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もう一つの異世界召喚
魔獣の正体『病』
しおりを挟むサーズの言うことを、ケンヤはすぐに理解できない。なにせ、魔族がいきなり、魔物のような姿へと形を変えていったというのだ。
魔力とかなんとか存在するファンタジーな世界だし、事実ここに透明になれる魔族だっている。たとえば姿形を変化させる者がいたとしても、全然おかしくはない。
……だが、サーズが言うのは、どうもそれとは大きくシチュエーションの異なった事態であるらしい。
「ここにいる奴、みんな……なら、なんで、お前は……」
「やぁ、はは……みんなじゃない。とは言っても、半数以上は犠牲に、なった……多分、『病』の、仕業だろうね」
「……やまい?」
この城の中にいた魔物の、すべてが魔物のような姿に変化したわけではない。それは、ここにいるサーズの存在が証明している。
だが、それよりも気になったのは……サーズの口から出た、『病』という単語だ。
「やぁ……知らない、のか……」
『病』……それは元々、大昔から魔族に発症する、文字通りなんらかの病気のようなものである。もっとも、それを単なる病気と線引きしていいものかは、疑問が残るところだが。
それはおそらく呪術や、禁術ともまったく違うもの。ある時から、一部の魔族にのみ表れる謎の現象……なんと表現したらいいのか、それがわからないから、総じてそれは病と呼ばれるようになった。
目撃した者の話を完結にまとめると……それは、サーズが言ったのとまったく同じ言葉になるだろう。魔族が、つい先ほどまで元気に話していた魔族が、突然苦しみだし……姿を、変えていくのだ。
人型のシルエットをしている者も。異形の姿をしている者も。魔族とは基本、見た目や流れる血などを除けば……人間と変わらない。魔物とは同じ存在でありながら、知性もあるし、言葉だって話せる。それこそが、魔物との違いでもある。
しかし病を発症した魔族は、知性も言葉も奪われ……魔物と同じ存在と成り果てる。それはただ本能のままに暴れるだけの、獣だ。それまでの記憶も、あるのかもしれないが意思を疎通する方法がない。
その現象は、原因が一切不明だ。突然発症し、発症したが最後……抵抗する術など、ありはしない。他の者にも自分にも、止められはしない。
魔物と、まったく同じ存在……しかし、一つだけ違うところがある。魔物の姿と成った魔族は、普通の魔物にはできないことができるようになる。
それは……魔法だ。病を発症した魔族は、魔法を使う魔物へと変化する。魔物に比べて体が少し大きくなるとか、そういった身体的特徴もあるにはあるが……大きな点は、魔法だ。もっとも、魔法という呼び方は人間側が使っているものだが。
「なんなんだろうね、あれは……」
魔法を使う、魔物……魔族にとっては、自分たちの知る生き物とは異なる生き物だ。だが、人間にとっては同じもの。魔族やケンヤは知るよしもないが、人間はそれを魔獣と呼んでいる。病を発症した魔族、それこそが魔獣の正体だ。
原因不明の、病……しかしそれは、ある意味で魔族の宿命として、受け入れられている部分はある。だから、わざわざ隣人が魔族のような姿になっても、あまり悲観する者はいなかったりもする。
病は魔族の宿命……なのだが、今回城で起こった現象は、はっきり言って異常だ。これまで、たとえば一つの村で一度に病を発症したのは、一人か……多くても、二人。
間違っても、十人単位ですら一辺に病が発症した例はない。それが、この城では半数以上の魔族が一度に病を発症するという事態に陥った。
それは、いずれにも例がないことだ。実際、過去この城からも病に犯された魔族はいた。その魔族……いや魔獣は、すぐに城から出され、外を徘徊することとなった。幸いというべきか、ケンヤがこの城にいる間は、誰も病は発症しなかったが……
要するに、だ……この城の半数以上の魔族は病を発症し、魔獣となり理性もなくただ暴れ狂った。病から逃れた魔族は、ある者は魔獣に襲われ、ある者は城に攻めてきた勇者に魔獣共々殺され……なんとかサーズだけは、難を逃れた。体に深い傷は、負ったが。
「……」
これが、事の顛末だ……聞いてもいないのに、ペラペラとしゃべるサーズをケンヤは冷たく見下ろしていた。それでも、興味ないと言わずに黙って聞いていたのは……なぜか、聞かなければならない、気がしていたからだ。
この城で起こったのは、二つ。病の大量発生と、勇者の襲撃。そして後者の結果は……見てわかる通り、魔族の敗北という形で幕を閉じた。
「魔王様、含め……私らは、全滅……魔王様が生み出した、魔族、魔物は……すべて、消えたはずさ……」
「……じゃあ、もう……」
禁術についての手がかりを得ることは、誰にもできない。魔族がすべて消えてしまったのなら……いや、ちょっと待て。
ここに戻ってくるまで、一定の時から魔物をまったく見かけなくなった。それは、先代……いや、ケンヤは魔王を継いでいないのだから、まだ今代か……の魔王が討ち取られたからに違いない。
だが、すべての魔族が消えたというなら、なぜサーズは生きている。その問いが出る前に、サーズは口を開く。
「やぁ……この世界の、魔族のほとんどは……魔王様に、生み出された……いわば、生みの親、さ。だけど……すべてじゃ、ない。中には、そうでない、魔族もいる……その、マド一族や……私みたいな、例外もいるって、わけさ」
「例外……」
魔族であっても、すべてが消えるわけではない。魔物や、どういうわけか魔獣になってしまった魔族は、消えてしまうらしいが……魔族に、消えない者の例外はいる。
マド一族であるガルヴェーブ。彼女はすでに死んでいるとはいえ、その体は消えていない。そして、サーズのような一部の例外……それらは、まだ残っている。
ならば、まだ消えたわけではない……禁術について聞き出す、手がかりは。
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