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英雄狙う暗殺者の罠
呪術の末路
しおりを挟むグレゴ、師匠の姿が消えた。それは、命を落としたためだ……この、紫色の霧の中の空間で、私の記憶が幻覚として実体化した者が死んだ場合、跡形もなく消えてしまうようだ。
死んだかどうか、わざわざ確認しに行く手間が省けるというのは、いいことだ。かすかにでも息があれば、殺したことにはならない。この空間からは抜け出せない。
残るは、三人……エリシア、サシェ、ボルゴ。正直、出てきた五人以外の人物が出てくる可能性を、考えなくはなかった。
記憶の中の人物を実体化させるのなら、五人の勇者パーティーメンバー以外にも、私が会ったことのある強者がもっと他にもいるのだ。
たとえば、ヴラメ・サラマン。たとえば、コルマ・アルファード。そういった人物が出てくる可能性がないとは言えなかったが……ここまできて、また新たに出てくるなんてことはないだろう。多分。
もちろん、出てこない保証はどこにもないし……この三人を始末してもまだ、誰か出てきたらいよいよ終わりなわけだけど……
「……なるようにしか、ならない……か」
今はとにかく、残る三人の始末が最優先。そのあとのことは、そのあとだ。
第一、霧の原因が、誰かが仕掛けたものだとしたら……霧から抜け出したところで、その誰かに襲われる可能性も残っているのだ。いや、その可能性はむしろ高い。
本当なら、体力は温存しておきたかったけど……このボロボロの状態じゃあ、無理だな。
願わくば、霧から抜け出せたあとに誰もいないところで、回復魔法で体を全快したい。
「……」
可能性に、賭けるとして……まずはここにいる、残りの三人を始末する。始末といっても、もはや三人共虫の息だ。
腹を拳で貫かれたサシェ、腹を手刀で突き刺されたボルゴ、そして……呪術に呑まれつつあったエリシア。エリシアはそれだけでなく、腹を蹴り飛ばし地面を転がっていった。それは、見るも無惨な姿だ。
もう、意識はない……はずだが、この場から消滅していないってことは、まだ生きている。さっさと始末するか。
そう考え、グレゴが突き飛ばし、その辺に転がっていったエリシアへと視線を向ける。頭を砕き割るのはグレゴに阻止されたが、それも無意味に終わる……
「……ん?」
……エリシアの姿を、見る。そこには……体が黒く、染まっている……いや、侵食されているエリシアがいた。
うずくまったまま、片足が、片腕が……右半身が、黒いものに侵食されている。あの黒いものは……呪術、か? 呪術の、嫌な感じがする。
地面を転がっていくほどに蹴り飛ばされても、虫の息になるほどのダメージを受けても……呪術の侵食は止まることなく。むしろ、速度が上がっているようにも感じて。
『呪われし術……呪術は、やがてお主の体をすべて呑み込み、術者の体を破滅させる』
以前、水の精霊ウンディーネが言っていた言葉……その意味が、まさに目の前に表れようとしていた。自分の身に起きていることではなく、他社の身に起きていることとして。
エリシアは、呪術を使っていない。いや、自分に呪術という力が眠っていることさえ、気づいていない。先ほど表れたのだって、無意識下でのことだ。自分の意思でではない。
それでも……たとえ自分の意思で使っていなくても。呪術という力を有しているだけで、ああなってしまうのだと、見せつけられているようで……
「あぁ、うぅ……い、や……いや、だ……っ、なに、も……か、かんじ、ない……」
まるで呪いの言葉でも吐いているかのような、その言葉に……思わず、背筋が寒くなる。呪術は、エリシア右半身からすでに体全体を侵食していっている。
それは、ただ黒くなっていっているのではない……黒くなった部分に、なにも感じなくなってしまっているようだ。そういえば、私のこの右腕は元々ない部分から生えているからともかく……この、左手は……
「なにも、感じない……?」
この黒くなっている部分には、なにも感じない。痛みはもとより、肌に触れる空気の感覚も、手を握ったときの手を握ったという触感も……なにも。
痛みを感じない……いや、感じなくなるのは、まあわかっていたことだ。けど、こういった一般的な感覚まで感じなくなってしまっているとは、気づかなかった。
「うぅぁ、ぁあ……」
聞こえていた、エリシアの呻き声……それが、だんだんと小さくなっていく。見れば、すでにエリシアの体は黒く、染まり……残すは、顔の左半分だけとなっていた。
その顔が、目が……じっと、私を見つめている。まるで、助けでも求めるかのように。
そして……
「あぁ、アン……っ」
……顔の、残っていた部分すべてが黒く、染まった瞬間……エリシアの体は、その場から消滅した。体を呪術が侵食したその瞬間に、エリシアがそこにいたという痕跡は失われた。
ここから消えたのが、ただ死んだから……というのは、残念ながら考えにくい。そう、呪術の力に呑み込まれ、その結果として消滅した……ここが変な空間でなくても、そうだろう。
これが、呪術を使った者の……いや、呪術の力を持つ者の末路。改めて、思い知らされる。この力の、危険性に。
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