復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第7章 人魔戦争

生物としての本能

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「申し訳ございませんでしたぁー!!」


 俺の目の前で、ひとりの少女が頭を下げている。床に正座をして、その状態から勢いよく頭を下げる……

 その姿は、なんとも丁寧な、無駄のない姿のように思えた。


「いや、もういいって。誤解が解けたならよかったし」


 そう言って、俺はミライヤに頭を上げるように伝える。ミライヤは、恐る恐るといった感じで、ゆっくりと頭を上げていった。

 その表情は、居心地悪そうに歪んでいる。俺と目を合わせようとしない。先ほどのビンタ、すごかったもんな。

 とはいえ、俺はミライヤに怒ってはいない。そんな顔をする必要はないのだ。俺は、ビンタされた"両頬"を擦りながら……


「俺としては、もうひとりからも謝罪がほしいところなんだよねぇ」

「……」


 少し離れたところで、あからさまに目をそらした、ノアリに目を向けた。

 はだけていたシャツは今はちゃんとボタンが止められ、着ている。乱れているところは、どこにもない。

 そんなノアリも、居心地悪そうにそこに座っている。


「まさか、心配した相手にビンタされるとは……」

「し、仕方ないじゃない! だってあんな……」


 ミライヤにビンタされた俺は、その場に倒れ込んだ。顔を真っ赤に暴れるミライヤをクルドに任せつつ、吹っ飛んでいたノアリに駆け寄った。

 そして、ノアリに怪我がないかとか、一応確認しようとしたところ……ノアリに、ミライヤに叩かれたのとは反対側の頬を、叩かれたのだ。


「だって! ヤークが、私のふ、服を、脱がせようと、してるのかと……」

「それは……勘違いさせた俺も悪いけどさ」


 吹っ飛ばされたノアリは、正気に戻っていた。そんな彼女の目には、さっきの状況がこう映ったことだろう。

 服がはだけた状態の自分、ボタンがすべて外されたシャツ、そしてそんな自分に手を伸ばしてくる俺……まあ、俺がノアリを襲おうとしていたと、思い込んでも仕方ない。

 実際は逆なんだがな。


「けど、あんな思い切りぶたなくても。首もげるかと思ったよ」

「そ、それは誇張しすぎでしょ!」


 いや、本当に……あんな思い切った力、そうそうないぞ。

 ノアリからしたら、俺が服を脱がそうとしていたように見えたのだから、当然の反撃だったのだろうが……


「……ノアリ様。私は、その……ノアリ様が、ヤーク様とそういうことをしたいというなら、仕方ないと、思います……でも、せめて、と、時と場所をですね……」

「違うわよ!? 勘違いしないでよ!?」


 真っ赤なミライヤを見て、ノアリは自分がやらかしてしまったと理解したのだろう。


「……悪かったわよ」


 それでも、自分の記憶にないことで謝るのは不服なのか、頬を膨らませてむくれていた。


「……と、ところでクルドさん。ノアリ様の変化に、なるほどって言ってましたけど」


 気まずくなった雰囲気を払拭するためだろう、ミライヤは、俺も気になっていることをクルドに聞く。ノアリが俺を襲おうとしている場面を見て、クルドはなるほどと言っていた。

 どうにも、ノアリの行動に納得したようなものを感じたらしい。


「あぁ。あれは、竜族の本能というものだろう」

「本能?」

「うむ。竜族は、数が少ない。だから、種を存続させようと、本能に忠実になってしまうことがある。とはいえ、ある程度は自制が効く……ノアリの場合、血が覚醒したばかり、というのが大きいのだろう」


 クルドの説明。種の存続のため……か。本能的に、異性を求めていたということか。

 竜族は数が少ない……そういえば、竜族の村では、男性に対して女性の姿をあまり見かけなかった気がする。

 竜族の繁栄云々についてはともかく。そういった、生物としての本能、にノアリは呑まれていたということだ。


「え……じゃ、じゃあ私、これからだれかれ構わずあんなことをしちゃうの……?」


 クルドの説明を聞いて、顔を青ざめさせるのはノアリだ。生物としての本能とはいえ、つまりは異性に対して誰にでもあんなことをしてしまうという可能性だ。

 あんな力で迫られたら、誰も逃げられない。というか、贔屓目を除いてもノアリはかわいい。そんな子に迫られて抵抗できる男など……


「それは心配いらないだろう」


 だが、その心配を払拭するのは、他ならぬクルドだ。


「と、いうと?」

「本能的にあったとはいえ、あそこまで行動的になることはまずない。せいぜいが体の火照りを感じるくらい。竜族と竜人とではまた違うのかもしれないがな」

「……ん? 行動的にならないのなら、なんでノアリは?」

「おそらくは、近くにいたのが特定の異性だからだろう。一定以上の好意を持つ相手がいたことで、余計に自制が効かなく……」

「てぇい!」


 腕を組み、先ほどの光景を解説していくクルド。そのクルドの口が、閉じられる。俺の隣りにいたノアリが、いつの間にかクルドの口を閉じていた。

 顎を持ち上げるような形で、物理的に口を閉じさせた。


「危ないな、舌を噛んだらどうする」

「それは、ごめんだけど……っ」


 当のクルドは、なんでもないように真っ赤なノアリを見ている。


「ち、違うからね!」


 そしてノアリは、俺を見ながらなにかを訂正している。寝起きで忙しいやつだな。

 とにもかくにも、正気に戻ったようならなによりだ。


「まあらあのようなことはそうそうないから心配することはない。それはそうと、ミライヤ」

「はい?」


 このまま話を続けてもノアリがいじめられるだけだと思ったのか、クルドが話題を変える。


「先ほど、確認した。どうやらお前には、鬼族の血が流れているらしい」

「……はぇ?」


 竜族の本能とやらの興奮冷めやらぬうちに……クルドは、さらっと衝撃的な言葉を放った。
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