復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第9章 復讐の転生者

死した後になにを思う

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『……ここは……』


 意識だけが、覚醒している。動かせる体はなく、また声も出ない……まるで、頭の中で直接、喋っているような感覚。

 周りを見渡しても、なにもない。ただ真っ黒な空間が広がっている。

 そもそも、見渡すという概念が正しいのかどうかも、わからないが。


『……今、のは……』


 頭の中に流れてきた、光景。それは忘れたくても忘れられない、死の光景。

 魔王を倒したと思ったら、仲間に裏切られ、殺されて……そして最期に見たのは、自分を殺したガラドと、幼馴染のミーロが、口づけを交わしていた場面。

 血と涙と、いろんなものが流れて……最後には命すらも流れてしまった、最期のとき。


『てか、なんで俺はまだ、意識があるんだ』


 流れてきた記憶は苦々しいものだが、今気にするべきはそこではない。

 ヤークワードは、自分の手で確かに喉をかき切り……その人生に、幕を閉じたはずだ。その先など、あるはずもない。

 しかし、現にこうして……


『まさか、また……?』


 この現象に、ふと覚えがあることを、思い出す。死んだとわかっているはずなのに、次の瞬間には再び意識が覚醒した、あの現象。

 それこそが、転生……ライヤが死に、その意識は再び目覚め、次の瞬間にはヤークワード・フォン・ライオスとしての生を生きることとなった。

 またも意識が覚醒したということは、まさか二度目の転生が起こったのか……そんな、不安ともなんともわからない感覚に、襲われる。


『転生じゃないよ』


 しかし、その不安は、ひとつの声にかき消された。耳……ではなく、頭の中に響く声。

 確かに、また転生したにしては、異様な光景だ。周りは暗闇で、おまけに自分の体がないのだから。

 ならばこそ余計に奇っ怪であるこの状況……それに拍車をかけた謎の声の主は、ヤークワードの前に姿を見せる。

 暗闇に、光が突如として溢れ……それが、なにかを形作っていく。


『……え』


 それは、見覚えのある……ありすぎる、顔だった。

 だって、そこにいたのは……


『俺……?』


 光は、人間のシルエットを型取り……その姿は、ヤークワードには馴染みのありすぎる姿として現れた。

 その顔は、まさしく自分……いや、正確には少し違う。

 その顔は……ヤークワードではなく、ライヤのものだった。


『よぉ、俺』


 ライヤの顔をしたそれは、気さくに手を上げる。そこにいるヤークワード……の姿はなく意識だけの存在だが……に向かって、確かに"俺"と言った。

 先ほどの龍みたいに、何者かがライヤの姿に化けているのではないか……そうも思ったが、それは違う。

 ヤークワードには、わかった……そこにいるのは、他でもない、ライヤ自身だと。


『え、じゃあ……どうなってんの、これ』


 自分はここにいる。けれど、目の前にいるのも自分……?

 その事実に、困惑する。困惑して……すぐに、その違和感の正体に気づいた。


『ここは……俺の、意識の中?』

『そういうこと』


 ヤークワードがいて、ライヤがいて。どちらも自分であるならば、それは己の意識の中でしか、あり得ない。

 信じられないことだが、すでにこの身で転生などという、信じられないことを経験している。だから、あまり困惑はなかった。

 あるとすれば……


『なんで、そんなことに……』


 すでに終わった命……その先が、続いている事実についてだ。自分の意識の中にいる以上、転生したわけではないだろうし。

 そんな疑問を抱く中、"ライヤ"は肩をすくめた。


『さあ。転生者だからこうなってるのか、それとも……アレを見せるためなのか』

『アレ?』


 指摘され、顎で指され……ようやく、気づいた。暗闇の中にひとつ、画面のようなものがあり、その中に映像が流れていることに。

 先ほどのように頭の中に流れている映像ではなく……そして、記憶でもない。

 そこには……喉から血を流して、倒れているヤークワードの姿が映されていたからだ。


『なんっ……』


 だあれ……とは、言葉が続かなかった。続けられなかった。

 倒れているのは自分。しかし、自分は今ここにいるはずで、ならばアレはなんなのか……そう考えた直後に、映像に動きがあった。


『ヤーク! ヤーク!』

『ヤーク様ぁ!』

『……ノアリ……ミライヤ?』


 倒れているヤークワードに、駆け寄る2人の少女……ノアリと、ミライヤ。いや、2人だけではない。ヤネッサも、アンジーも、ロイも……"あの場"にいた全員が、駆け寄っている。

 雨が降り出した中で……涙を流し、ヤークワードの名前を呼びながら……あれでは、まるで……


『気づいた? アレは……"俺"が死んだあとの光景だよ』

『……死んだ、あとの』


 自身の手で喉を切り裂いたヤークワードは、その命を落とした……だから、そのあとの光景など見られるはずがない。

 だが、見知ったみんなが、セイメイが、龍が、そこに映っている。もしも、あれがヤークワードが死んだあとの光景だと言うのなら……


『アレを見せつけられる身にもなってほしいよな。残酷なんてもんじゃないよ』

『……』


 あんなにも、必死になってみんな止めてくれた。ヤークワードはその制止を振り切り、自死を選んだ。その結果が、アレだ。


『けど……そのうち、俺の記憶はなくなるんだろ? だから俺は……』

『そうだな。"俺"を想ってみんな泣いてくれるのも、今のうちだけ。国宝の効力が発揮されれば、そのうちみんなの記憶から、"俺"は消える』

『だ、よな……』


 みんな忘れる。それを承知で、あんなことまでしたのだ。むしろ、忘れてもらわないと困る。

 覚悟していたことだ。まさか死んだあとの光景を見せられるとは思っていなかったが……それでも、覚悟は、していた。

 ……なのになんだろうか。この虚しさは。


『……納得できない、か?』

『!』


 ふと、自分の中に芽生えた感情を、指摘される。


『なにを……』

『いや、いーっていーって隠さなくて。"俺"なんだから、考えてることは丸わかりだ。そうだよな、やっぱり忘れられるのはつらいよな。それに、みんなあんなに……"お前"を想ってくれてるんだもんな』

『……』

『だからさ』


 自分の中にあるもやもやした気持ち……その整理もつかない中で、"ライヤ"は、どこかすっきりしたような笑顔を浮かべて、言う。


『だからさ、"お前"は消えるな……それは、"俺"の役目だ』
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