97 / 522
世界に復讐する者たち
【幕間】マルゴニア王国の一件
しおりを挟む――――――
……コンコン、コン、ココン、コン
薄暗い一室、その部屋の戸をノックする音が響く。それは単なるノックではなく、まるでなんらかの合図のようで、室内の人物への入室許可を求めている。
それに対して室内の人物は、ゆっくりと戸に視線を向け……続けて、戸の側にいる男へと目配せをする。それを受け、男は戸を開ける。
今のやり取りは、この部屋に入るための合図だ。いや、正確には『計画』の内容を知るための人物にのみ与えられた合図。
変則的なノック音。古典的であるが、ゆえに『計画』を知る者かそうでないかを選別しやすい。
「失礼」
「ノット……さすが早いな」
室内にいた人物は、入室してきた人物に、目を移らせる。
入室した人物……ノットと呼ばれたのは、見た目麗しい女性だ。伸ばされた朱色の髪は腰まで届き、その前髪部分は右目を隠すほどに長い。
杏の世界なら、間違いなくモデルをやれるであろう抜群なスタイルを、惜しげもなくさらけ出している。さらに、身に付けるのはビキニタイプの布地のみで、豊満な胸元がより強調されている。
ホットパンツから伸びた白く長い脚は、男の目を惹いて離さないことだろう。
誰しもが視線を向けるであろう女性……ただし、注目を集める理由は、彼女の美しさだけが問題ではない。なぜなら……
「……それで、私を呼んだ理由は、例の……?」
彼女の右腕、右肩から腹部にかけ、大きな凍傷の痕があるからだ。それが、彼女の美しい白い肌にはひどく不似合いであった。
それだけでなく、その傷を隠そうともしない彼女の大胆さには、どこか周りの人を寄せ付けないような、妙な迫力があった。
「あぁ。察しの通り、マルゴニア王国の件だ。あそこに潜入させていた工作員が、戻ってきたのでな。話を聞き終えたところだ」
彼女をこの部屋に呼んだのは、マルゴニア王国に潜入させている工作員からの定期連絡が、先日から途絶えていることに対してだ。
マルゴニア王国という大国は、数々の国との交流がある。それは、この国も同じことだ。そして、国の交流が盛んということは、いろいろな地域の情報が集まるということでもある。
表向きに、マルゴニア王国と交流はもちろんしている。だが、表向きでは決して得ることの出来ない情報を探るために、工作員を潜入させている。それが、ここにいる"裏側"の人間の仕事。
もっとも、それはこの国に限った話ではないだろうが。
そして、その工作員には定期的に連絡をさせるようにしているのだ。その定期連絡が、ある日を境にパッタリと途絶えた。
「……わざわざ私を呼んだということは、なにか問題が?」
マルゴニア王国からの連絡が途絶えていることは、ノットも知っている。しかし、その理由がわかったというのにわざわざ自分を呼ぶということは……
なにか、慎重にならざるを得ないのだろうか。なぜならば、ノットはこの国の人間ではないからだ。
「問題、というかな。キミに、伝えておいた方がいいと思ってね」
表舞台に立つことのない、言ってしまえば影の役割……それが彼女の存在価値にして、存在理由。
彼女を、わざわざ呼んだのだ。マルゴニア王国との連絡が途絶えた理由と、なんの関係があるというのだろうか。
「マルゴニア王国だが……滅んだらしい」
「……は?」
少し、覚悟はしていた。どんな言葉が飛び出してきても、構えておく覚悟は。だが、放たれた言葉は……その内容は、あまりにもぶっ飛んだ内容で。
引き締めていた表情が、僅かにでも緩んでしまうほどに。
「滅ん……い、いや、だとして、ますますなぜ私に?」
あまりに突拍子のない内容。しかし、ここで嘘をつくメリットなどないだろう。なにより、"彼"の言葉に偽りなど、ない。
だから、その言葉を、内容を疑いはしない。疑問があるとすれば、なぜ自分にそれを伝えたのかということだ。
国が滅ぶほどの事態、黙っていても勝手に耳に入ってくるだろう。わざわざ呼び出され、伝えられるほどのことなのだろうか。
「困惑もわかる。が、今はその気持ちは抑えてくれ。それと、今の言葉は正確ではなかった。滅んだ……とは言ったが、滅ぼされた、と言うべきか」
「なっ……滅ぼされた……? だが、あの国には……」
滅んだでなく、滅ぼされた。ますますわからない。しかも、それは真実なのか疑いたくなるほどの内容だ。それこそ、彼が言い間違いをしてしまうほどに。
疑いの理由……それは、あの国には『剣星』、『魔女』と呼ばれる超常の人間がいるはずだからだ。その二人がいて、なおかつ国が滅ぶなど……
「考えていることはわかる。ワタシも、にわかには信じがたい話だったからね。だが……その後の報告を聞いて、考えは疑惑から納得に変わりつつある」
「……その後の、報告?」
いったい、なにを聞けば考えが変わるというのか。本来、国を滅ぼすなんてこと自体があり得ない話だ。
どんな内容を聞けば、疑惑が納得に変わると……
「マルゴニア王国を滅ぼしたのは、二人。……そのうちのひとりが、氷狼だったようだ」
「!」
その言葉を、単語を聞いた瞬間、ノットは固まった。まるで、なにか金縛りにあったかのように。
「フェン……リル……?」
「あぁ。……キミが、バーチと共に滅ぼした村の、どうやら生き残りだろうな」
「……逃げ出してたのか」
自らが手を下し、滅ぼした村。そこに住んでいた者は、全て焼け死んだ。確認済みだ。ならば、その氷狼とは誰なのか……答えは、ひとつだ。
ただひとり、奴隷として連れ去った男の子供がいた。そいつこそが、マルゴニア王国を滅ぼした二人のうちの、ひとりだ。
0
あなたにおすすめの小説
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる