復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第7章 人魔戦争

朝日昇る頃に

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「……んぁ?」


 閉じていた目を、開く……落ちていた意識が、徐々に覚醒していくのを感じる。ここは……教室か。朝日が、差し込んできている。

 そうだった、俺は学園内の一室を休憩場所に選んで……壁を背にした状態で、いつの間にか寝てしまったのだ。

 肩に、重みを感じた。そちらを見ると、そこには無防備な寝顔をさらした、ノアリの顔があった。並んで寝て、もたれかかってきたのか。

 周囲に、人の気配は……ないな。寝る前は、少なからず人はいたはずだが……夜のうちに、どこかに移動したのか。こんな状況で、深くは眠れなかったのか、場所を移したってとこか。


「すぅ……」

「気持ちよさそうに寝ちゃって、まぁ」


 こんな状況でなければ、その寝顔を目に焼き付けた後、起きたノアリをしばらくからかってやるつもりだが……さすがに、この状況でそんな気は起きない。

 せめて、目を覚ますまでおとなしく肩を貸してやろう。そう思っていたところへ……


「ん……ん?」


 規則的な寝息が途切れ、うっすらとノアリの目が開いた。その瞳はぼんやりとしており、正面を虚ろな視線で見つめている。

 寝起きで、頭がぼーっとしているのだろう。


「よぅ、起きたか」

「……」


 呼びかけても、返答はない。そのまま数秒が経ち……ノアリの首が動き、視線が俺を捉えた。

 なんだろう……俺は寝起きのノアリの表情を知っているわけではないが、それでも、その瞳はどこか虚ろげで、俺を見ているようで見ていない……


「っ!?」


 それは、突然のことだった。背中を、打ち付けたような衝撃。いや、実際に打ち付けたのだ。

 背もたれにしていた、壁に……ではない。床にだ。床に……押し倒された。

 誰に……? そんなの、考えるまでもなく……今、俺の上に、いる人物だ。


「ノ、アリ……?」


 そこに、ノアリがいた。俺の両肩を、それぞれの手で掴み、俺を床に押し倒した。それは、強い力ではない……思わぬノアリの行動に、すっかり反応ができなかった。

 ノアリは俺を押し倒したまま、相変わらず虚ろな瞳で俺を見下ろしている。しかも、もぞもぞと動いて……俺の腹の上に、乗っかるように、体を移動させる。


「の、ノアリ、さん……?」

「……」


 その、あまりにも突拍子もない行動に、完全に反応が遅れる。なんとか呼んだ名前にも、反応はない。

 これは、ただ寝ぼけている……だけじゃ……?


「って、おい!?」


 あまり正気とは言えないノアリの姿。その原因を考えていたが、思わず思考が途切れてしまう。目の前の光景が、一変したからだ。

 俺を押し倒した状態のノアリは、あろうことか自らの服に手をかけていた。そして、そのままなんの抵抗もなく、脱ぎ始めた。


「うぉあぁああ!?」


 その、突拍子もないどころの話じゃない光景に、俺は大声で叫びそうになった……が、なんとか声を押し殺す。大声を上げて、それに驚いた誰かが来て、もしこの姿を見られたら……

 それだけは、なんとしても避けなければ! とはいえ、このままというわけにもいかない。

 カッターシャツのボタンを外し、桃色の下着がチラチラと露になる。シャツのボタンをすべて外したところで、再び俺の両肩を掴む。

 しまった、黙って見てないで抵抗していれば……いや、こうして乗られているだけなのに、体が動かせないほどの重量感が襲ってくる。ノアリの体重がこれほど重いはずもないのに!

 そのままノアリは、俺の顔に自らの顔を近づけてくる。改めて見ると、整った顔立ちは大人としての魅力も見て取れる。


「って、そうじゃない! 離れろノアリー!」


 普段ならばともかく、今のノアリは明らかにおかしい。なんとかやめさせようとするが、身も動かせない状態ではたいした抵抗にもならない。

 その、整った顔が眼前に迫り、お互いの鼻先が触れ合った瞬間……


「ななな、なにしてるんですかぁ!?」

「!」


 その場に、悲鳴のような声が響き渡った。ふと、ノアリの動きも止まる。

 同時に、声の方角……教室の入り口へ目を向けると……


「み、ミライヤ……!」


 そこには、ミライヤがいた。助けが来てくれた、という気持ちと、見られた、という気持ちとが交錯する。

 今の状況は、俺がノアリに押し倒されている……しかも、ノアリはシャツのボタンを外した上で、肩まではだけてしまっている。綺麗な金髪は艶めかに光り、なにより俺に迫っていた。

 それだけで、言い訳のしようもない状態だ。


「いや、ミライヤ、これはちが……わない、というか、俺もよくわかっていないと、いうか……!」

「む……おぉ」


 固まるミライヤの後ろから、クルドが顔を覗かせる。クルドにまで見られた!

 驚きに固まるミライヤ、そしてなぜか感心した様子で顎を撫でているクルド。やっぱりこれ勘違いされていないか!?


「ふむ、なるほど……おそらくこれは、竜族の本能が自我を上回って……」

「なにをのんきに解説しているんですか! ノアリ様だめです!」


 クルドはなぜかこの状況に一定の納得を得ているようだ。そんなことより、とりあえずこの状況をどうにかしてほしいんだが!

 ミライヤはミライヤで、顔を真っ赤にしたまま、俺たちに……ノアリに、突っ込んでいく。俺の上からノアリを退かせようと、両手を前に突き出して。

 しかし、俺でもどうしてかノアリを退かせられない。体重云々の話ではなく、まるで岩のようだ。

 そんな状態のノアリを、ミライヤの細腕で弾き飛ばせるはずもなく……


「っ!?」


 ……しかし、その想定とは裏腹に、俺の上から重みがなくなった。それは、ミライヤがノアリを突き飛ばしたからだ……そう、突き飛ばしたのだ。

 どれほどの力で……いや、ミライヤならば本気でどついたところで、今のノアリを弾き飛ばせはしないだろう。だが、現実としてミライヤはノアリを突き飛ばした。

 油断していたのか、それとも予想だにもしていなかったのか……ノアリは弾き飛ばされ、近くの机に衝突して散らかす。


「ノアリ……は、無事みたいだな」


 あの程度なら、ノアリは怪我をしてはいないだろう。

 なんにせよ、助かった……


「ミライヤ、助かっ……」

「不潔です!」

「ぶへーい!?」


 ミライヤに礼を告げようとしたところ、その勢いのままにミライヤに頬を叩かれた。鋭い一撃だった。

 頬が、ヒリヒリ……いやビリビリ?する。俺、なにもしていないのに……
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