異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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最期の英雄

終わりが近い

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 ……自分が自分でなくなっていく。そんな感覚が、ある。なんで私はこんなことをしているのか、しなければならないのか。

 それを、忘れては繰り返し与えられる苦痛により思い出させられる。自分が、なぜこんな目にあっているのか。そしてそれを、逃れられないということも思い知らされる。

 絶え間なく与えられる苦痛から逃げる術はない。試しに走って逃げようにも、苦痛は外側からではなく内側から来るのだ、どこへ行こうと意味がない。それに、きっとどこまで走ろうと景色が変わることはない……見渡す限りの、白い風景なのだから。

 ここは私の頭の中で、意識は完全にこちら側にある。外の風景を見ることはできないし、もう何時間とここにいる感覚だ。でも、現実にはそんなに時間は経っていないはず……なんせ、私の体は消滅しかかっていたのだから。

 私の体が消滅しきるのは、この空間で私がこれまで殺してきた人間の、すべての苦痛を受けた後だと言う。それはエリシアの言葉だが、それが事実なのだろうということはわかる。

 この苦痛の中、ろくな考えは浮かばない。けれど、その後に消滅してしまったら、いったいどうなるのだろうとは思う。その後にはなにも残らない……なにも考えることが、できなくなるのか。もう眠りから、覚めることはないのか。


『かはっ……はぁ、はぁ……』


 ろくなことは考えられないし、考えられたとしてもそれは暗いイメージのものばかり。もう何百を越えるほどの苦痛を受けてきたと、思う……だからだろうか、こんな暗いことしか浮かばないのは。

 今までどれだけの国や村を回ったかも覚えてないが、国規模になればそこに住む人だけで百をゆうに越える……それを、いつの国で殺ってきたのだ。本当に、どれだけの人数をこの手にかけたのか。

 あぁダメだ、暗いことや、同じことばかりを考える。エリシアに攻撃的な言葉を投げ掛けられて以来、苦痛を感じなくなることはなくなった。どんな苦痛だろうと、新鮮に感じさせられてしまう。


『さあアンズ、休んでる暇はないよ。ま、そんな暇与えられないことは知ってるだろうけど』


 私を見るエリシアは、確実にこの状況を楽しんでいるようにも見える。エリシアはこんな性格じゃなかった……私が、変えてしまったのか。それとも私の中の、エリシアは私を憎んでいると思い込んでいるから、なのか。

 もうこの空間で、エリシアとずっと二人きりだ。何百……いやもう何千、もしかしたら何万の苦痛の領域に足を踏み入れているのかもしれない。その時間、ずっとエリシアと。

 エリシアとはなにか話をするわけではない。エリシアが話したいと思ったときに、話を一方的にするだけ。それを私は、意識半分に聞いている。ほとんどは、私の悶絶する姿を観察し楽しんでいるようなものだ。


『はぁ、はぁ……』


 死ぬほどの苦痛を絶え間なく味わわされているというのに、体には傷一つついていないというのは、なんともおかしなものだ。だから、あの苦痛は夢なんじゃないかという思いと、そうではないという思いとで板挟みになる。

 もっとも、この空間が夢みたいなところはあるけど。

 そして、夢というのは……いつも、唐突に終わりを迎えるものだ。


『!?』


 これまで感じていた苦痛……それとは明らかに別次元の違和感が、腹部に走る。自然と、そこに手を持っていく……傷などついていない。触ったそこは、傷一つないはずだった……そこに、触ることさえできれば。

 手を伸ばした先には、なにもない。確かに、お腹を触ろうとしたはずだ……なのに、手は空を切るばかり。その理由は、単純なもの。


『……消え、てる?』


 手を伸ばした先にあるはずのものが、ない。腹部が、一部分丸々消えていた。まるで、穴でも空いているかのように。

 なんだ、これ……なんなんだ、これ。今まで、数々の苦痛を味わわされてきた。だけど、この身に傷がつくことなんて、なかったのに……


『あぁ、もう終わりが近いんだ』


 ボソッと、しかし確かにエリシアの言葉が、私の耳に届く。今、終わりが近いと言った……終わり? 終わりってなんだ? まさか、この空間か?

 それが思い浮かんだとき……ふと、思い出すものがある。これは、消滅の力……私がガニムに触れた時、ガニムは腹部が消滅していた。そして、その力によりガニムは……


『ま、さか……』


 これはガニムの、死の体験……呪術の力により消滅した際の、記憶。ならば、終わりが近いというエリシアの発言もうなずける。

 だけどなんで、こんな……今までなんともなかった体が、消滅していってるんだ? 呪術の、消滅の力は……再現されるって、いうのか?


『いや……』


 今度は、腕が消滅する。ダメだ、これは……今までの苦痛とは、レベルが違う。痛みは感じない。でも、自分の体が消えていく恐怖は、生易しいものじゃない。

 このまま、消えちゃう? この空間で、消えたら私は、いったい……


『まずは一回目だよ、アンズ』


 どうなってしまうのか……なんの答えもないまま、エリシアの言葉が耳に届いた直後、私の視界は真っ黒になった。
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