復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第7章 人魔戦争

数々の異変

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 ノアリの体には、確かに異変があった。破けた袖から見えた腕は、朱色の鱗に覆われていたのだ。

 あれは……人間族の特徴には、ない。それどころか、獣人族などの種族にも、見られない特徴だ。


「いったい、どうなって……?」


 腕だけではない……ノアリの目も、明らかに正気を失っている。

 というか、赤い……?


「ウゥウうウ!」

「!」


 その間も、状況は動く。魔族はノアリの拳を受け止めているが、徐々に後ろに下がっている。

 踏ん張っていても、押されているのだ。ノアリの、力に。あの、魔族が。


「っ、この、力……!」

「ウゥラ!」

「!?」


 拳を止めることに集中していたためだろう、ノアリの動きに着いていけていない。

 ノアリはその場で軽く飛び上がり、魔族の顔面に蹴りを打ち込む。バキッ……と嫌な音が響き、魔族は吹っ飛んでいく。

 だが、それに留まらない。ノアリは、その場から飛び出し、吹っ飛んでいた魔族に追いつくと……顔面を掴み、地面に打ちつける。


「っ!?」

「ゥう……!」


 どれほどの力で打ち付けたのだろう、地面が割れる。同時に、地が揺れる感覚だ。

 あれでは、魔族もひとたまりもあるまい……固唾を呑んで見守るが、まだ魔族は動いていた。


「グッ……!」

「は、はは……やって、くれますね……」


 魔族も、地面に押し倒されている状態から腕を伸ばし、ノアリの顔面を掴む。お互いに、相手の顔面を掴んでいる状態。

 ノアリの方が、上になっているとはいえ……


「まずい……!」

「ふん!」

「っ!」


 俺が危惧した瞬間には、もうそれは起こっていた。

 魔族は、ノアリの顔面を掴んだ状態の手のひらから、魔力の衝撃波を放つ。それにより、ノアリの体は吹っ飛んでしまう。

 いくらノアリの力が強くても、魔族は魔力があるのだ。簡単に、逆転されてしまう。


「うっ……あぁ、なかなかに痛いですよ。まさかここまで手間取るとは」


 よろよろと立ち上がる魔族。その手には、漆黒の剣が握られ、刀身は黒く光っている。

 あれは、魔力を纏っている。


「ノアリは……」


 吹っ飛ばされたノアリは、先ほどまでの勢いが嘘のように動かない。

 あんな、無防備な状態で魔族の剣を受けたら……いかに、頑丈だといっても……!


「させるかぁ!」

「! ヤーク!」


 今の戦いに、夢中になっていたせいだろう。ガラドの、俺への注意は減っていた。その隙を突いて、俺は飛び出す。

 ノアリの力がなんだとか、気になることはある。だが、そんなもの今は関係ない……!

 このまま、ノアリを殺させてたまるか!


「ぅおぉおおおおお!」

「!」


 ガギンッ……!


 俺の剣が、魔族の剣を衝突する。よほどの力で打ち付けたためだろう、重々しい音が響いた。

 しかし、俺の渾身の一撃は、安々と受け止められた。


「やはり、近くに潜んでいましたか。このまま出てこなければ、あの娘を見せしめに殺そうと思っていましたが……」

「させるかよ、そんなこと!」

「む……」


 ただ、目の前の魔族を倒す。俺が今考えるのは、それだけだ。

 渾身の、いやそれ以上の力を込め、漆黒の剣ごと魔族を叩き斬るために足を進める。

 少しずつ、魔族の力を上回っていく。


「ぬ、ぅおおお……!」

「やれやれ、先ほどの娘といいあなたといい……厄介ですね。しかし」

「っ?」


 不意に、込めていた力が抜ける……いや、力の行き場が、なくなったんだ。

 押し切ってやろうと、力を込めていた。しかし相対する魔族が、力を抜き……俺の力を受け流す形で、横にそれたのだ。

 俺はバランスを崩し……魔族に足払いされ、地面に背中から打ち付けられる。


「うっ……!?」

「これで、終わりです」


 すぐに起き上がろうとするが、目の前……首元に、剣の切っ先を突き付けられる。

 魔族に見下ろされ、剣を突き付けられ……おまけに、右腕は軽く踏まれ、行動も封じられた。


「片手が満足に動かせない中で、あそこまで力を出せたのは見事。ですが、少々頭に血が上り過ぎましたね」

「く……」

「人間というものは、実に御しやすい。そして、ここで『勇者』の子を殺せば、残りの人間たちの士気も下がるでしょう」


 そう言って、魔族は俺の首へと剣の狙いを定め……一気に、振り下ろした。


「ヤークー!」


 途端に、世界の動きがゆっくりになって見える。

 視界の端では、ガラドが俺を助けようと飛び出して……他の魔族に、妨害されていた。あいつ、俺になんだかんだ言っておいて、結局出てきているじゃないか。

 あぁ、くそ……ここで、終わりかよ。ノアリを助けに出てきたつもりが、なんて情けない幕切れだ。

 せっかく二度目の人生を生きていたのに……俺の目的ふくしゅうも果たせないまま、よりによって全滅させたはずの魔族に、殺されるのか。


「……」


 一度目の死は、痛く苦しかった。今回は、せめて痛みを感じないといいな……そんなことを、最後に思って……

 喉に、刃が突き刺さる、感覚があって……


 ……パキンッ


 ……視界の先で、黒く光るなにかが、飛んでいくのが見えた。同時に、喉に感じた違和感が、消えていた。


「……ほぅ」


 魔族の声が、聞こえた。どこか、感心したような声だ。見えるし、聞こえる……俺は、まだ生きているということだ。

 なにが起きたのか、それを理解するために、必死に眼球を動かす。

 手掛かりは、先ほど見た黒く、光るなにかで……


「……ぁ」


 小さく、自分の声が鳴ったのが、わかった。

 黒く光る、なにか……それが、魔族の持っていた漆黒の剣、その先端だと、気づいたからだ。

 漆黒の剣の先端が、折れて……空を、舞っていた。
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