旅する二人の小説家

夜船 銀

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妖精の眠る海

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アマルフィはちょうど、長靴のような形をしたイタリアの足首の辺りにある地域でその約40キロメートルに及ぶアマルフィ海岸は世界で一番きれいな海岸と言われている。また、その断崖絶壁にそびえ立つアマルフィの街は独特の美と神々しさを醸し出している。その美しい街には数々の神話が語り継がれ世界遺産にも数えられているんだとか。

「で、いまからそんな素敵な街へバスで向かっているというわけです。」
「そりゃあいいけど、なんでバスなんだ?きれいな海なんだから船で行けばいいじゃん」
「分かってないなー。楽しみはとっておかないと」
現在地 イタリア。我々二人は首都ローマから直行便のバスでアマルフィの街へと向かっていた。どうやらこの6~9月のバカンスシーズン限定での直行便バスらしい。

「もう7月だよ、燕先生。海日和だね。」
「そうだなー。”世界一きれいな海”はどれほどのものか、今から楽しみだよ」
『何だかんだ楽しみなんじゃん。』
アマルフィへの道はくねくねと曲がっていて、私たちは右へ左へと体を揺さぶられていた。
それだけで、この先には自分が想像もできないほどのものがあるような気がしてゾクゾクする。

「ところでベル。アマルフィで目的があるのか?俺は正直、お前から聞くまで街の名前すら聞いたことがなかったよ」
「別に特別な目的なんてないよ。ただ魚介料理がおいしそうで、建物もおしゃれっぽくて、旅行記を書けたら楽しそうだなって思っただけ。でもやっぱり私も世界一きれいな海をみてみたかった。”妖精が眠るのにふさわしい海”をね」
「下調べが入念だな」

バスが ガタンッ!と大きな音をたてて跳ねた。道の凸凹に引っかかったのか大きめの石でも踏んだのか。

窓の外の景色に目をやる。目の前を同じような崖肌が通り過ぎていく。ついていないことに海は反対側の窓らしい。

アマルフィの街は断崖絶壁と海の間に切り開かれた斜面に、段々畑のように建物が折り重なってできている小さな街らしい。そんな美しい土地だから海や自然になぞらえた神話も数多く残っている…。そう、例えば一つ。

ギリシア神話に登場する英雄、ヘラクレス。彼は最愛の妖精と共に仲良く暮らしていたそうだ。しかしそんな幸せの中、妖精は突然亡くなってしまう。突然の別れに悲しみに暮れたヘラクレスはせめて、妖精が心安らに眠れるよう世界で一番美しい場所を探し、そこに妖精を埋葬しようとした。その結果ある場所にたどりついた。そして妖精の名前を後世に伝えるために彼女を埋葬した後に街を切り開き、妖精の名前をつけた。

アマルフィ と。
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