158 / 307
第6章 王位継承の行方
決着の後
しおりを挟む「……ク……ヤー…………ヤーク!」
「んぁ……?」
眠っていた意識の中、誰かが俺を呼ぶ声がして、意識が覚醒する。ゆっくりと目を開いていくと、目の前には俺の顔を心配そうに覗き込む、2人の少女の顔があった。
2人とも、泣きそうなくらいに顔を歪めていた。
「ノアリ……ミライヤ……」
「! よかった、目が覚めたんですね……!」
「心配させないでよ、このバカ!」
「あたっ」
起きていきなり、ノアリに額を叩かれてしまう。とはいえ、その力は弱々しく、別に怒っているわけではない、というのはわかった。
ミライヤも、ほっとため息を漏らしているようだ。
俺は……そうだ、セイメイ。あいつを倒すつもりが、結局のところでこっちの方が先に力尽きてしまって……やられそうに、なったところに……
「……リーダ、様は?」
「ええと……わからないわ、起きたらいなくなってて」
……リーダ様の手によって、セイメイは捕らえられた。協力者の依頼で、捕らえたと言っていたが……その、リーダ様がどこにもいないという。
それに、セイメイも。あの拘束から、自力で抜け出したとは考えにくい。となると、リーダ様がどこかに連れて行ったと考えるべきか。
「ヤーク、目が覚めたか」
「! シュベルト……」
少し離れたところに、シュベルトがいた。もう体は動くようになったのか、アンジェさんとリエナの側にいた。2人は、まだ気を失ったままだ。
……とりあえず、みんな生きてる。それがわかって、ほっとした。
「俺、どれくらい寝てた?」
「そんなに長くは寝てないよ。せいぜい十分くらい」
シュベルトが言うには、俺はあれから十分は寝ていたらしい。思った以上に、意識を失っていた時間は短かったようだ。
だが、そのくらいの時間では体も休まってないようだ。まだ全然、体が動かせない。
「リーダは、どこへ言ってしまったのか。あのエルフを連れて、私の質問にも答えず」
シュベルトは、どこかへ行くリーダ様をただ見ているしかできなかったのだろう。その行き先は、誰にもわからない。
結局、セイメイを捕まえるために俺たちは利用されて、ここに放置されたってわけか。俺たちとセイメイをぶつけて、セイメイが弱ったところを捕らえる……と。
リーダ様は、セイメイこそが『魔導書』事件に関わり、ビライス・ノラムに魔石を渡し事件のきっかけを作った人物だ、と予想していた。
もしも、それを知った俺が激昂し、セイメイを襲うだろうことまで計算に入れていたとしたら……
「食えない、人だな」
年下ながら、その狡猾さが恐ろしい。まんまと、リーダ様に使われたってことだ。
……まあ、いろいろ考えるのは、後だ。今は、疲れ切ってしまったこの体を、癒やしたい……
「ヤーク様ー!」
「ヤークー!」
……そこへ、俺の名を呼ぶ声があった。体は動かない、ので、首だけ動かして声がした方向を見た。
……2人の女性が、こちらに走ってきていた。
「あ、アンジー? それにヤネッサ」
よーく知っているエルフの2人の姿があった。なぜ、2人がここにいるのか?
ノアリと、ミライヤを見る。2人は首を振る。どうやら、2人がこの場所を知らせたわけではないようだ。
そうしているうちに、2人は側へ。
「あぁ、ヤーク様! なんとおいたわしい……」
「え、え。2人とも、どうしてここに……」
「リーダ、って子から、教えてもらったの」
詳しい事情を聞くと、アンジーとヤネッサをここに呼んでくれたのは、リーダ様らしい。俺の後輩だと名乗り、俺たちが動けないから助けに行ってほしいと。結界は、解除されていたため、2人は入ることができた。
リーダ様は、放置していったわけじゃなかった。ちゃんと、助けを……傷を治してくれる頼りになる人たちを、呼んでくれてたんだ。
「待っててください、今治します……私は、向こうを診てくるわ」
「了解!」
ヤネッサが俺、ノアリ、ミライヤを。アンジーがシュベルト、アンジェさん、リエナをそれぞれ治しに行く。俺は傷が深いというより、なんだか疲労感がすごい……
ノアリは服が溶けている箇所もあるが、そこから見える肌には目立った傷は見受けられない。ミライヤは、頭から血を流しているが平気だと笑みを浮かべている。
とはいえ、場所が場所だ。ミライヤから、真っ先に治療してもらう。
「……あんまりジロジロ見ないで」
「悪い悪い」
どうしてかノアリとミライヤは、すぐに動けた。それを考えれば、シュベルトたちの方が重傷だ。だから、アンジーがあっちに向かった。
元々ヤネッサは回復の魔法が下手なわけではない。だが、片腕を失くし、その魔力は大きく減ってしまったのだという。
なので、わりと軽い怪我な俺たちにヤネッサをあてがい、アンジーはシュベルトたちの方へ。的確な、判断だ。
「あ、はいノアリー」
「あ、ありがとう。……でも、もうちょっと早く欲しかったわ」
ミライヤの治療を終え、ヤネッサはノアリに上着を渡す。用意がいいな、リーダ様に状況を聞いていたのだろうか。
次に、ヤネッサは俺の治療にかかる。そして、ノアリだ。3人分の治療を終え、ヤネッサはふぅと息を漏らす。
「ありがとう、ヤネッサ。助かったよ」
「ふふん、いいってことよ!」
向こうでは、アンジーによる治療も終わったようだ。とりあえず、これで一安心、か。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!
木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。
胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。
けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。
勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに……
『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。
子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。
逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。
時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。
これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる