異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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英雄vs氷狼vs……

ボクが殺す

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「援護、どうも!」


 先ほどまでいた場所から、怪我人を連れて移動するあこが私にお礼を言ってくる。小柄だけど、大人一人運べるくらいの力はあるんだな……まあ彼女の戦いかたを見ていたら納得だけど。


「……へぇ、お優しいね」


 と、背後から声をかけてくるのはユーデリアだ。あこが乱入してきてから、すっかりおとなしくしていると思ったが……

 私がガニムに呪術の炎を放ち、結果的にあこたちを助けた形になったのがおきに召さないらしい。


「うるさいな、私の勝手でしょ」

「はっ」


 こいつ……

 ユーデリアの思っている通りだ。私は彼女らを……あこを助けた。あのままだったらあこはガニムの拳をまともにくらっていた。怪我人を見捨て、逃げればいいものを。そうしないのは、彼女の性質の問題だ。

 あこも魔法はある程度のものは使えるのだろうし、魔力の盾を作る、という選択肢もあっただろう。だけど、それじゃあできたとしても間に合わない。間合いと早さと、諸々がガニムの一撃を防げないことを物語っていた。

 だから私は、ガニムの体に炎を放ち、その体全身を炎に包ませた。それがガニムにダメージを与えないことはわかっていたが、いきなり自分の体が燃えて動揺しない奴はいない。

 結果として、ガニムは動揺から一瞬の隙を生んでしまい、それがあこの判断を下させた。一瞬でも、あこにとっては充分な時間だっただろう。


「やっぱり……もう終わりだね、ボクたちは」

「あはは、昼ドラみたい」


 一連の流れは、ユーデリアになにを思わせたのか……心中を知ることはできないが、今の失望した声から察することはできる。

 あこを、この国を、壊さずに後回しにしようと提案した私。それを、ユーデリアは受け入れない。それは復讐を続けてきたユーデリアにとって、私の提案は許しがたいものだろう。妹が生きていた、それだけの理由で……

 復讐をやめるつもりはない。ここは後回しにしようと言っただけ。だけどユーデリアはわかっているんだ。後回しとしたが最後、この国をもう訪れることはないのだと。世界中を壊しても、この国だけは、あこだけは手を出さないと。

 それがユーデリアには、許せないらしい。ユーデリアにも妹がいたからわかってもらえると思ったが失敗。今考えてみれば、妹が死んでしまったからこそ、妹がいるからという私の提案はふざけんなって思ったに違いない。

 対立し、ガニムの乱入でうやむやになってしまったが、道は別れた。

 今の、もう終わりだね、というまるでドラマの台詞みたいな言葉は、実際にはそんな甘々な言葉じゃない。もう、同じ復讐の道は歩めないと……はっきりとした、決別の証。


「ユーデリア、私は……」

「なにも言うな。もうお前には、以前のような道は歩めない。下手な感情なんて、邪魔なだけだ」


 私の言葉を聞くことなく、ユーデリアは牙を剥き出しに吠える。今すぐにでも、私を噛み千切らんとする勢いだ。

 それをしないのは、やはりガニムという存在がいるから。それに今となっては、あこや警備隊の人間までいる。邪魔されることは、間違いないだろう。


「お前は、ボクが殺す」

「はは、手厳しいね……」

「あぁ、これまで旅を共にしてきた仲だ。せめてボクが殺してやるさ。だから、あんな訳のわからない魔族に殺させないし、ボクも殺されない」


 唸るユーデリアの視線の向く先は、こちらに歩いてきているガニム。標的を、変えたようだ。超速で迫ってこないのは、疲れたからだろうか……そうではないとわかっていても、そうであってほしいと願う。

 その身に、気迫……闘志が高まっている。力を溜めているのだろう。


「ボクが殺すから殺されるな、ね……変なツンデレみたいなこと言うね」


 漫画とかでよく聞く台詞だ。お前を倒すのはこの俺だ、みたいなツンデレっぽい台詞。実際には、ユーデリアは私のことを本気で殺すつもりだからツンもデレもあったもんじゃないけど。

 とにもかくにも、今はユーデリアとのいざこざは後回しだ。あこは警備隊の人たちに構っていて手一杯だろうし、やっぱり二人でなんとかするしか……


「って、ただの魔族一人にここまで苦戦するとはね……」


 ガニムの実力は、すでにこれまでに戦った魔王以外の魔族を遥かに越えているように思える。特にあの体の硬さは、手強いな……

 なにか一打逆転の手でもあればいいんだけど、そう都合よくはいかないか。さっき右手に宿っていた炎も、いつの間にか消えているし。焦れったいな。


人間ゴミども……それも、たかがガキどもが……!」


 ただ、焦れったく感じているのはガニムも同様のようだ。決定打はあっても、ことごとくそれを防がれている。

 いい加減、限界も近いだろう。我慢の。


「ゴミゴミって……そんなに言うことないじゃない」


 魔族が人間を見下す傾向にあるのは、すでに周知の事実だ。そのことに驚きはしない。しないけど……疑問が、ある。

 ガニムとノットが繋がっているとして、その裏にいるのは私と同じく異世界の人間だ。……そう、人間だ。

 人間を見下しているのに、人間に従っている……立場が同じなのか部下なのかは、わからないけど。

 なんだって、見下している人間に従っているのか……それとも、その人物だけが特別、ということだろうか?
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