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英雄の復讐 ~マルゴニア王国編~
第50話 空っぽの復讐者
しおりを挟む集落を出た私は、次なる目的地に向かっていた。待たせていたボニーに跨がり、広い草原を走り抜ける。
さっきの集落は、燃え盛りやがて集落全体を包んでいった。火が燃え上がるその原因は私ではないとはいえ、そこに住まう人々を殺したのは私だ。集落を滅ぼしたのは、私だ。
現時点では、一つの村と集落が、私の手により滅んでいる。もしかしたら、その情報はすでに出回っているかもしれない。
それは早すぎる……とのんきに考えられないのが、この世界だ。魔法技術が異様に発達したこの世界では、ちょっとした異変でも察することのできる人はいる。
私は索敵能力を持っているけど、私よりももっと能力値が高い人だっている。あの方角にある村から、人の気配が消えた……なんて察知されても、おかしくはないのだ。
特に、エリシアのような高魔法術師にならばわからない。
「……やっぱり、効率悪いよなぁ」
村や集落を一つ一つ潰していくのは、先ほども考えたがやはり効率が悪すぎる。もっと効率のいい方法を、こうして移動しながらも考えないとな。
その方が、移動中の時間も気が紛れていいのかもしれない。復讐も、ただ執行すればいいだけじゃないんだなぁ……まあ、効率もなにも、復讐を急がなきゃいけない理由もないんだけどさ。
「……ふぅ」
……ダメだな、同じことばかり考える。やっぱり、目的の中にも、一味違った景色を見つけないと。
たとえば……一人ではさすがに限界がある。だから、私の復讐を手助けしてくれる存在を探し、育てる。世界は広いんだ、理不尽なこの世界に恨みを持つ人間くらいいるだろう。
たとえば、セオリー通りにいくならこういったファンタジー世界には、あれだ、奴隷がいるものだ。以前は、一年間もこの世界にいたのに見たことはなかったけど。
それでも、この世界に来たときに、知った。……この世界には、貧困に苦しむ者、奴隷とされている者……不幸せな者がきっとたくさんいる。いや、それはこの世界に限った話ではないのだろう。どこの世界でも、同じだ。
私のもといた世界では、奴隷なんて物騒なものはいなかったけど……この世界にはきっと、それに通ずる存在がいるはずだ。
そいつらを私の仲間として……育てる。それから、そうだな……私の復讐が終わりに近づいたら、育てたそいつらも、私の手で殺す。
自分で育てた仲間を殺す……もしくは、復讐を終えた私を、私が育てたそいつらに殺してもらうのも、ありかもしれない。どうせ、復讐を終えたあとのことは考えていないんだから。
そう……どうせ、復讐を終えたあと、生きていく意味もないのだから。やることも、帰る場所すらもないのだ。
「空っぽだなぁ、私」
元の世界に戻って……私の家族の現状を知らされて、絶望した。世界は、私に優しくなかった。私は世界を救ったのに。
そのときから、きっと私の中身は、なにもなくなってしまった。空っぽになってしまった。
だから人を殺してもなにも感じないし、自分がどうなってしまおうと構わない。まあ、復讐を終えるまでは死ぬつもりはないんだけどね。
空っぽだけどむなしいとか、そんな思いすらもない。
「おらおら、そこのボニー止まりやがれ!」
「ん?」
走っている最中、突然声をかけられる。頭の悪そうな声だ。
それに驚いたのか、ボニーは足を止めてしまう。あのまま進んでもよかったのだが、無理を言っても仕方ない。動物とは本能で判断する生き物だから。
それに……声の主の男がその手に持っているものを見て、止まったのが正解だと判断した。
男が持っているのは、剣だ。ただ、特に言うことのない、なんの変哲もない剣。だけど、凶器であることに変わりはない。もしボニーが足を止めなかったら、あれで刺されていたかもしれない。
この子、危機回避能力が高いのかもしれないな。賢い。
「……なにか?」
フードを被った私は、わざと声を低くして問いかける。別に正体を隠す必要もないが、ここは男の目的を聞き出すことにしよう。
下手に正体がバレたら、どんな反応されるかわかったもんじゃない。英雄が相手だと、うまくしゃべれない人間もいるしね。特に、こういう小悪党面は。
「なにか、じゃねえよ。ここ通るなら、通行料置いてけや」
「そうよそうよ、それがルールだぜぇ?」
男の人数は……三人、か。彼らの主張は、通行料を払えというものだ。
当然だが、こんな野道に通行料が必要なんて話は聞いたことがない。国の入り口とかならともかく、こんなありきたりな道ではあり得ない。それを通行料などと……つまりは、そういうことだろう。
男三人、その全員が武器を持っている。ここを通るのは主に行商人や旅人だろう……それら相手に、脅しをかけて金を巻き上げている。ったく野蛮な。
まったく……魔王が消えて平和になった世界でも、その平和に漬け込む輩がいるということだ。まあ、魔王がいた頃だってこんな輩がいなかったわけじゃないけど。
さて……どうしようかな。もちろん、素直に通行料を払うつもりはない。というか、この世界のお金を持っていない。
元の世界に戻る際に、持っていたお金は全部返したのだ。それはそうだ、元の世界では使えないし、そもそもこっちに戻ってくるつもりもなかったし。
それを言ったところで信じてもらえるわけもない。お金がなければ身ぐるみを剥がされる可能性だってある。もう、面倒だから素顔さらして英雄の威厳で無理やり押さえつけようかな。
「……」
……無理かもなー。こういう輩って、たとえ英雄とわかっても始めこそ動揺するが女一人と見るや、実力差もわからず向かってくるバカが多い。こいつらも、そのクチだろう。
ならもう、こいつら殺してしまおうか。どうせ全部壊すんだし、同じことだ。こうして考える時間だって、無駄だ。
一つ得たものがあるとすれば、この先もこんな面倒な輩がいる可能性があるってこと。まったく、面倒な世界になったものだ。
「おら、なに黙ってやがる! さっさと通行料を……」
「おい、なにをしている!」
しびれを切らした男が、私に詰め寄ってくるその瞬間だった。うっかり男の喉元をかき切ろうかと考えてきたところに聞こえてきたのは、どこか勇敢さすらうかがえる男の声であった。
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