復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第8章 奪還の戦い

可能性と事実

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「の、ノアリ様!?」


 ノアリの発言に、ミライヤは音を立てて立ち上がる。ノアリは、微動だにしない。

 同じく、ミーロとキャーシュも、黙って話を聞いていた。


「ミライヤ、座って」

「でも……」

「いいから」


 静かな口調で、しかし強い口調で言われ、ミライヤは座る。

 しかし……彼女は今、とても酷なことを聞いたのだ。いくらあんな前置きをしていたからと言って。

 よりによって……


『私は、ヤークが父親を……ガラドさんを殺すという可能性は、あると思ってる
 おばさん……いや、ミーロさん。それにキャーシュ。
 2人は、どう思ってる?』


 よりによって……こんなことを、聞くだろうか?

 家族に……だ。ミーロにとっては、息子が旦那を。キャーシュにとっては、兄が父親を。

 殺す可能性があると、思っているかと……そう、聞いたのだ。


「ノアリ様……さっき、ノアリ様は、ヤーク様のことを信じてるって……」


 噛みしめるように、ミライヤは言う。


「えぇ、言ったわ。ヤークのことは信じてる。この先なにがあっても……彼がなにをしても、彼の味方でいるつもりよ」

「!」


 そうだ、確かにノアリは、ヤークワードのことを信じていると言った……しかし、それはなにに対してだ。

 少なくとも、ミライヤのように……『父親を殺していない』ことを信じているとは、言っていない。


「で、でも……だからって、おふたりに……こんなところで……」

「必要なことなの」


 ミライヤは、ヤークワードとミライヤが騎士学園に入学してからの付き合いだ。それ以前のヤークワードは知らない。

 まして、会ったこともないヤークワードの家族関係など。


「私は、何度もヤークや、ヤークの家族と触れ合う機会があった。で、ある時気づいたの」

「……気づいた?」

「ヤークが、父……ガラドさんに向ける感情、ミーロさんに向ける感情、そしてキャーシュに向ける感情。
 それぞれに、違いがあるって」


 ノアリでさえ、その事実に気づいたのだ……ノアリ以上にヤークと過ごしている家族ならば……

 ……もっとも、家族でなく一歩引いた、第三者の視線から見ていたからこそ気づいた、という見方もできるが。


「でも、やっぱりお父さんやお母さん、弟に向ける感情は、まったく同じではないと思います」


 言いながら、ミライヤは思い出す。もういない、両親のことを。生みの親の記憶は、もうあまりないけれど。

 少なくとも、男親と女親で、向ける感情が違うのは確かだ。お母さんだから相談をしやすいとか、ささいなことではあるが。

 ミライヤには弟がいないので、その感情は分からないが。


「ううん、そういうんじゃないの」

「……?」

「そういうんじゃ、ないの。特に、ヤークがガラドさんに、向けている目は……」


 うまく口にできない、といった感じだろうか。ノアリの表情が、硬くなる。

 一体、彼女は彼に、なにを感じていたのであろうか。


「……でもやっぱり、信じられません! ガラド様はヤーク様の父親……いいえ、そうじゃなくても! ヤーク様が、人殺しなんて……」

「その人がどんな人間かなんて、ずぅっと付き合ってみなきゃわからないわ。私だってヤークの全部を知ってるわけじゃない」

「どんな、人間か……」

「そう。……思い出させて悪いけど、ビライス・ノラム……あの男が、ああいう奴だって、最後まで気づかなかったでしょ?」

「っ、そ、れは……」

 ビライス・ノラム……その名を聞いただけで、体が震えてしまう。

 かつて、ミライヤにお見合いを申し込み……そして、ミライヤの両親を殺し、ミライヤの心に傷を残した男。

 なにかの、間違いだと思っていた。いい人だと、思っていた。でも……

 結局は、ミライヤの家に眠る『魔導書』が狙いで、ミライヤに近づいた……


「……ごめんね」


 その時、ノアリの腕が、そっとミライヤの肩を抱き寄せた。つらいことを思い出させてしまい、謝罪する。

 ああいう、厳しいことは言ったが……それだけ、ノアリも本気なのだ。今まで、ビライス・ノラムの話題は徹底的に避けてきたのだ。

 伊達や酔狂で、あんな質問をしたわけではない。


「……正直に言うなら、あの子があの人に向ける気持ちの中に、怒りや憎しみのようなものを、感じたことならあるわ」

「母様……」


 ミーロは、口を開く。それは、ミーロも同じく、ヤークワードの気持ちに感じるものがあったと、いうもの。

 これまで、ミーロは家庭を持ったことも、子供を設けたことだってない。だから、子供というのはこんなものかと、思ったりもしたものだが……


「ヤークからは、どこか……懐かしいような、雰囲気を感じていたの。同時に、これまで何度も感じたことのある気持ちも」

「……何度も感じたことの、ある気持ち?」

「……私が勇者パーティーのメンバーだったのは、知ってるわよね。いろんなところを旅していると、必ずしも感謝の気持ちを向けられるわけじゃないの。
 怒り、憎しみ……そういったものを、向けられることもある」

「それを、ヤークからも感じていた?」


 ミーロは、静かにうなずく。聞いてもピンとは来ないが、当事者だからこそわかることも、あるのだろう。

 それに、ミーロがそう感じていたのなら……ガラドも、そう感じていたのだろうか。


「ノアリちゃんの質問の答えは……
 私は、ヤークならそういうことをしても、おかしくないとは思う」

「! 母様!」

「ミーロ様!?」


 しっかりとノアリを見つめ返すミーロは、己の気持ちを、口にする。

 ミーロが、ヤークワードに対してどういう気持ちを抱いたのかは、わからない。ただ、それでもガラドを殺そうと考えている可能性は、あると答えた。


「ただ……」


 可能性は、ある……そう、答えた。

 そして、その上で……


「あの子があの人を手にかけることは、あり得ないわ」


 ヤークワードがガラドを殺したという事実はありえないと、強く口にした。

 それを聞いて、ミライヤの頭の中は困惑だらけだ。

 殺す可能性はある、だけど殺すなんてありえないと……そう、言っているのだ。


「……? ……っ?」


 しかし、ノアリは納得がいったかのように、頷いている。

 ただただ、ミライヤは困惑するばかりだ。
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