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英雄vs氷狼vs……
石頭
しおりを挟むただでさえ膨大だったあこの魔力が、爆発的に上昇する。それは、その魔力の膨大な量は、もしかしたら『魔女』に匹敵するんじゃないだろうか。
「"魔力……解放"……?」
あこは確かに、そう言った。魔力解放……それは言葉の通りの意味だろう。自らの魔力を解放し、結果として今、膨大な魔力が溢れている。
今まで本気を出していなかったのだろうか……あれで。時間を巻き戻す能力に加えて、これほどの魔力まで。ホントとんでもない力を持っている。
「……よくも、そんな力を今まで、隠せていたものだ……」
それを真正面から見るケンヤは、驚いた表情をしている。それほどまでに強大な力だというのは、私にも伝わってくる。
魔力は、エリシア本来の魔力にも匹敵するほど……そして、あこの身体能力は魔獣との戦いを見る限り、かなり高い。あくまで魔法使いでしかなかったエリシアの身体能力は、残念ながらそんなに高くはない。
魔力が同じくらいで、それプラス身体能力のあるあこは、もしかしたら身体能力のなかったエリシアよりも実力は……
「……はっ!」
「っ!?」
その瞬間、一瞬のうちにしてケンヤの懐に移動したあこが、ケンヤの腹部に掌底打ちを放つ。腕を突き出すようにして、開いた手のひらで対象を打つ打撃だ。
これをケンヤはもろにくらう。反応できなかった、のだろうか。今のは移動というより、パッと見た感じまるで瞬間移動だ。
私の目にもはっきり見えた訳じゃないが……瞬間移動に限りなく近いほどの速さで、移動している。まばたきする間に移動すれば、完全に消えたと錯覚するほどの速度。
魔力による身体強化、だろう。ただし、足だけにすべての魔力を集中させたわけではなく、全身でこれだ。私だって、足にのみを全力強化して同じくらいの速度を出せるかどうかってところなのに……
よって、今の掌底打ちも魔力による強化が加わっている。
「……か、っ……!」
まともに掌底打ちを受けたケンヤは、後方へ吹き飛ぶ……はずだった。それを止めたのは、他ならぬあこだ。
飛んでいくはずだったケンヤの胸ぐらを掴み、引っ張って強制的に引き寄せる。吹き飛ばず、後方へ向けられていた勢いは逆側に向き、困惑するケンヤは次の行動に備えることができない。
「ふん!」
引き寄せたあこが行ったのは、頭突き……それも、これだけ離れた距離にもゴンッと聞こえるほどに、強烈な。
あこは、昔から石頭だった。昔は、よくあこの石頭に泣かされたりしたっけ。それが、今魔力で強化された状態だなんて……恐ろしすぎる。
「ぐ、ぁ……」
「まだまだ!」
ふらつくケンヤが、続けて二発目、三発目と頭突きをくらう。重々しい音が響き、頭どころかその内部にまでダメージを与えているんじゃないかと思わせる。
魔力で強化してあるとはいえ、純粋な打撃の一撃。たとえなんらかの方法で魔法を無効化したとしても、その威力までは止められない。
「ぐっ……はな、れろ!」
「あっ」
そのまま、永遠と頭突きの連打が続くかと思われたが、ケンヤが無理やり引き剥がす。この距離からでも確認できるくらいに、額は赤い。出血まではしてないけど、うわぁ、痛そう。
「ぐ、この……石頭め……!」
「自分ではそうは思わないんだけど、お姉ちゃんにも同じ事言われたなぁ。懐かしいや」
! ……私の、ことだ。この世界に来ても、あこは……あの子は、私のこと覚えてくれている。
どうしよう、たったこれだけのことが、どうしようもなく嬉しい。元の世界では私は失踪扱い、そして私を探している最中、あこは命を落としたと……そう聞いたから。
私はあこに、思い出したくもないくらいに恨まれていても仕方ないと、思っていた。
「えいや!」
「ぐぬ……!」
あこがその場で拳を振り抜き、それによって生まれた衝撃波がケンヤを襲う。それもかなりの速さでケンヤへと打ち込まれ、その口から吐血する。
魔力解放をしたことにより、身体能力だけでなく、そこから打ち出される攻撃にも向上効果が見られる。本調子じゃないとはいえ、私が翻弄された相手(ケンヤ)を……圧倒している!
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