ニュートンの林檎のアップルパイ

はなえ

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ふと、10年ほど前の記憶がよみがえってくる。
 初めての海外旅行。卒業旅行で訪れた、イタリア。
 5泊7日で、ナポリからミラノまでバスで北上していくという安いパック旅行で、荘厳な教会も美しい街並みも有名な絵も、ごちゃまぜにうっすらとしか思い出せないけれど、初日に訪れたカプリ島の景色だけは今でもはっきりと思いだせる。
 青すぎる空と海、白っぽくてゴツゴツした岩肌。馴染みのない形の木々。
 世界には、こんな場所もあるんだ、と思った。
 明らかに、これまで私が過ごしてきた場所とは空気が違った。
 あの島で、わたしは初めてレモンの木を見た。
 葉のみどりと、その向こうの青空によく映える黄色の実。
 
 学生の頃、何かの授業で梶井基次郎の『檸檬』を読まされた。
 鮮やかな色のレモンを爆弾に見立て、どこかの店に置きっぱなしにして帰る、という話だ。
 その短い小説は、私の心に全く響かなかった。
 どこがいいのか分からない。意味不明だと思った。
 その意味不明な小説を、先生はなんやかんやと意味ありげに説明していたけど、なんだか全て後付けっぽくて、「結局、意味不明なのが文学ってことなのね」と私は私を納得させた。
 なんだか意味ありげのことを書いて、それを有り難がってくれる読者が大勢いるなんて、大文豪は楽でいいよね、なんて。

 でも、カプリ島のレモンを見た時、ふに落ちた。
 太陽のエネルギーをためこんで膨らむレモン。
 そのレモンが爆弾のように爆発する。
 それはきっと爽快だろう。
 スーパーの明々とした照明の下、袋詰めされて他の色んな色の野菜や果物と並んでいるレモンだとピンとこない。
 だけど、あの島で見た色のレモンと、薄暗くてしめった空気の漂う昭和の日本の取り合わせなら。
 考えただけで、胸がすっとする。
 夏の文庫フェアで取り上げられるような作家は、やっぱ偉大だ。
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