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世界への反逆者 ~精霊との対峙~
変わっていく自分
しおりを挟む「ちょっと、飲み水でもないか探してくるよ」
このまま考え事をしていても、答えは出ない。答えが出ないなら、考えていても意味がない。
まだ水や食料にストックはあるが、私とユーデリアとコアとの分の食料を、充分に運べるほどの装備はない。車……はこの世界にないから、せめて馬車みたいなものでもあればよかったんだけど。
それほどまでに大きなものだと移動に支障がでるため、ほどよい大きさの鞄とか、欲しいな。今は、襲撃した村で盗んだ小さな鞄を、コアの体に巻いている。
ただ、子供であるユーデリアはあまり食べない。それに、この世界に戻ってきてからの私は、以前ほど食に対する欲を感じなくなっていた。食欲ってのは、人間の三大欲求のはずなんだけどな。
「おー」
「ぶるぃぃん」
ユーデリアとコアに見送られ、私は飲み水を探すために適当に歩いていく。食料はあまり必要はないが、水は別だ。人は食料がなくても三週間は生きていけるが、水がなければ三日と生きられない、と聞いたことがある。
それに、移動する日々では、すぐに喉は乾く。特に、移動を任せているコアは。だから、コアのためにも頑張ろう。
「……なんて、半分」
飲み水探しというのは、あの場を離れるための理由半分の口実……もう半分は、ただ一人になりたかった。一人で、散歩……いや、歩きたかった。
思えば、この世界に戻ってきてから、一人だった期間というのは意外に短い。戻ってきた瞬間は当然一人だったけれど……戻った先にあった村を滅ぼしたその直後、コアと出会った。
それからは、コアとの一人一匹旅が始まり……何日か後、奴隷であったユーデリアと出会い、彼が加わり旅をすることになった。
戻ってきたこの世界で、一人になった時間は……一日どころか、数時間もない。だから……
「なーんか、久しぶりだなぁこういうの」
一人だと、やっぱり気持ちがゆったり感じる。いつも復讐のことを頭に考えていたから、たまにはこうしてリフレッシュしないと、頭がパンクしてしまう。
涼しめの風を浴び、道とも言えない道を歩く。この近くには人の住んでいるところはなさそうだし、いつたどり着けるともわからない。食料も水も、運ぶことを除けばあって困ることはない。
……こんなサバイバルみたいな生活をすることになるなんて、以前までの自分じゃ考えられなかったことだな。
「……お」
しばらく歩き続けていると……湖を、発見した。それなりに大きく、底が見えるくらいに澄んでるくらいにきれいだ。見た感じ、飲み水としても問題なさそうだし。
……これなら、水浴びくらいできるかもしれないな……そういえば、お風呂入ってないのなんて、いつぶりだろう。この世界に戻ってきてから……いや、元の世界に戻れたときだって、のんきにお風呂に入っている暇はなかった。
この世界の一度目の旅でだって、旅の最中にお風呂に入れることはあまりなかった。訪れた場所で、お風呂を借りられればラッキーくらいの旅だったからだ。毎日入れたわけでは、ないのだ。
……ホント、いつ以来だろう。
「やめよう、考えても虚しくなるだけだ……」
本当に一人なら、水浴びもいいけど……ユーデリアはともかく、コアを待たせているし。お風呂でないとはいえ久しぶりの水浴びなら、長居してしまう可能性が高い。いや自信がある。
それに、私は飲み水を探しに来たのだ。水浴び誘惑は、断ち切らなければ。
「……よし」
頬を数度叩いて、顔を振る。少し顔を洗うくらいならともかく、どのみち水が安全かどうかを確認してからだ。
さっそく、飲んでみよう。と、湖へと近づいていき……手で掬うために、水を覗きこむ。そこに映っていたのは……私。まるで鏡のように澄んだ水に、これが自分だと、信じられないくらいの姿があった。
片目は、元のものとは色が違う別人のもの。片腕は肩から先がなくなっており、切断面が乱暴に治療されている。
それに、顔つきだって……いつも、朝イチで鏡を見ておしゃれしていたあの頃とは、ずいぶん違う。とても、自分だとは思えない変わりようだ。
「髪も……」
いつからかは、わからないが……今、気づいた。若干、白髪が混じっている。強いショック、ストレスを感じると、髪が白くなるって聞いたことがあるけど……まさか、今の生活のせいなんだろうか。
……せい、なんだろうな。
この世界に戻ってきてから……いや、この世界に関わってから、私の生活はがらりと変わってしまった。それを今さら後悔しない……なんてことはないが、考えたって過去が変わる訳じゃない。
どうしようもないことだ。どうしようもないことだから、こうして自分の中でぐちゃぐちゃになった感情を、ぶつけている。
「……ん、美味しい」
軽く、水を掬い……口に運ぶ。うん、この水は見た目だけでなく、体内に入れても問題はなさそうだ。喉を潤すだけじゃなくて、普通に美味しい。
美味しい水ってのは、こんな味がするんだな。それとも、これまではただの水分接種のためだったから、味わう余裕がなかっただけか。
味に問題はない……それに……
「やっぱり、少しだけ水浴びしていこうかな……」
どうしても捨てきれない誘惑が、水を前に再びよみがえってきた。
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