復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第6章 王位継承の行方

向けられる視線

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 アンジーとヤネッサのおかげで、俺たちの傷の手当ては順調に済んでいった。軽傷、重傷、様々な傷を刻まれてしまっていたが、幸運にもどこかの部位が欠損した、なんてことはない。

 そのため、回復は順調だった。
 ただ、抜けてしまった歯まで生えてきたのには驚いた。

 『魔導書事件』の話になるが、ヤネッサのときも欠損した部位はあった。
 ただあれは腕で、なくなった部位から生やすどころか時間が経ってしまったせいで、くっつけることもできなかった。

 腕に比べれば、歯は幾分復活しやすい部位ということなのだろう。


「……歯が……生えてる」


 その割に、治してくれたヤネッサ自身が驚いた様子だったのは気になったが。


「……もう、大丈夫です。ありがとうございます、アンジー様」

「や、そんな、頭を上げてください」


 向こうでは、意識を取り戻したアンジェさんとリエナが、アンジーに頭を下げていた。手当てしてもらったのだ、感謝の念は当然だ。

 特に、リエナは死ぬ手前までいっていた……いや、実際には死んでいた。それを実際に救ったのは、ミライヤだが……

 ともあれ、普段仕える立場のアンジーは、こうして頭を下げられることに慣れていないのだろう。


「アンジェもリエナも、そのくらいに。アンジーさんやヤネッサには後日改めて礼をしたい……が、今はここを離れた方が良さそうだ」

「……そうだな」


 この場所には、人払いの結界が張ってあった。それが解かれた今、徐々に人の目は集まりつつあるのだ。

 いつまでもこんな所に、留まっているわけにもいくまい。


「ひとまず、学園に戻る?」

「そうね」


 俺たちは、学園へ向けて歩き始める。道中、アンジーとヤネッサに、セイメイの一件を軽く説明しながら。

 ……自分でも説明しながら、思い出していた。ノアリとミライヤ、それぞれの変化を。ノアリはやたら頑丈だったし、ミライヤはわざわざ思い出す必要すらないほどの変化だった。

 その身に雷を纏い、すさまじい速さで斬り抜く。以前ノアリが、ミライヤの居合いは雷みたいだ、なんて言っていたが、あれでは本当に……

 それに、2人がセイメイの腕を斬った際、なぜかセイメイは腕を再生させなかった。もしくはできなかった。

 それに至っては、俺の最後の一太刀もなのだが……


「ねえヤーク、気づいてる?」

「ん? ……あぁ」


 こうして歩いているだけなのに、居心地の悪さを感じてしまう。それは、ノアリも気づいていたらしい。とすれば、他のみんなも……

 考え事をしていても、感じてしまう……周囲からの、視線。

 視線を向けられること自体は、わりともう慣れた。『勇者』の家系だなんだというのも、もう割り切っているつもりだ。

 ……が、これはそういった物珍しさからくる視線ではない。


「これは……」


 王族が、貴族が、町中を歩いている。それだけでも、人々の好奇の目は集まる。だが、これは物珍しさ以上に、とある感情が含まれている。

 それは……シュベルトへの、疑念を含んだ視線。


「あれが、第一王子……」

「でも、本当は正式な第一王子じゃないんでしょ?」

「ずっと俺らを騙してたんだよな」


 ……そんな声は、もちろん聞こえてこない。シュベルトが第一王子であろうとなかろうと、シュベルトが王族であることに変わりはないからだ。

 それでも……俺には、周囲の視線が、まるでこう言っているかのように、感じられたのだ。


「……」


 周囲からの視線に、誰もなにも言わない。それを一番感じている、シュベルトでさえ。

 考えてみれば、リーダ様の放送があってから、シュベルトと学園の外を出歩いていない。シュベルト本人も、ひとりで出ることはなかっただろうが……

 改めて、向けられる視線の、厳しさを感じる。


「つ、つきましたね」


 気づけば、学園の前についていた。それまでの道のりが、やたら長く感じたのは、果たして気のせいだろうか。

 忘れていたわけではない……だが、今のシュベルトが外を歩けば、今のような視線を向けられるのだ。にも関わらず、シュベルトは俺たちのピンチに駆けつけてくれた。


「今日は改めて、ありがとうな2人とも」

「いえ、むしろ駆けつけるのが遅くなってしまい申し訳ございません」

「仕方ないよそれは」

「ヤーク、困ったことがあったらいつでも頼ってね!」

「はは、あぁ」


 学園についた後は、アンジーとヤネッサとはお別れだ。本当なら、俺が2人を送り届けたかったところだが……

 2人には悪いが、今日は疲れた。回復魔法で傷は癒えても、疲労までは回復していないのだから。


「シュベルトも、アンジェさんも、リエナも、ありがとうな」

「いいさ、困ったときはお互い様だ。ヤークには、いろいろ気を遣わせているしな」

「そんなこと……」


 誰も、先ほど向けられた視線については話さない……だが、これは避けては通れない道だ。明日にでもきっと、話をすることになるだろう。

 今日は、それだけの余裕が、みんなに残ってないだけで。


「はぁ、早くシャワー浴びたいわ」

「私もです」


 そうやって、お互いの疲労を誤魔化すように、軽口をたたきあう。そうして、男子寮を女子寮に分かれて、それぞれの方向に進んでいく。

 明日からは、また別の問題について考えることになる。そのためにも、今日はゆっくり休もう。

 だが、不思議とこれまでのような、どうしたらいいのかという思いは小さくなっていた。今日、死ぬ思いをしたからか……あれに比べれば、どんな問題でも解決できる。そう、思ったからだ。

 まだ国民の目は厳しいが、リーダ様もこれ以上ちょっかいはかけてこないだろうし。表立ってなにかが起こる様子もない。みんなで揃えば、きっといい案も浮かぶ。

 そう、軽く考えてしまっていた……だが、実際のところ。表立って事が起こっていないだけで、事は動きつつあったのだ。静かに、しかし着実に。
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