、今が千載一遇のチャンス……俺も、なにか……!


「! 体が……動く」


 そして、ここに来てようやく……体の自由が効き始めていることに、気づいた。
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