異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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英雄vs氷狼vs……

加熱する戦局

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 ガニムの素の力は想像以上、それは師匠に匹敵するかもしれない。体は生半可な攻撃じゃ通用しないほどに硬く、それに加えてこちらの動きを止めてくる妙な力を使う。

 滅んだはずの魔族、その生き残り。魔物や魔獣とは違い、その知能は人間と等しく存在している。知恵があるから、ただの獣を相手にするよりも厄介だ。

 対するは、私とユーデリア、そして……あこ。ガニムが狙っているのは私とユーデリアだが、あこはこの国をこれ以上めちゃくちゃにさせないために、あいつを止めようという。


「とにかく、あいつにはあまり近づかない方がいいか……」


 さっきあことの戦いを見ていてわかったのは……ガニムが相手を睨み付け、対象の人物の動きを止める、という可能性があるということ。離れたところから、対策を練る……

 ただ、まさか相手を睨み付けるだけで発動する技とは思いたくない。もしそうなら、対策もなにもあったもんじゃない。

 至近距離で、相手を睨み付ける……それが発動条件だと、思っておこう。私の時も、そうだった気がするし。


「とはいえ……」


 離れていても攻撃手段はあるが、私の炎もユーデリアの冷気も通用しない。通用するのはあこの魔力くらいだけど、ガニムもそれをこそ警戒しているはずだ。

 そう簡単に攻撃を受けるとも思えないし、それに……


「ふんっ!」


 考えている時間を、ガニムは与えてくれない。ガニムは魔力を持っていないようで、遠距離からの攻撃はない……そう思っていたが、そんなことはない。

 私とユーデリアの戦いから今に至るまで、この場は地面がめくれあがるほどにめちゃくちゃになっている。その、割れた地面から適当な岩壁を剥ぎ、手のひらで砕き……それを、ぶん投げる。

 それだけで、岩の弾丸の完成だ。


「くっ……」


 ガニムの直接攻撃でなければ、魔力の盾で防ぐのは容易い。それはガニム自身わかっているはず。

 つまりこれは……ただの目眩まし!


「そこ!」


 一瞬のまばたきのうちに、正面にいたはずのガニムは姿を消す。しかし右方向からの殺気を感じとり、そこへ回り蹴り。いつの間にかすぐそこにまで迫っていたガニムの拳に、ぶつける。

 ただし、力負けするのはわかっているので力で対抗するのではなく、拳の攻撃軌道をずらす受け流しだ。


「ちっ……」

「目で追えなくても、殺意駄々漏れ!」


 ガニムは、その巨体からは考えられないほどの速さで動く。集中しないと、目で追えないほどに。

 ただし、目で追えなくても気配で終える。ガニムは鉄のような肉体にそれに合わない速さを備えているが、気配を殺すのがまるで下手だ。気配を察知できるから、姿が見えなくても追うことができる。

 気配の殺しかた……それで言うなら、ノットの方がよほどうまかった。暗殺者だからという点も大きいのだろうが。


「やはり一筋縄でいかんか、『えいゆ』……」

「その呼び方をするなぁ!」

「ほぅ!?」


 また『英雄』と呼ばれそうになったので、とっさに体が反応し、ガニムの口を閉じさせる意味でも反撃。回り蹴りしたのとは逆の足で、膝をガニムの顎目掛けて振り上げる。

 ジャンプし、見事直撃。顎に入った膝は、そのまま口を閉じさせる。

 さらに、もう一方の足でガニムの胸元を蹴り、物理的に距離を離す。ダメージは通らなくても、こういったことくらいは通用する。


「っとと……」


 まったく……そんなに『英雄』『英雄』連呼されたら、あこにまた不審がられるじゃないか。たまったものじゃない。


「お客さん、やっぱりただ者じゃないですね。なにかしてたんですか?」

「うぇ!?」


 と、今の一連の動きを見て疑問に思ったらしいあこが問いかけてくる。なにかしてたって言われると、一回この世界救ってましたと返したいが……

 そんなことを言えるはずもなく。ましてや、一度救った世界を怖そうとしているだなんて。


「あー、ほら、旅をしてたからせめて自衛はって思ってね。その程度だよ」


 自衛のための手段……せいぜいそう答えるしかなかった。それで納得してくれるかはともかく、今は優先すべきことがあると無理矢理話をそらす。


「ほら、あいつまた……!?」


 体勢を立て直すガニム。しかし、その顔面になにかが衝突する。それは、魔力の弾……しかし撃ったのは、私でもあこでもない。魔法を使えないユーデリアでもない。

 まったく別のところからの攻撃。とっさに身構える。誰だか知らないが、今のはたまたまガニムに当たっただけで、私たちを狙ってきた可能性も……


「アコさん! 無事ですか!」

「! 隊長さん!?」


 魔力の弾が放たれた方向……そこには、この国の警備隊の隊長である男がいた。いや、それだけではない。後ろには、警備隊のメンバーが並んでいる。


「どうして……」

「決まっているでしょう、この国を守るのが我々の仕事です!」


 助太刀……私のというわけではないが、私たちにとってには変わりないようだ。ただ、いくら数が増えたところで、それが状況の優位を指すわけではない……


「あー、次から次へと……うっとうしいことこの上ない、人間ゴミどもが……!」
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