6 / 16
ホテルにて
しおりを挟む
「ヤバ、もうこんな時間」
セントラルパークで記事を書くための取材を終え、その感動が消えないうちに書き起こしておこうと近くにあったカフェで作業するうちにもう時刻は5時をまわっていた。
さすがにあの『ねぼすけ』も起きて、もしかしたら自分を心配しているかもしれない。ベルは慌てて荷物をまとめ店の外へ出た。
だんだんと8月の真夏に近づいているニューヨークは夕方でも暖かかった。空は夜に染まりつつある。ここから滞在先のホテルまで歩いて15分ほどだ。あまり暗くなっては危ない。さっさと帰ろう。ベルは軽い足取りでホテルへの道を辿っていった。
今朝出発した部屋のドアを開け「ただいま」と室内に声をかけると
「おかえりー」
という柔らかい声が返ってきた。さすがにあの『ねぼすけ』も起きていたか。今朝ベルが新聞を読んでいた席に一人の男が座っている。中肉中背に癖のある短い黒髪、そろそろ三十代だというのに若々しい顔立ち。どこをどう切り取っても純血の日本人。唯一珍しいのはその灰色の瞳くらいだろうか。
「また連絡もなしに勝手に取材に行って…事前に一言くらい言えと何度言ったら…」
「それは燕先生が毎度毎度昼過ぎまで寝てるからでしょ。ていうか自分の仕事は大丈夫なの?締め切りがどうとか言ってなかったっけ?」
「それは…」
ちょうどその時、テーブルに置かれた燕先生のスマホに電話がかかってきた。その相手を確認すると燕先生の顔は顔を歪めた。
「うわ、担当からだ」
「うわとか言うな」
燕先生が少し離れたところで電話に出る。
「はい、はいお世話になっております。はい、いえその…ちょっとまだできていなくてですね。色々立て込んでおりまして…」
燕 海渡、私の里親ということになっていて、私は先生と呼んでいる。これでも若くから成功を収めている小説家だ。世界のあっちこっちを訪れてはそこからインスピレーションを得て小説にしている…らしい。
そして私に教育と、誰とでも話せる語学力と、文才を与え、なにより私を世界を巡る旅に連れ出した張本人。今からおよそ七年前。私が十歳の時、あの孤児院から始まった旅だ。
セントラルパークで記事を書くための取材を終え、その感動が消えないうちに書き起こしておこうと近くにあったカフェで作業するうちにもう時刻は5時をまわっていた。
さすがにあの『ねぼすけ』も起きて、もしかしたら自分を心配しているかもしれない。ベルは慌てて荷物をまとめ店の外へ出た。
だんだんと8月の真夏に近づいているニューヨークは夕方でも暖かかった。空は夜に染まりつつある。ここから滞在先のホテルまで歩いて15分ほどだ。あまり暗くなっては危ない。さっさと帰ろう。ベルは軽い足取りでホテルへの道を辿っていった。
今朝出発した部屋のドアを開け「ただいま」と室内に声をかけると
「おかえりー」
という柔らかい声が返ってきた。さすがにあの『ねぼすけ』も起きていたか。今朝ベルが新聞を読んでいた席に一人の男が座っている。中肉中背に癖のある短い黒髪、そろそろ三十代だというのに若々しい顔立ち。どこをどう切り取っても純血の日本人。唯一珍しいのはその灰色の瞳くらいだろうか。
「また連絡もなしに勝手に取材に行って…事前に一言くらい言えと何度言ったら…」
「それは燕先生が毎度毎度昼過ぎまで寝てるからでしょ。ていうか自分の仕事は大丈夫なの?締め切りがどうとか言ってなかったっけ?」
「それは…」
ちょうどその時、テーブルに置かれた燕先生のスマホに電話がかかってきた。その相手を確認すると燕先生の顔は顔を歪めた。
「うわ、担当からだ」
「うわとか言うな」
燕先生が少し離れたところで電話に出る。
「はい、はいお世話になっております。はい、いえその…ちょっとまだできていなくてですね。色々立て込んでおりまして…」
燕 海渡、私の里親ということになっていて、私は先生と呼んでいる。これでも若くから成功を収めている小説家だ。世界のあっちこっちを訪れてはそこからインスピレーションを得て小説にしている…らしい。
そして私に教育と、誰とでも話せる語学力と、文才を与え、なにより私を世界を巡る旅に連れ出した張本人。今からおよそ七年前。私が十歳の時、あの孤児院から始まった旅だ。
0
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる