復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第8章 奪還の戦い

続々集まる

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 ヤークワードの処刑……それを聞いて、ミライヤは改めて、事の重大さを理解していた。


「な、なんとかならないんでしょうか。ミーロ様や弟君おとうとぎみが、それは勘違いだと言えば……」

「それは、多分無駄でしょうね」


 ミライヤの提案に、しかしミーロは首を振る。

 それを受けて、「えぇ」とノアリも、同じ意見だとうなずく。


「どうして……」

「ヤークを処刑しようとしている相手が、何者かも規模もわからない。そんなところへ、ミーロさんやキャーシュが直談判にでも行ったら、逆に利用されるわ」

「利用……なにに?」

「なにかに、よ。手札は多いに、越したことはないから」


 いかに『勇者』の妻且つ勇者パーティーにして"癒しの巫女"であるミーロや、その息子であるキャーシュであろうと、ガラド亡き今どれほどの発言力を持つのかわからない。

 今やミーロは、"ガラドの妻"という肩書きが大きい。過去の実績があっても、ガラド絡みである以上思い通りにはいかないかもしれない。

 そもそも、そういう小難しい事情を気にせず、ミーロやキャーシュが捕まる可能性だって大きい。

 相手は、『勇者』ガラドを殺したかもしれない、奴なのだから。


「ともかく、ミーロさんとキャーシュは身を隠していた方がいいわね」

「……ここも、そう安全とは言えなくなってるみたいだけどね」


 閉めていたカーテンを少しだけ開けて、ミーロが窓の外を指す。指摘された外には、すでに幾人もの国民が集まっていた。

 ここは、事件の加害者及び被害者の家……人が集まるのも、無理もないと言える。

 とはいえ、だからこそノアリたちとミーロたちは、合流できたわけだが……


「どどど、どうするんですか!? 囲まれちゃいますよ!?」


 外の様子に、ミライヤは叫ぶ。

 なにも悪いことはしていなくても、ヤークの身内……それに仲のいい人物ともなれば、人々から質問攻めにあうに違いない。

 時間がないというのに、そんなことに時間を取られるわけには、いかない。


「まあまあ。私たちが家の中にいることは、誰にもバレてないんだし……」

「そういう問題じゃないですよ!?」


 この家ならば、ヤークを知っている人間と合流しやすい。

 だが、こうも人に集まられては、もう合流は難しいだろう。アンジーやヤネッサ、ヤークを信じる者は他にもいるはずだ。

 彼女らを探すためにも。そしてヤークが今どこにいるのかを探るためにも、ここでじっとしているわけにはいかない。


「さて、どうやって外に出るか……」

「……ん? あれ……」


 ふと、キャーシュが声を漏らす。彼が見ているのは、ノアリたちとはまた別の方向だ。

 なにかあったのだろうかと、ノアリも視線を動かす。人々に囲まれつつある、はずだったが……

 ……バタバタ。ひとり、またひとりと、人が倒れていくではないか。


「な、なに?」


 人が次々に倒れていく……その現象に、ミライヤが怯えた声を漏らす。

 見たところ、倒れている人に外傷は見当たらない。となれば、原因は……

 それを考えるより先に、事態は動く。


 キィ……


 玄関の扉が、音を立てて開いていく。


「か、鍵閉めてなかったんですか!?」

「う、うっかりしてたわ」


 外で人々が倒れていく、にも関わらず、何者かが家の中に侵入してきた……これにより、外で起こっているなんらかの現象が、自然的である可能性は消える。

 であれば、今家の中に入ってきた何者か、によるものだろう。その人物が、なんらかの方法で外にいる人たちを倒れさせ、自分たちは安全に家の中に入る。

 何者か……侵入者の存在に、ノアリは構える。剣は持っていないが、肉弾戦でもなんとか……


「! アンジー?」

「はい、そうです」


 ふと、ミーロが声を上げる。

 次の瞬間、扉の向こうから現れたのは……ライオス家のメイドであるエルフ、アンジーであった。


「き、気づいたんですか?」

「足音が、そうかなって」


 まだ姿が見えていないうちに言い当てたミーロに、ノアリは驚愕する。返ってきた内容も、そうだが。

 家の中に入ってきたのはアンジー。そして……


「私もいるよ!」

「ヤネッサさん!」


 アンジーの後ろから、ひょこっと顔を出すのは同じくエルフの、ヤネッサだった。

 その姿に、ミライヤは嬉しそうに駆け寄る。


「ふたりとも、無事みたいね。よかったわ」

「もしかして、外の人たちって……」

「えぇ、少し眠ってもらいました」


 アンジーとヤネッサの無事を安堵するミーロ。そして外から堂々やって来たということは、今外で倒れている人たちは彼女らが関わっているということだ。

 なんとなしに答えるアンジーに、きっと魔法で眠らせたんだな……とノアリは思い至った。


「……」

「ん、どうしたのノアリ」

「な、なんでもないわ」


 顔をそらすノアリ。あからさまだっただろうか。首を傾げるヤネッサは気にしていないようだが。

 ……ヤークワードに聞いた話。ヤネッサは、故郷を滅ぼされる場面を直接見たのだという。

 魔族がエルフの森を焼き、同胞と帰る場所を奪った……ヤネッサは、それを直接見た。その悲しみは、怒りは、想像もできない。

 あれから時間は経った……少なくとも、表面上は元気に見える。


「アンジーは……」

「え?」

「ううん、なんでもない」


 アンジーも、その話は聞いているのだろうか……彼女の故郷でもあるから、十中八九聞いているだろう。

 悲しみを、感じさせない凛とした姿に、ノアリは尊敬の念すら抱く。


「奥様たちなら、ここに来ているだろうと思っていましたが……正解でした」

「あー、私の鼻で確信したんじゃない!」

「ふふ、そうだったわね」


 ヤネッサは、かなり鼻がいい。ノアリたちの匂いを追って、ここにいると確信したのだろう。


「じゃあみんな、ヤークを助けに行こう!」

「!?」


 続々と集まる中で……ヤネッサが、真っ先に今後の動きを提案した。
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