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英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~
素人同然
しおりを挟む見たところ、魔物の数は四体。それらを一人で止めているのが、レバニルと呼ばれたあの男。それなりの戦いの心得はある……というより、素人に毛が生えた程度だ。
それでも、魔物を、それも複数体相手取っているのだから、大したものだと思う。
ただ……戦えるのは、おそらくレバニル一人だ。少なくとも、初めからこの場にいた者の中には、他にいない。いたら、レバニルに加勢しているだろう。
他に戦えそうなのは、魔物出現の報告を受けこの場に一緒に来た、ザルゴくらいなものだが……剣作りが趣味というくらいだし、実戦はどうだろう。
「グルルル……!」
「な、なんだあれ……子供が、獣に……!?」
と、私の後ろで姿を変えていくユーデリアを見て、村人の一人が声をあげる。それは、声の中に恐怖が隠しきれていない、そんな声色。
やはり、珍しい種族である氷狼は、初見ではみんな驚くようだ。魔物が溢れていたこの世界でさえ、この反応なのだから。
いくらファンタジーな世界でも、人と獣の姿を変化する存在はそんなにいないってことか。
「な、なんか寒くないか?」
「あれは、もしや……氷狼!?」
藍色の体毛を持つ獣となった、ユーデリア。氷狼の名にふさわしく、その身からは冷気を放つ。それは、その気になれば人なんか簡単に、凍らせることができる。
それは希少な種族とはいえ、知っている人は知っているようだ。とはいえ……知っている、というのは直接見たわけではない。書物かなにかで、見ただけなのだろう。
「な、なんだよぉ……なんなんだよ!」
魔物の出現と、明らかな殺意を持った人間の出現……それは、村人たちにとって恐怖でしかない。顔を青くさせ、涙を流しその場に座り込む者もいる。
もはや、命を諦めている……そんな人間さえも、いないわけではない。
「こ、のやろう! ふざけんな! ここは俺たちの村だ、よそ者は出ていけ!」
しかし、そんな人たちばかりではない。死の恐怖を打ち破るように、声を荒げる男が一人。ザルゴだ。
ザルゴは、先ほど自慢げに見せていた"新しい剣"とやらを抜き、構えている。なるほど剣は、かなり立派なものだ……が、使い手がなっていない。
手は震えているし、足だって。殺気は感じられるが、それはただ村長を殺されたために沸き上がっただけのものだ。その程度の殺気、誰にだって出せる。
つまり、まったく脅威に感じられない。結局、得意なのは剣作りなだけで、実戦は行ったことがないらしい。あそこで戦っているレバニルよりも、さらに下だ。
悪いけど、こんな素人同然の一人だけで、私たちの相手にはなり得ない。
「ダメダメだね」
グレゴは、言っていた。たとえ剣がなまくらでも、使い手が一流ならばなまくらも一流なりうると。現に、私はなまくらが名刀に勝つ瞬間を見た。
それは、とある集落に行ったときのことだ。今でも鮮明に覚えている……『剣星』グレゴ・アルバミアと、『剣豪』ヴラメ・サラマンの戦い。いや、本人たち曰く手合わせか。
そこで、ヴラメは自分の剣ではなく、他人の剣を使っていた。おまけに、本人は長らく剣を握っていない状態……だというのに、ヴラメは万全な状態のグレゴに、勝利したのだ。
そのとき、はっきりわかった。どんな鍛え上げた剣であっても、"本物"の前には歯が立たないのだと。ゆえに、使い手が重要なのだ。
だから、ザルゴの姿勢はダメダメだ。剣は一流でも、使い手は……下の下。グレゴの言っていたことと、まったく逆だ。
「そんなへっぴり腰じゃ、私を刺せもしないよ?」
「う、うるさい! この……人殺しが!」
剣を作っていても、人を刺したこともないのだろう。こんなのでは、ただの見かけ倒し……いや、見かけ倒しですらない。
「う、ぁあああ!」
「はぁ……興醒めかな」
剣を振り上げ向かってくるザルゴであるが、それを避けるのは簡単だ……が、私は敢えてそうしない。
振り下ろされた剣を、真剣白羽取りの要領で受け止める。片手しかないけど、うまくいった。
「な、に!?」
ふむ、人を斬ったことはなさそうでも、殺意だけは本物だな。躊躇なく振り下ろしてきた。力も、男だからかそれなりにある。
けど……
パキン……ッ!
「……はっ?」
剣が、折れる。刃の部分が、いとも簡単に、あっさりと。それは、私が掴んでいた刃の部分を、少し力を入れて曲げたためだ。
鉄の硬さのそれが折れてしまい、ザルゴは呆気にとられている。その僅かな隙が、この場にとっては命取りだ。
「ふん!」
「! ごぺっ……!」
生まれた隙を狙い、ザルゴの腹部に蹴りをおみまいする。防御することなくくらってしまったザルゴは、変な声を出しつつ後ろに吹っ飛んでいき……建物に、激突する。
その一連の行為を、周囲の人たちはただ見ていた……いや、見ているしかなかったのだろう。一歩も、ザルゴを追う首以外が動くことはない。
が、それもほんの少しの時間……
「キャアアア!」
悲鳴。頭が事態に追い付いての、悲鳴。それにより、恐怖はあっという間に周囲に伝染していく。人の感情というのは、よくも悪くも伝染しやすいのだ。
この場から、一刻も早く逃げなければ……しかし、人々のその願いは叶わない。恐怖に足がすくんで、というわけではない。
動くはずの足が、動かせないのだ。
「な、なにこれ!」
「くそ、足が……!」
この場から逃げるための足が、凍りつき……地面にくっついてしまっている。ゆえに、そこから逃げるどころか、動くことすらできない。
なぜそんなことになっているのか……考えるまでもない。ユーデリアによるものだ。ユーデリアの冷気は、逃げ腰になっていた人々の逃げるための足を凍らせ、逃げる手段を奪う。
「い、いやぁ! 誰か、助けてぇ!」
「安心しなよ、痛いのは一瞬だから……すぐに楽にしてあげる」
先ほどやったように、喉をかっ切れば一瞬だ。
「それとも、魔物に食われるのと……どっちがいい?」
このまま放っておいても、どっちみち魔物に食われて死ぬ。どうせ死ぬんなら、生きたまま食べられるよりも、一瞬の痛みで死んだ方がいいに決まってる。
だから……レバニルが魔物の足を止めている間に、私が、全員送ってあげるよ。
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