異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

文字の大きさ
283 / 522
英雄vs暗殺者

正体見たり

しおりを挟む


 見てきた、過去の映像。それは、バーチとノット率いるマルゴニア王国の兵士たちが、ユーデリアの故郷である氷狼の村を滅ぼす光景。

 それは、私の左目……『魔女』エリシアの目が、映し出した、現実にあった光景だ。過去の映像は、触ることやにおいなどは感じなかったが声、音は聞くことができ、その点はとてもリアルだった。

 左目が過去の映像を映し出したのは、あとにも先にもその時だけだ。この左目の本来の持ち主、エリシアゆかりの彼女の故郷ですら、そんな現象は起こらなかった。


「……」


 左目が唯一映し出した、過去の映像……そこに映っていたのが、このノットという人物だ。

 フードの人物……料理店で会った人物……氷狼の村を滅ぼした人物。そのすべてが同一人物で、このノットだ。その顔、そして彼女の右腕、右肩から腹部にかけ、大きな凍傷の痕があるのがその証拠だ。

 その痛々しいほどの傷は、氷狼の村での殺しあいの中で、彼女が負わされた傷だからだ。


「私の正体を、知ってるってのか。どういうことだ」

「こっちの情報を一方的に知ってるだなんて思わないでね」


 もっとも、私が知っているのはこの女の名前と、使用する呪術の力……それを使って、ユーデリアの故郷を灰にしたことくらいだ。

 こいつがどこの誰だか知らないし、マルゴニア王国、王子ウィルの側近であったバーチと、どんな関係があったのかも知らない。

 いったい誰が、この女に私の殺害を頼んだのかも……


「情報漏れはお互い様ってことか」


 ただ、わざわざ正直に「あなたのことはこれとこれとこれしか知らない」なんて言う必要はない。実際に知っているのは少ない数でも、多くの情報が漏れていると、油断させる。

 どうせバレてるならと、こっちが知らない情報をペラペラしゃべってくれるかもしれないしね。


「そうそう。あなたの呪術のことも、全部わかってる。その人体も燃やす炎のことも」

「……」


 全部わかってるなんて、ハッタリだ。実際にわかっているのは、指パッチンにより対象が燃える……それだけ。燃えた対象は、もがいてもなにをしても炎から逃れることはできず、やがて塵となって消える。

 炎の威力は強力で、たとえ氷狼であってもその冷気は炎にかき消された。今回は、エリシアの魔力作った水で消すことができたけど。

 ……万全のものならともかく、氷狼たちの冷気はエリシアの半分の魔力よりも弱いものだったのか? それとも冷気と水の違いか? それとも、別の問題か……


「どこで私のことを調べたのか、知らないが……」


 自分のことを調べられている……と思い込んだノットは、軽くため息を漏らした様子で、手の中にある短剣をくるくる回している。

 自分の正体がバレていたことに驚いた様子はあれど、慌てた様子はない。


「ま、私のことを調べたっていっても、なにもかもを知ってるって訳でもないだろ」


 そう、別に自分のなにもかもがバレたわけではないのだから、慌てる必要などどこにもないという、ある程度の余裕。それに、全然バレてないというのは本当なんだし。

 逆に私のことは、なんかいろいろ調べられてるし……ついさっきの、紫色の霧の中の戦闘のせいで現時点での手の内は、もう明らかになってしまっている。

 そう考えると、ピンチなのはむしろこっちだ……それ以前に、体力も、あまり残ってない……


「私のことを知ってる、それは本当みたいだ……が、それはそれとしてだ。もうあまり動けないだ、ろ!」

「……!」


 またも投げつけられるクナイは、燃えている。クナイの先端を燃やしたり、短剣の刀身が赤くなるくらいに炎を集中させたり、呪術ってのは結構応用が効くもんだな。

 これには、魔力の壁は通用しない。左手で弾いても熱いし、右腕は斬られた。避けるしか……


「ま、そうくるだろうな」

「くっ……」


 飛んできたクナイはそれぞれ正面に二本、右方面に三本……となると、避けるのは左方面しかない。

 それを予期して、私が左後方に下がったのと同時、ノットは隣にいた。速すぎでしょ……!


「せいや!」

「こっちだ」


 ノットに向けて、蹴りを放つ……が、すり抜けてしまう。これは、残像……!

 背後から再び、ノットの声がして……いつの間に回り込んだんだこいつ!


「元々あんたと正面切ってやり合うつもりはなくてね。悪いがこのまま……」

「ちぃ!」


 背後にいる相手ノット……また体を反転させるよりも早い方法を選ぶ。振り向き様に、魔力を発動し突風で吹き飛ばす。

 これで距離をとる、はずが、吹き飛ばしたはずのそれはその場で消えてしまう。これも、残像……?

 周囲にノットの姿は、ない。


「っ、どこに……」


 姿が見えないどころか、気配も感じない。このやろ、どこに……


「! くぅ……!」


 背後から、なにやら違和感を感じ……振り向き様に顔を横へとずらすと、右頬に痛みが走る。なにかで斬られたように、鋭い傷口が開き……血が、流れる。


「へぇ、よく避けたな。姿も気配も隠してるってのに、やっぱり反応がいい」

「この声……!」


 姿は見えないが、ノットのものだ。

 避けたって……今のはどうやら、クナイだったみたいだ。燃えるクナイは頬を抉り、傷跡を残した。痛いし、若干熱い。まさかここから炎が燃え上がるなんてことはないだろうな……


「やっぱ今のアンタでも、ばか正直に真っ正面からヤるのは部が悪い。じわじわと、なぶってやるよ……私の、やり方でな」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...