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第7章 人魔戦争
鬼族の血
しおりを挟むクルドが、口にした単語……『鬼族』。その種族の名前に、俺は聞き覚えがあった。
今はもう、忘れ去られた種族。かつてこの世界に存在していたという、4つの種族。魔族、竜族、昔は命族と名乗っていたエルフ族。そして……鬼族。
その、鬼族の血を……ミライヤが引いていると、クルドは言うのだ。
「鬼……族? なんですか、それ」
当然、聞き覚えのない名前に、ミライヤは首を傾げている。ミライヤだけではない、ノアリもだ。
俺だって、セイメイからそういった話を聞いていなければ、なんのことやらだっただろう。
「今は、詳しい話は省くが……我ら竜族と、同じような存在、と言ったところか」
「それって……めっちゃ珍しいってこと!?」
「ん……あぁ、まあ」
ノアリなりに解釈したようだ。珍しい種族……でもまあ、簡単に言ってしまえば、そういうことだ。
それに、ノアリは今や竜族の血が覚醒している。そこへ、鬼族の血を引くというミライヤが、自分と同じようなものと言われ、嬉しくもなったのだろう。
「なんか、そんな別の種族なんて言われても、実感がないですが……」
「ミライヤの場合は、ノアリのような後天的な覚醒ではなく、最初から鬼族の血を引いていた。それが、つい最近土壇場で覚醒した……といった形だな」
「最近……」
竜王の血を飲んだことで、結果的に竜族の血が覚醒したノアリ。対してミライヤは、初めから鬼族の血が流れていた。ミライヤの先祖に、鬼族がいたってことだろう。
そして、それが最近覚醒した、と。
「鬼族の特徴は、その身から雷を放つことだ。それを利用し、己も雷の如き速さで動くことができる」
雷のような速さ……それを聞いて、思い当たることがあった。
「それって、ミライヤの居合い……」
「あの、超速いやつね! 目で追えないくらいに速いのよ!」
ミライヤは、剣技がからっきしだ。それでも、訓練して人並み以上には剣を扱えるようになった。
そんなミライヤが得意とし、おそらく誰にも真似できない……居合い。その速度は、以前ノアリが「雷みたいだ」と評したほどだ。
「我はそれを見たことがないから、なんとも言えんが……」
「他、他には!? なにか特徴ないの!?」
「そうだな……竜族と同じ、と言ったが。鬼族の攻撃も、魔力による回復を遅延させる効果がある」
鬼族も、竜族と同じ攻撃効果を持つ……これで、またひとつ確信が持てた。
セイメイと斬りあった時。最後、ノアリミライヤと順にセイメイの腕を斬り落としたが、そのどちらも魔力による回復は発動しなかった。
「あれ、でも……最初に、セイメイの腕を斬ったときは、腕生えてたわよね」
「そう言えば……」
思い返すと、ミライヤはセイメイと相対したばかりのときにも、斬りかかり……腕を、斬り飛ばしている。
だが、その時点では腕は、生えてきたのだ。
「その時点じゃ、鬼族の血が覚醒してなかったとか?」
「あー、なるほど。戦いの中で、目覚めていったってやつね!」
先ほどからミライヤは、目を回している。あまりに、自分の身に起こったことが未知すぎて、ついてこれているのか不安だ。
「我も、ミライヤに会ったときに、純粋な人族とはまた違った気配も感じたのでな。もしやと思っていた」
そういえば、クルドはミライヤに会ったとき、ミライヤのことをじっと見つめていたな。
「それに、先ほどのビンタ……まるで雷の如く、鋭い一撃だった。それを見て、我は確信したよ」
「え、確信するのそこなんですか!?」
「なるほど、だから殴られたところがヒリヒリじゃなくてビリビリしてたのか」
「も、もーっ、ヤーク様まで!」
鬼族が雷を操るというのなら、先ほどのビンタにも雷の力が備わっていたのかもしれない。
「それにしても……竜族に鬼族、か」
改めて、ノアリとミライヤを交互に見る。2人とも、外見的な変化があるわけではない。
それが、いきなり別の種族の血が覚醒したと言われても、素直にうなずけない。
「竜族は、先ほど見たとおりだが……鬼族は、外見的な変化はほとんどない」
「ほとんど?」
「あぁ。額に、白い角が生える程度だ」
角、か。ミライヤに、角が生えているなんて見たことがないけど。
それも、普段は血が覚醒していないから、だろうか。まあ普段から角が生えていたら、それはそれで騒ぎになるが。
「……私が……」
じっと、自分の手を見つめているミライヤ。
ミライヤの本当の両親は、すでにいない。別の国で、盗賊に殺されてしまったからだ。その後この国で、育ての親となるあの2人に引き取られたわけだが……
生みの両親、もしくはその親……そこに、鬼族と関係を持った人が、いたのだろう。
「じゃあ、ミライヤも充分な戦力ってことね!」
「いや、そんな私なんて……」
「そうだな。使いこなせるようになれば、その力は魔族にも引けをとらん」
「ひえぇ……」
未知の力……それを使いこなすとなると、なかなか難しい。が、ノアリもミライヤも、持てる限りの力を尽くして頑張ってくれることだろう。
俺も、しっかりしないとな。
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