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英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~
エリシアの過去
しおりを挟む……二十二年と少し前。エリシア・タニャクはこの村『ラーゴ村』で生まれた。
エリシアは裕福な家で育ち、なに不自由なく成長していった。周りの子供たちと、なに一つ変わらない女の子……ただ一つを除いて。
エリシアの両親は、父母共に魔法が使えた。とはいっても、人並みだ。だから、エリシアに魔法の適正があるとわかったときは、それは喜んだのだという。
エリシアが初めて魔法を使ったのは、一歳になった頃。それは、ちょうど立った時期と同じだったらしい。立ち、初めて見た景色に興奮したのだろう……キャッキャと喜ぶ最中、魔法は発動した。
近くにあったものを、浮かせる浮遊魔法……それは、両親を驚かせた。一歳にして魔法を使う人間なんて、聞いたことがないからだ。
しかし、まだ幼い。魔法が暴発しては大変なことになるからと、両親は魔法の勉強を始めた。そのかいあってか、エリシアが三歳になる頃には、ほとんどの属性の魔法を使用することができていた。
この子には、魔法の才能がある。両親だけでなく、誰もがそう思っていた。
「なんだ、ただのいい話か」
「ちょっと、し!」
私とユーデリアは、村の中に通され、とある一軒家に案内されていた。そこでソファーに座り、机を挟んでとある人物からエリシアの話を聞いていたのだ。
その人物とは……
「す、すみません……」
「いえ、いいのよ」
桃色の髪を腰まで伸ばした、美しい女性。エルドリエ・タニャク……エリシアの、母親だ。
この親にしてあの子ありというか……彼女の容姿は、エリシアをそのまま大人にしたようなものだった。だが、エリシアと大きく違う点がある。
両の目が、閉じられていることだ。しかも、まぶたには傷が残っている。あれは……刃物傷、だろうか?
「えっと……エリシアには魔法の才能があった、ってとこ……でしたよね」
「そうね……ここまでなら、その子の言うとおり、いい話なんだけどね」
言うと彼女は、目の前に置かれた紅茶を口に運ぶ。その"見えてない"目で。
「その目……」
「ちゃんと順を追って話すわ。エリシアのことも……この目のことも」
……エリシアには、魔法の才能がある。両親だけでなく、誰もがそう思っていた。そう、思っていた。
魔法の才を伸ばし、両親に褒められる。それが、幼いエリシアにとっては嬉しかったのだろう。教わる以外にも、独学で勉強を始めた。
その姿は凄まじいものだったという。魔法に関して素人でない両親ですら、時にわからないことをやっていたのだ。この時点から、エリシアは魔法の世界にどっぷりとハマっていった。
ハマっていった結果……二年後には、五歳にしてこの村一番の魔法使いになった。知識も、技術も、実力も……大人ですら、敵う者はいなかった。
それを、大人たちはすごいと褒めた。しかし……エリシアを褒めるその目は、笑ってはいなかった。
『なんかお前、気持ち悪い』
『エリシアちゃん、なに言ってるのかわからない』
そして、子供は大人よりも素直で……大人なら隠してしまえる気持ちも、ストレートに相手にぶつける。それは、もしかしたら大人たちの気持ちを代弁したものであったのかもしれない。
エリシアとよく遊んでいた子供たちは、エリシアの急激な変化に戸惑っていた。褒められた魔法を自慢し、自分たちにはわからない用語でなにかを説明してくる……子供にとってそれは、未知の生き物だ。
褒められたいから知識を得た、技術を磨いた、実力を伸ばした。けれど、大人たちに褒められても、仲の良かった子供たちは離れていく。
異物は嫌われる……大人でさえそうなのに、子供同士ならば尚更だ。自分と違ったものを、子供は簡単には受け入れられない。
それでも大人たちがエリシアに良くしてくれたのは……このままエリシアが成長すれば、国の魔法術師隊に入れるかもしれない。そうすれば、自分たちになにかしらの施しがあるかもしれないと、そういった打算があったかもしれない。
もちろん、エリシアにとって打算なぞわかるはずもなく……残った大人たちだけが、頼りだった。
だが、ある日……ついに、決定的な出来事がエリシアを孤立させる。
『キャー!』
ガシャンッ!
『……お、母さん……』
強大すぎる力は、いずれ身を滅ぼす。しかしそれは、なにも自分の身だけとは限らない。
五歳で村一番の魔力を有していたエリシア……しかし、それを完全に制御できていたかというと、それはノーだ。
ある日エリシアは、魔力が暴走して……家のガラスを、割ってしまった。そして、暴走した魔力は割れたガラスをも動かし、母親の目を……裂いた。
その時は家にはエリシアと母親の二人しかおらず、目を裂かれた母親は魔力を起こすことに集中することができず、エリシアは母親の目を裂いたことに動揺し、なにもできなかった。
その後父親が帰ってきたときには、彼女の目はもう……
「もしあの時、咄嗟に回復魔法をかけられていたら……この目は、つぶれなかったかもしれないわね」
そう語る彼女、エルドリエは……そっと、まぶたの閉じられた目を撫でる。
それを機に、エリシアの村人からの扱いは変わった。これまで褒めてくれていた村人からも距離を置かれるようになり、さらには両親からも……
ただの子供のいたずらじゃない。魔力の暴走だ……なにが起こるか、誰にもわからない。だから、エリシアがやっかまれることになるのも、必然ではあったのかもしれない。
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