旅する二人の小説家

夜船 銀

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アメニティ漁り

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アマルフィでは燕先生と私で一部屋ずつホテルの部屋を確保することができた。持ってきた荷物を床に放り出してベットに身を委ねる。正直、アマルフィまでの道のりを舐めていた。バス一本で行けるなんて楽ちんじゃないかと思っていたが、くねくねと曲がりうねった道を5時間も進んでいると軽く車酔いを起こしてしまった。乗り物慣れしているつもりでいたけれど、私もまだまだということだろうか。
ずっとベットに体を沈めていたい気持ちをなんとか抑え込んで上体を起き上がらせ、改めて室内を見回す。自分がいま寝ているシングルベットに小さなテレビと冷蔵庫が備え付けられている。そして窓際に小さなひとりがけの机が置いてある。そういえば、まだシャワールームの方を見ていないけど、面白いアメニティはあるだろうか。ベットから立ち上がり、冷蔵庫を開けてみる。
『お、ラッキー。ウェルカムドリンクにジュースがあるではないか』
ペットボトルの蓋を開け、ジュースを飲んでみる。とてもフルーティーな味がした。味的にはぶどうに近いような気がするけど、他の国のものとは比べ物にならないほど奥深い味がする。
『さすがはヨーロッパ、フルーツが新鮮なんだろうな』
ジュース片手にシャワールームへと向かう。
『さぁ、シャワールームくん。君は私に旅行記にかけそうなネタを提供してくれるのかい?」

そこそこ期待しながらドアを開ける。部屋の造りは普通のホテルとあまり変わらない。トイレとシャワーと洗面台が備え付けられている。だが、私の目的はそこではない!
洗面台に近づいて、一定間隔に並んでいるアメニティを見つめる。歯ブラシ、コップ、歯磨き粉…定番の物が並ぶ中、私のアースアイは見逃さなかった。
『ん?なんだろ、これ』
洗面台から小さな壺のようなものをつまみ上げた。蓋を開けてみると、爽やかなオレンジの香りが漂ってきた。中にはクリームのようなものが詰まっている。
『分かった!これ日焼け止めだ!』
海岸沿いの街ということもあって配慮した結果だろう。

目を閉じる。漂ってくるオレンジの香りを堪能しながら想像に身を任せる。行ったこともないはずなのに海沿いにキラキラ輝くオレンジの段々畑が目に浮かぶようだった。たわわに実るその太陽のようなオレンジの姿を思い浮かべ思わず、ほぅ と幸せなため息をついた。

がめついけど、これだからアメニティ漁りはやめられない。その土地そのものがアメニティという形に濃縮されているのだから。
『今度絶対、アメニティ特集のネタで一本記事書こう。みんなにこのがめつさの良さを伝えたい…そしてこの若干の罪悪感を取り払ってほしい』

新たな野望を抱きつつ、ベルは壺の蓋を閉めた。
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