復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第7章 人魔戦争

敗北

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「……ほぅ」


 魔族が、感心したような声を漏らしている。

 今一体、なにが起こったのか……それは、俺にはわからない。ただ理解できることは、目に映った情報だけ。

 俺の首を貫いたはずの、漆黒の剣……その、折れた剣先が舞う、光景だけであった。


「! お、らぁ!」

「ぐっ……」


 呆気に取られている暇はない。俺は、確かに生じた隙を見逃さず、上体を勢いよく起こす。

 魔族の顔面に、頭突きをお見舞いし……その衝撃で、魔族は軽く後ずさりをする。


「っ、まったく、あなたがたは……!」

「はぁ、はぁ……」


 今俺は、死んだ……死んだと、思った。それが、どうして生きているのか。

 その理由は分からないが……まだ、戦えるってことだ。立ち上がり、魔族を見据える。


「まさか、刺される直前に魔力を首筋に集め、とっさに防御に使うとは……面白いことをしますね」

「? 魔力?」


 なにを言っているんだ、こいつは? 魔力を首に、だと? それで剣撃を防いだと?

 こいつがなにを言っているのか、理解が出来ない。人間おれは魔力なんて使えないし、そもそもこの結界の中では魔力は使えないはずだ。

 魔族は、別だが。


「おや、もしや自覚なしですか……やれやれ。また仕切り直しと、いうわけで……」


 漆黒の剣が折れようと、正直そんなに関係ない。なにせ、先ほどは剣を持っていないこいつに、いいようにやられていたのだから。

 それでも、ここで引くわけにはいかない……だがそこで、魔族の言葉が不自然に止まる。


「……あぁ、もうこんな時間ですか」


 自分の手のひらを見て、魔族は何事か呟く。時間? どういうことだ。

 それと同時、周囲に異変が起こる。人々の影から出現した魔族、それらが消え始めたのだ。


「……は?」


 徐々に透明になり、消えていく。なにが起こっている?

 ガラドがなにかした……わけでもなさそうだ。ガラドも、驚いた様子を見せている。


「やれやれ。やはりまだ時期が早かったということですか」

「おい! いったいなにを……」

「活動時間の限界、というやつですね」


 活動時間の限界、だと? それはどういう……って、言葉通りの意味なのだろうが。

 すると、他の魔族だけではない。目の前の魔族も、消え始めているではないか。

 ……終わった、のか?


「いや、じゃあお前ら……いったい、なにしにここへ……」

「言ったでしょう、国を制圧すると。思わぬ邪魔はありましたが、目的は達成されました」

「はぁ!?」


 訳の分からんことを言いやがって……!

 だが、どういうわけか魔族は消える。ならば、制圧された国も捕まった人たちも、結局は元通りで……


 ドサッ……


「!」


 なにかが、倒れる音……そちらに目を剥けると、捕まっていた人が倒れていくではないか。それも、ひとりや2人ではない。何人もだ。

 魔族は消えゆく、代わりに人々は倒れていく……


「お前、なにをした!」

「やれやれ、すべてを説明せねばなりませんか? まあ簡単に言うならば……次、我々が攻め入るときまで、彼らには眠っていてもらう。そのための仕掛けを、先ほど作動させました」

「眠って……?」


 魔族の目的とやらは、さっぱりわからない。だが、国を制圧しなにもしないはずが、ない。

 活動時間と言っていた。つまり、活動時間の限界がることは事前にわかっていたことになる。

 その上で、決して長くない時間で、なにか細工をした。


「お前ら、また来るつもりか!」

「えぇ。本来ならばもう少し活動できるはずだったのですが、少々手違いが。なぁに、心配はいりません。眠った彼らは死にはしませんから。ただ、少々寝心地は悪いかも、しれませんね?」


 またこいつらは、攻めてくる。それまでに、みんなは起きない……だと、いうのなら!


「お前をここで倒せば、済む話だろ!」


 俺は、魔族に斬りかかる。しかし、走り出したところで意識がぐらつき……思わず、膝をついてしまう。

 なんだ、こりゃあ……


「あなたは当たりのようだ。なにも、この国の全員を眠らせることはできません。何人かは、あなたのように意識があることでしょう」

「!」

「それに、これはあなたにとって朗報なのですよ?」


 魔族はゆっくりと、俺に近づき……目の前で、足を止めた。


「このまま殺し合えば、どちらが死ぬかは目に見えているでしょう」

「っ……」

「命を拾ったこと、感謝することです」

「まっ……」


 せめて、最後に一矢報いたい……そう思って、顔を上げる。

 ……そこには、すでに魔族の姿はなかった。


「! ……くそぉ!」


 地面を殴りつける俺の、声は……ただ虚しく、空に響いていった。

 いきなり魔族に攻め入られたかと思ったら、まんまと国を制圧されて。世界征服の足掛かりだと言いながら、活動時間に限りがある中で……国中の人々を捕まえ、意識を奪い眠らされた。間違いなく、敗北したんだ。魔族に。

 確かに、あのまま戦っていれば、俺は……とはいえ、この状況を素直に、助かったとは言いたくない。


「ぅ……ウゥ……!」

「ノアリ……」


 考えることは、山ほどある……頭がごちゃごちゃしている。少し、休みたい。

 しかし、状況はそれを許してはくれない。先ほど吹き飛ばされたノアリ、彼女の容態も確認しなければ。


「……うそだろ」


 彼女の、足音が聞こえる……どうやら、彼女も気は失っていなかったらしい。

 それは、喜ばしいことだ……だが、異変が続いていることは、すぐにわかった。

 ノアリの目は、赤く変色したまま……敵を見定める目を、俺に向けていた。
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