復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第6章 王位継承の行方

血の覚醒

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 ……かつてのエルフ族、命族の王であった、シン・セイメイ。彼こそ魔術、魔法を作り出した文字通り始まりの王とも言われているが、それは遥か昔のこと。彼に関する記述は、今は少なきものだ。

 それでも、エルフ族の中ではその存在は聞き伝えられている。若い世代はその限りではないが。それほどに、王たる彼の存在は大きく、死して今に至るまで、一部では彼を崇拝する者も確かに存在する。

 しかし彼は、実際には死んではいない。自身の作り出した"転生魔術"、それを駆使し何度と転生を繰り返し、時代を超えて今に至る。

 時代の移り変わり。それは直接目で見ることで、様々な発見を彼に味わわせてきた。自身が関わることのない世の中が、時間を経過するにつれどのような変化をもたらすのか。それを見るのが、楽しくてたまらなかった。

 だが……時代の移り変わりとは、目新しさと等しくあるように、昔あったものが廃れていく、ということでもある。

 魔術の衰退……この時代で、魔術という存在すら認知されていない事実に、彼は失望した。それに、かつて世界で知らぬ者がおらず、その王たる者は世界の覇権を握るに至った4つの種族。それさえも、今や知る者はいないのだ。

 かつて栄えた文化、逸話を残した人物……それらが薄れていく事実は、セイメイをどれほど絶望させたか誰にわかろうか。

 ……だが、今この時。


「カカッ」


 セイメイと対峙する2人の少女。その存在が、忘れかけていた彼の熱を、呼び起こしていた。

 セイメイと同じ転生者、ヤークワード・フォン・ライオス。その仲間である2人の少女。なんの変哲もない人間だと思っていたが、これがなかなか面白い。

 一方は、雷を纏いし平民の少女。人間が雷を纏うなど、あり得ない……そもそも、雷を操る種族など、古来よりひとつしか存在していない。そして、彼女の生い立ちから察するに、予想は確信になりつつある。

 さらに、もう一方の少女。殺すまでいかずとも、動けなくなるほどのダメージを、確かに与えたはず。そのはずが、彼女はダメージをものともせず……実際にダメージがあるのかすらわからず、動いている。


「ふむ……良いぞ、好きにかかってくるがよい」


 対峙する2人の少女、その存在に胸の高鳴りを感じた。嬉しい、楽しい……よもや、この時代において、このように面白き者たちに出会えるとは。

 雷纏いし少女、やたら頑丈な少女、そして……混じりの、転生者。


「カカッ、見事見事。少々遊び過ぎたようじゃ、よもや小娘共にいいようにやられては、このシン・セイメイの名折れ……」


 何度かの対峙の後、セイメイは気持ちを切り替えた。羽虫共と遊ぶ意識から、警戒すべき相手としての意識へと。セイメイの予想が正しければ、彼女らは遊びで相手をしていい相手ではない。

 加えて言うならば、覚醒しつつある状態から、彼女らの成長速度は著しい。手の打ちようのある、今のうちに捻ってしまうのがいいだろう。

 ……そう思うと同時。その成長を見続けたいという思いも、確かに存在していて。


「無駄なことを」


 雷纏いし少女は、意識の曖昧だった状態から、その意識を覚醒させる。意識を保ったからと言って、その力を制御したわけではないだろうが。

 やはり、速い。意識を保ったまま力も持続しているとなれば、次は……


 バリッ……!


 雷の音が、響く。その状態から放たれる斬撃とは、これまでのものとは次元が違う。だが、セイメイにとっては一度見た技、対処できない道理はない。

 事実、雷を纏った居合いを避ける。大きな動きもなく。他愛もないことだ。

 もしもここが室内、あるいは町中であれば、一度避けたところで油断はできない。壁を足場に、背後から襲ってくる可能性があるからだ。だが、ここは屋外……壁となる足場もない。

 いかに成長速度が早いとはいえ、今の彼女にはこれ以上は……


 ザンッ……


 ……見積もりの甘さをセイメイが知ったのは、目の前を飛んでいく己の腕。そして、確かに斬られたという衝撃と痛みだ。

 かわし、背後にいるはずの少女は、なぜかセイメイの正面に背を向けた状態で居た。なぜ……この場に、壁などないはず。折り返すことなど、叶わないはずだ。

 その気持ちを持ちながら、セイメイは首を動かした。いったい、どうして背後から戻ってきたのか、その答えを知るために。


「……あれは」


 それを目に映した瞬間、セイメイは納得を得た。同時に、まさかあり得ぬ……という思いも。だが、現実として自分は、腕を斬られた。

 そこにあったもの……結論としてそこには、なにもなかった。壁はおろか、足場となりうる岩すらも。

 ……そこには、ただ雷の余波が、ビリビリと流れているだけだった。


「よもや……流れる雷を、足場にしたか……!」


 それは、本来考えられない芸当だった。理論としては、それは可能だ……だが、ついさっき力が覚醒したばかりの少女にこんな芸当ができるはずがないと、たかをくくっていた。

 少女は、電流を足場とし、折り返してきたのだ。なにもない空間に電流を走らせ、その雷に乗り、足場として舞い戻ってきた。結果、セイメイの背後にいた少女は、セイメイの正面へと折り返した。


「カカッ……」


 その成長速度度合いは、予想を遥かに超えていた。今の芸当は、おそらく無意識にやったものだろう……それでも、恐るべきものだった。

 セイメイは、すぐに腕を再生させるため、魔術を発動させる。千切れた腕も、膨大な魔力マナがあれば再生させることが可能だ。

 ……だが、腕は再生しない。正確には、再生の速度が異様に遅いのだ。セイメイの腕が鈍っているわけでは、もちろんない。先ほど腕を再生させたことからも、明らかだ。

 ならば、腕を生やせない理由は……ひとつは、魔力が枯渇している。だが、大気中の魔力が枯渇することなどまずない。ともなれば、残された可能性はひとつ。

 その可能性に気づいて、セイメイは畏れでも怒りでも悔しさでもなく、笑った。魔術による再生の遅延は、ある種族の攻撃により起こることだ。そして、その種族のひとつこそが……


「やはり、小娘……主には、鬼族の血が流れておるか……!」


 かつての4種族、竜族、鬼族、命族、魔族……命族本人を除く、残り3種族の攻撃は、魔術の再生の遅延を発生させる。

 その理由は、彼らが魔力に感傷する種族だからだろう。そして、少女にはその種族、鬼族の血が流れている。

 その可能性に気づいたのは、彼女から感じる妙な気配。さらに、彼女の居合いの異様な速度。まるで雷のような、というノアリの言葉は、ある意味的を得ていた。

 一度斬られた右腕が先ほどは再生したのも、まだ鬼族の血が覚醒していなかったからだ。彼女の本当の両親、その先祖に、鬼族がいたのだろう。

 鬼族の血は薄まっても、確かに覚醒したのだ。さらに、彼女の額に生えた白く光る角が、決定的な証拠。


「人の肌なら容易く溶かす瘴気よ、悪いな娘!」


 セイメイの僅かな隙、それを見逃さず、もう一方の少女が斬り込んできた。対処としては、別の方法もあっただろう……だが、セイメイは敢えてそれを選んだ。

 人体に影響を及ぼす、毒の霧。あることを、確かめるために。

 ……煙から出てきた少女は、服こそ多少溶けていたが、人体に影響は見られなかった。この毒が効かないとなれば……決まりだ、彼女は……


 ザクッ……!


 ……左腕が、斬り落とされる。また、魔術の再生は遅延する。となれば……彼女は、4種族のうち、竜族の血を引く者だ。

 だが、彼女の生まれは紛れもない人間だ。にも関わらず、彼女から竜族のにおいを感じたのは……彼女が、竜王の血を飲んだ、という話を聞いて、納得した。

 病、否呪いを解くために、竜の、それも竜王の血を飲んだ。さらにその血が体内で混ざり合い、長い時を経て彼女の血と竜族の血が拒絶反応を起こすことなく、ここにきて覚醒した。

 あの異様な頑丈さも、竜族の特性と言える。それに、あの細腕で人の腕を斬り落とすなど、力も増しつつある。

 2人の血の覚醒が、セイメイに思わぬ傷を与えた。……しかし、セイメイは知らない。2人の少女の、胸の奥にはいったいどんな想いがあるのか。


(……私は、二度もヤーク様に助けられた。一度目は、騎士学園の入学試験の時。二度目は、『魔導書』事件の時……私は、助けられてばかりだ。だから……少しでも私は、ヤーク様の力に、なりたい!)


 雷を纏う少女は、無意識下に雷を操りつつ、その意識ははっきりしていた。脳裏に浮かぶのは、自分を救ってくれた少年の姿。己の無力さを、噛み締めていた。


(私は、なにもできなかった……『呪病』事件の時はただ助けられて。『魔導書』事件の時も、ただ見ているだけしかできなかった。なにもできない自分が、情けない。私だって……ヤークを、助けたい!)


 竜の血が叫ぶ少女は、自分の体になにが起こっているかもわかっていない。ただ、がむしゃらにやっているだけだ。その脳裏には、あの少年の姿。己の無力さを、噛み締めていた。

 2人の中に流れる血……2人の熱い想いが、その覚醒を急速に促したのだ。

 そして……


「!」


 セイメイの眼前には……2人の少女が思い浮かべる、少年の姿。その手に、剣を握って。


「小僧ぉおおおおお!!!」

「おぉおおおおおお!!!」


 対峙する2人の男の声が、交錯した……
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