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もう一つの異世界召喚
ここを出ていく
しおりを挟む「ぐあぁああ!?」
……その場に響き渡る、叫び声。しかしそれは、今複数人の魔族から袋叩きの目にあっているガルヴェーブのものではない。そもそも、声色は女のものではなく男のものだ。
なにが、起こったのか……サーズは、見た。ケンヤを羽交い締めにしていた大柄の魔族が、投げ飛ばされたのを。
誰に? それはもちろん……ケンヤにだ。
「……マジかよ」
ケンヤの評判は、もちろんサーズも聞いていた。異世界から召喚された、次期魔王となる存在。召喚された当時はただの人間だったが、この世界で過ごすうち、筋力を鍛えたり魔力を覚えたり……まあ、いろいろやっているという話だ。
ただ、それだけ。ここに来てからそれなりに月日が経ったとはいえ、魔力も使えないどころかそもそもこの世界の人間ではないのだ。
だから、いくら鍛えようと純粋な魔族に、敵うはずがない。適正がどうだとか言われているようだが、そんなもの、ただの気休めだろう。
……なのに……
「お前ら……ルヴを、離せ!」
「おう!?」
なのに、どうして…自分よりも大きな魔族を、殴り飛ばしている? なぜ自分を羽交い締めにしていた魔族を、投げ飛ばしている?
周囲にいた魔族を引き剥がし、ガルヴェーブの周囲に群がる魔族を殴り蹴り、傷ついたガルヴェーブの側へと駆け寄っていく。その迫力に、近づくことができない。
「お前ら……よくも、こんなひどいことが、できるな……」
憎々しげに、ケンヤの口から漏れる言葉は……まるで、この場にいるすべてを殺してしまいたいと言っているように感じられるほどだった。ケンヤ自身、意識しているのかはわからないが。
それでも、その言葉は、たったそれだけで周囲の者を怯ませるほどの、迫力があった。この世界に来て訓練を重ねていく中で、魔族に囲まれている彼に身に付いたものだろうか。
あるいは、これこそがケンヤの『適正』なのかもしれない。純粋な魔族に劣らないほどの腕力、魔力……そのスペックが、開花すればケンヤは……
「なにさ……かっこいいつもりか? さっきも言ったが、その女の一族は、到底許されないことをしたんだ。こうなるのは、当然……」
「だから、ルヴは関係ないって言ってるだろ!」
もう、なんの意見を言おうと意味はない……ケンヤは、それをわかっていた。だから、こんなところもう出ていってしまおう……ガルヴェーブを連れて。
城の外が、どんな世界なのかケンヤにはわからない。だが、このままここにいても、ガルヴェーブは今後平穏に暮らすことはできないだろう。今のような扱いを、いやもっとひどい扱いを受けるかもしれない。
だったら、こんなところにはもういられない。たとえあてがなくとも、ここにいて、ガルヴェーブが不当な扱いを受けるくらいなら……
「ルヴ、行こう」
「……ケンヤ、様……?」
ガルヴェーブの手をとり、ケンヤはこの場を去ろうとする。しかし、サーズ始め周囲の魔族は、そうは素直にさせてくれない。
「やぁ、どこ行こうってんだ?」
「どけ」
行く手を塞ぐサーズ……そして、他の魔族も簡単に二人を逃がそうとはしない。
マド一族の末裔であるガルヴェーブは元より……次期魔王となるケンヤにも、ここを出ていかれてもらっては困るのだ。なんのために、ケンヤをこの土地に召喚したと思っているのか。
行かせはしない……しかしそれはケンヤにとっては、なんとも身勝手に思えるものだろうか。確かにケンヤは、来る勇者との戦いに備え、鍛えていたが……ガルヴェーブをこんな目にあわせる奴らのために、戦えなどしない。
そうだ……ガルヴェーブをこんな目にあわせた時点で、ケンヤにはもう、戦う理由がない。
「俺はルヴを連れて出ていく。あとは勝手にやってくれ」
ここを出ていく……その発言に、周囲はざわめく。
ケンヤを召喚したガルヴェーブをこんな傷だらけにして、ケンヤがなにも感じないと思っていたのか……ケンヤにとっては理解の及ばないことだが、それよりも一族への憎しみとやらが上回ったのだろう。
この世界に召喚されてから、魔族とはそれなりには仲良くなった。だが……その中でも一番に思っているのは、ガルヴェーブだ。彼女を傷つける奴らのために、戦うことなんてできない。
サーズ始め、周囲はなにか言いたそうだ。しかし、ギロリと睨み付けるケンヤの迫力に……それだけで、なにも言えなくなる。
一人を除いては。
「出てく? やぁ、そんなこと無理だろ。だいたい、ここを出てどこに行こうってんだ」
「さあ。けど、ここにいるよりはマシだ」
魔族にとっては、ここからケンヤがいなくなるのは困るのだろう。それはそうだ……魔族が滅んでしまいかねない状況で、勇者に対抗するために次期魔王が呼ばれたのだから。
ケンヤも、望まれるならばみんなのために、戦おうと思っていた。だけど……
「それは困るなぁ、やぁ、わかるだろ?」
「知るかっ、そっちの都合に付き合えるか!」
もう、その必要もないから……
「なら仕方ない……時期が来るまで、どっかに監禁……いやおとなしくしといてもらおうか」
サーズのアイコンタクトで、周囲の魔族がケンヤに飛びかかる。今言っていた通り、ケンヤをどこかに閉じ込めておくつもりなんだろう。
そんなこと、させてたまるか。
「俺は、ここを、出ていく!」
自分の中で、大きな力が渦巻いているのを感じる……自分の強い思いに呼応するように、その力は大きくなり……
ケンヤと、手を取っていたガルヴェーブの体が黒い光に包まれる。それは、ほんの数秒もない……光が晴れた後には、なにも残っていなかった。
ケンヤとガルヴェーブは……この場から、跡形もなく消えていた。
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