復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第8章 奪還の戦い

残された猶予

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 2人の見解に、首をかしげるミライヤ。

 同じように、キャーシュもよく理解できていないといった感じだ……よかった、わからないのは自分だけでは、なかったらしい。

 そんな2人の表情を見て、ノアリもミーロも、困ったように眉を下げる。


「ごめんなさい。ちょっと確認しておきたくて」

「か、確認」

「えぇ。ヤークが、本当にそんなことをするのか……っていう、確認」


 その言葉に、ミライヤはさらに首をかしげる。言葉の意味が、掴めない。

 しかし、その内容にゾッとするものも、感じる。


「今回の件は、ヤークがガラドさんを殺されたと放送されたのが発端……私たちは、その真実を確かめなければならない」

「はい、ですから……」

「だから、今一度確認したかったの。ヤークが本当にそんなことをする可能性があるのか……そして、実際にやったのかを」

「んん……?」


 確認は大事だ、それはわかる。

 だが、それが先ほどのやり取りと、どうつながるのだろう。


「ヤークは、ガラドさんを殺そうと……それに近い考えを、持っている。これは多分、事実だと思う」

「そ……」


 そんなこと、あるはずがない……その言葉は、出てこなかった。ミライヤ自身、ヤークワードのことをどれほど、知っているというのだろう。

 実際に、ノアリとミーロの恐ろしい見解は、一致していた。


「でもヤークは、実際にはそんなことはしない。これも、断言してもいいわ」

「……? ど、どうして……」


 殺すという可能性があるのなら、どうしてそんなことはしないと、言い切れるのだろうか。

 戸惑うミライヤに、ノアリはただ一言……


「だってヤークよ?」


 あっけらかんと、そう言った。


「ヤークが誰かを、まして自分のお父さんを殺すなんて、あり得ないじゃない」

「……私がバカなんでしょうか、ぞれとも私がバカなんでしょうか。ノアリ様の言っている意味が……」

「落ち着いてミライヤ」


 頭を抱え、うんうんと唸るミライヤの頭を、ノアリはぽんぽんと叩く。

 別に、難しく考える必要はないのだ。


「ミライヤはどう? ヤークが誰かを殺すような人間だと思う?」

「お、思いませんけど……って、私最初からそう言ってますよね!?」

「ミライヤちゃん、ヤークのことが大好きなのね?」

「こんな時に茶化さないでくださいよ!?」


 だめだ、頭の処理が追い付かない。

 2人とも、ヤークワードはガラドを殺す可能性があると考えて……でも、ヤークワードだから、誰かを殺すことは考えられないとも考えている。

 自分のために、ビライス・ノラムにこれまでにないほどの怒りを向けつつ、殺さなかった人だ。その気になれば、命を奪うこともできただろうに……

 そんな彼だから、誰かを殺すなんて考えられなくて。


「でもそれって、結局は気の持ちようってことなんじゃ……」

「そうとも、言う」


 またしてもノアリは、あっけらかんと言う。

 やはり納得がいかない。そう思って、口を開きかけたミライヤを、真剣な表情になったノアリが黙らせる。


「多分あの放送は……ミーロさんや、キャーシュ、私たちをこそ"そう"思わせたかったのだと思う」

「……私たちを?」

「えぇ。ヤークが、ガラドさんを殺す可能性がある……元々その疑いを持っていた人間に、そう思わせるために」


 ヤークワードという人間とガラドという人間の関係を、深く知っていればこそ、ヤークワードがガラドに殺意を抱いているのがわかる。ミーロやノアリのように。

 疑いを持っていた人間。その疑いを確固たるものにする……それが、あの放送の狙いだと、ノアリは考えた。


「でも、こうしてヤーク様はやってない、という結論になったわけですよね?」

「そこは敵さんの調査不足ね。敵さんが考えている以上に、私たちがヤークのことを知っていた、ってことよ」

「ふふ、愛の力ね」

「あっ……ごほん!」

「……敵」


 ノアリのセリフの中に、物騒な言葉があった。"敵"と。

 敵とはつまり、今の文脈通りに受け取れば、放送を流した人物のことで……


「そ、敵……ヤークをはめようとしている、敵よ」


 ヤークワードに、ガラド殺害の罪を着せた者のことだ。

 それは同時に、ガラドを殺害した張本人ということでもあり……


「でも、信じられません。ガラド様は、『勇者』ですよ? なのに、あの人を殺せる人なんて……」

「息子のヤークなら、隙を突くのも容易いって?」

「言ってないですし、揚げ足取らないでください!」

「お、怒らないでよっ。普通の人は、そう考えるってこと!」


 言われて、ミライヤははっとする。

 確かに、『勇者』を殺せる人物など限られている。魔王の危機が去って20年近く経つとはいえ、彼は未だ強い。

 そんな人物を、魔族襲撃後の最中を狙ったとしても、殺すのは難しいだろう。

 でも、息子だとしたら……


「そこで、さっきの話に戻るわ。
 ヤークをよく知っている人間なら彼を疑うように仕向けられ。
 そうでない人間でも彼を疑うように仕向けられる」


 つまりは、『勇者』が『勇者』の息子に殺されたと放送することで、嫌でも現実感を与えることが出来る。

 ヤークワードを人殺しに仕立て上げるのに、これ以上の説得力はないのだ。


「ま、その放送があだになって、私たちがヤークを疑うことはなくなったんだけどね。だってあのヤークよ?
 人間、殺そうと考えてても実行できるやるなんて、そうそういないわ。
 そういうのは、頭がイカれてるやつだけよ」

「……ですね」


 かつて、生みの親と育ての親を、どちらも失った……殺されたノアリには、よくわかる。

 誰かの命を奪うなんて、そんなこと、普通はできるものじゃない。生みの親を殺された時の記憶は、もうあまり残ってないけれど。

 育ての親を殺した、ビライス・ノラム……善人を装った、狂人。ただ自分の求めるもののためだけに、ミライヤの大切なものを奪った。

 ヤークワードは、あんな狂人とは、違う。


「考えていることと、それを実際に実行するかはまったくの別問題。
 敵は、そんな当たり前のこともわかっていないようね」


 だからこそ、あの放送はミスだった……ノアリは、続ける。

 わかるのは、あの放送を国中に広めることで、ヤークワードの容疑を確定のものとすること。

 それだけ急ぐ理由はわからないが……ひとつだけ、確かなことがある。


「人を殺すのは、犯罪。これは当たり前。しかも、今回の被害者は、世界を救った勇者……その被害は、計り知れない」


 『勇者』がすごいことは、ミライヤにだってわかる。だが、彼がどれだけすごいのか、今の世にどれだけの影響力があるのかと聞かれれば、答えられない。

 それでも、『勇者』を失うことは、人類にとっての大損失。

 そんな『勇者』を、手にかけたとなれば……


「ヤークは、死刑にされる……!」


 何者かの、もしかしたら何者かたちの陰謀によって。こんな規模の大きなこと、個人でできるとも思えないから、後者だろうか。

 しかも、それだけ急いでヤークを裁きたいということは……猶予は、あまり残されてはいない!
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