130 / 522
氷狼の村
繋がっている
しおりを挟む「……どうなってんの、これ」
つい先ほどまで騒がしく、緊張の糸が張り巡らされていたこの場は……とたんに、静かになった。騒がしかった男たちはもうこの場にはおらず、暴れていたユーデリアは気を失っている。
今までのことが、まるで嘘のように……静まり返った光景が、そこにあった。
「……なにも、ないや」
そこに、確かに男が……人が、いたはずなんだ。だけど、その場所にはなにもない。人がいた痕跡は、なにも……だ。
燃えカスすらも、残ってはいない。まるで、最初からそこになにもなかったかのようだ。
「呪術、か……」
過去と、現実……この村に来てから、私は魔法とは別の力に触れた。それは、呪術。そしてその力には、これまでも知らずに触れていた。
出来損ないの回復魔法だと思っていたあの力……そして、『呪剣』。前者は、限りなく間違いないとはいえまだ可能性の話だが、後者は間違いない。
なにせ、直接そう言ってたのだから。あの剣は、呪術に関するものだと。
『この力も、あの剣も……すべては、あの人の力の賜物。あぁ、これが『呪術』の力……!』
……と、これがバーチ自身の台詞だ。即死になるような傷が即座に治り、まるで不死身のような体を持っていたバーチの。
その体を、呪いの剣を、総じて呪術と……そう、言ったのだ。それに、ノットの炎も。
不死身のような体に、斬った者の自我を奪う剣……人を急に燃やしたり、傷口だけ治してダメージは回復しない力……呪術の幅は、広い。
様々な属性を持ち、様々な用途で使われる。その点も、魔法とよく似ている。ただ、似て非なるもの。この二つは、もしかしてなにか関係があったり、するんだろうか。
「……おーい、ユーデリアー」
なぜかはわからないが、気絶してしまったユーデリア。一応警戒しながら近づいていく。獣型から、人型に戻っている。
力尽きた……ってことで、いいんだろうか。起きられて、また襲われても面倒だから、少し離れたところから、その辺で拾った小枝で体を突っついていく。
「う、ぅ……」
「まったく、起きたら文句言ってやる」
ユーデリアの暴走……あれのおかげで、ずいぶんと手間を取ってしまった。ユーデリアが完全に敵となったわけではなく、男たちを何人か戦闘不能にした功績はあったものの……
それを差し引いても、ユーデリアが暴走して私にとって面倒なことであったことに変わりはない。トラウマスイッチオン状態だったとしても、それはそれ。これはこれだ。
「……まったく……」
辺りには、なにもない……わけではない。呪術の炎で消えた者は多いが、それがすべてではない。ユーデリアの冷気により凍り、割れ……その破片の数々が、あちこちに散らばっている。
この光景を、ユーデリアが見たらどう思……いや、なんとも思わないだろうな。村を襲撃してきた連中だ……殺してもなんとも思わないに違いない。
「でも、結局こいつらの目的は、聞けなかったな……」
こいつらが生きてようが死のうがどうでもいいが……問題は、こいつらの生死ではない。こいつらが、この村に来た理由……いや、正確には私たちを狙っていた理由が、問題だ。
男たちに、私たちの足取りを追うことは出来なかったはず。ということは、私たちがこの村に来ることを事前に知っていて、この村に狙いを定めていたということか?
……この村に私たちが来ること。それも、可能性の話でしかない……だけど、微かな可能性に賭けたとしたら。
「いや……」
賭ける、なんてそんなことはしないだろう……男たちの背後にいる、"あの男"は。男たちに呪術の力を渡し、たいした説明もなく男たちを無惨に殺したも同然の、奴だ。
きっと、いたらラッキー、程度に考えて男たちを送り込んだのだろう。
私たちがこの村に来ることを考えていたのも、氷村の村の居場所を知っていたのも、男たちに呪術の力を与えたのも……すべては繋がっていて、それが"あの男"であるはずだ。
確証はない。けど、こう考えた方がしっくり来る。
さらに言えば、"あの男"="あの人"は……過去、この村を訪れたバーチの背後にいる人物で、ノットを雇っていた人物でもある。
「全部、繋がってる……?」
氷狼の村、呪術、バーチ、『呪剣』、ノット、男たち……これらはすべて、繋がっている……のか?
だとしたら……私に過去を見せたこの左目は、私になにを訴えていた? なにを教えようとしていた?
過去の光景を見なければ、ここまで多くのことを繋げることは出来なかった。それに、繋がっているそれらが、まさかただ一人の人物を指しているだなんて思いもしない。
過去と現在……"あの人"は、どちらにも干渉している。そして、その中に……私とユーデリアが、"あの人"のターゲットに含まれている。
「……誰だか、知らないけど……面白いよ」
もし私の前に立ちふさがるというのなら……そいつは容赦なく、殺す。私は世界を壊す、"あの人"は私たちを狙ってる……直接会える日が、来るかもしれない。
ウィルドレッド・サラ・マルゴニアを殺し、マルゴニア王国を滅ぼし……大きな目的は、失われていた。ただ、世界に復讐するという、漠然な目的のみで行動していた。
だけど……私たちを狙っている、敵が現れた。そいつが何者かは、知らない。知らないけど……そいつを、直接殺してやりたい。
変な男たちを使って、私を殺そうとしたんだ……私に殺されたって、文句はないよね。直接やり返さないと、気が済まない。
「……ふがっ」
こっちから探すつもりは、ない。というか、今手がかりはない。
こっちからの手がかりはない……が、また必ず、向こうからなにかしら仕掛けてくるはずだ。私たちが氷狼の村を訪れることを推測した男だ……きっと、また向こうからのコンタクトがあるはずだ。
今度こそ、その手がかりをものにする。そこから辿って、男の居場所を突き止めて、それから……
「いっ、たたたた!」
「ん?」
誰だ、人が楽しい楽しい考え事をしているときに……
……ユーデリアだった。鼻に、小枝が突き刺さっていた。
「な、にしてるアン……!」
「あぁ、ごめんごめん。よく見てなかった」
どうやら、小枝でつんつん突っついていたら、気づかぬうちにユーデリアの鼻の穴に突っ込んでしまっていたらしい。
ユーデリアは起きたが、恨めしげな目を向けられることとなった。説教するつもりだったのに。
0
あなたにおすすめの小説
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる